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21話

「昨日、何度かやってた放送聞いた?」


 登校していつもの席に着くと前に座るミヤが椅子ごと近づいて来て小声でそんな事を言ってくる。

カイルは声を潜めて言うと同時に頷く。


「あぁ」


「あれは嘘だよ、もう既に1つ国が滅んだ」


 彼女は以前、全ての国を滅ぼすと言っていた。

それがもう始まったのだろう。

だが、その後にカイルと国を作るというような事も言っていた。

やはり、彼女の考える事は彼には理解できない。

それに、彼にももう彼女が正しいのかどうか分からなくなってしまった。

内心がひどく揺れている事を悟らせない様に言った。


「何故そんな事が分かる?」


「そこまでは教えてもらってない」


「そんなに強いのか?」


「君が良く知る、金髪美少女が大活躍してたと言う話だよ」


「ダンテが?」


「単独で上層部を殺しまくって国が機能しなくなった所を組織でドーンと、ね」


 一度戦っている彼にも信じ難い事だったが目の前のミヤも余り信じていない様に見える。


「情報操作を真に受けたとかじゃ」


「ないよ、仮に情報提供があったとして鵜呑みにするなんて有り得ない。 あ、因みに実際情報提供してきた奴はいたらしいけどね」


「それを俺に教えてどうする?」


「本題に入る?」


 何か厄介ごとを押し付けられそうな、嫌な予感がした。

ミヤが面倒そうに笑ったのを見て確信する。


「入らなくて良い」


「そう言う訳にはいかないんだよねぇ」


「クソが、やっぱりか」


「僕らにお仕事だ」


「リュウだったか、あいつがやれよ」


 カイルの言葉にミヤは笑って言う。


「あはは、気持ちは分かるよ」


「お前1人でいけよ」


「グリセリーが実験場に使ってるらしい敷地内に潜入しろって任務だから1人じゃキツイよ」


 確かに厳しいだろう。

そもそも何故するのかと潜入してどうするのかをまだ聞かされていないので意味が分からない。


「第一になんで俺達なんだよ」


「僕らだけじゃない、ノアだって今日違う任務に駆り出されてる。 聞いた話では実験の手伝いらしいね」


「何故お前は今日休んでる?」


「この任務は大変かもだから今日は休んでて良いって言われた」


「2人じゃ無理だろ」


「あ、それなんだけど」


 ミヤは視線をカイルの隣に移す。

彼はもう、それだけで全て理解してしまった。


「お前らも、来るのか」


「うん、手伝いたいなって」


「そ、だからありがとうって言え」


 ユウカとビオスがこの任務に同行するという事らしい。

手伝う必要など全くないのに、友達面してついて来るつもりなのだろう。

死ぬ可能性だって決して0ではない。


「お前ら、バカだろ」


「あ、そうそう、またお前の家行っても良い?」


 カイルの言葉を無視したビオスの何気ない言葉に、少しマズイなと思う。

何故なら、今家にはナナがいるからだ。

彼女を会わせるのは余り宜しくない。


「今は……ダメだ」


「なんで?」


「何かあったのか?」


「あぁ、頭の悪いお前らが来るとちょっとややこしいんだ」

「えーそんな事言うなよチョットだけだって!」


 そう言って食い下がろうとするビオスに、ミヤが提案した。


「あー、あれなら僕の自宅にでも来る? あんまり何もないけど」


「え、良いんですかね、お邪魔しちゃって」


 少し気がひけるようなセリフの割に、目には期待が宿っている。

カイルはこの自分との態度の違いはなんだと思いながら半目でそのやりとりを見る。


「良いよ、期待しないでね」


「マジで良いんですか?」


「その内、結婚相手も決まるだろうけど今は独り暮らしだしねぇ」


 彼の声はカイルには、少し空虚な物に聞こえた。

反対に、答えるビオスの声は嬉しげだった。




「あ、お帰りなさい」


「ただいま」


 この会話にダンテと少し照れながらもこんなやりとりを良くしていたなぁと思い出す。

ナナがカイルの背後を指差して言う。


「その後ろの人は?」


「いねぇよ、幽霊かよ」


 そう言って振り向くと。


「はーい、こんにちは」


 ミヤが何かに納得した様な顔をして立っていた。


「お前……」


「やっぱり、何か隠してたか」


「何でもいい、入れ」


 彼を中に招き入れたのはこのまま追い出すのも扉を開けたまま会話するのも問題だからだ。



「あ、オッケーなんだ」


「早く入れ」


「はいはーい」


「一体どう言う……」


 戸惑うナナを押しながら2人を連れて行く。




 多少のフェイクを混ぜつつ事情を説明し終えると、ミヤが言った。


「それにしても意外と簡単に説明したね」


「ロリコン容疑かけられるよりはマシだろ」


「あ、そっち?」


 2人で話しているとナナが会話に入り込んでくる。


「まあ事実ロリコンですし良いんじゃないんですか?」


「お前やっぱ出て行くか?」


「ほら、この人いっつもこうやって脅すんです」


「大丈夫だよ、多分本心からは思ってないから」


「えー本当ですかね?」


「多分」


 曖昧な答えを返してからミヤはカイルの方を見る、そして言う。


「どうするつもり?」


「決めてない」


「兄さんに報告する訳にもいかないよねぇ」


 それは当たり前だ。

報告すれば彼女から拷問してでも情報を引き出そうとするだろう。

カイルには、今までの反応などから彼女はその手の訓練を受けている可能性が高いと考えていた。

だからこそ、拷問はより厳しい物になる。

間違いなく精神に直接作用する類の拷問になる。

下手をすれば、彼女が時折見せる子供らしい無邪気な表情が消え去ってしまう。


「暫く、ここに住もうかと考えています」


 勝手な宣言に勝手にミヤが頷く。


「それが良いね、カイルの監視はもう余り厳しくない」


「勝手に決めるなよ、あいつが何かしてるのか?」


「兄さんが、というか監視つけてたのは兄さんだし」


「ということは少しは信用してくれてるのか」


「さぁ?」


 どう言った理由だとしても、好都合だった。

彼女の存在が発見されれば間違いなく面倒な事になる。


「さて、そろそろビオスが僕の家を訪ねてくるし帰るよ」


「あぁ」


「また、明日」


「……」


「ミヤさんでしたか、また明日」


「ナナちゃん、カイルに何かされたら僕に言って良いよ」


「ありがとうございます、これで彼も私に何も出来ないでしょう」


「何もしてねぇだろ、このガキが」


 カイルが頭を掴もうとすると避けられる。

避けた当人はしたり顔。

それを見たミヤが笑って、手を振る。


「じゃ、バイバーイ」


「あ、バ痛っ」


 また、笑い声が響く。

それはダンテがいなくなってから、久々に訪れた純粋な笑い声だった。

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