19話
家に帰って、カイルが作った食事に文句を言われてから暫く経った。
「オヤツは2時にお願いします」
「あとごはんはちょっと遅めがいいです」
「ついでに時々で良いので遊んで下さい」
等等、ちょくちょく希望を言ってくる。
「マッサ」
それを遮る。
「図々しいな、お前」
「えー……ケチ」
「悪かったな」
そう言うとナナは頬を膨らませる。
「じゃあ良いです、時折遊んでくれればそれで」
「俺は忙しい、適当にそこら辺で遊んでくれそうな奴を探せ」
「怖い事言いますね、幼い美少女が遊んでと言い回っているといつ連れ去られるか分かったもんじゃないです」
「全く警戒せず人の家に上がり込んで寛いでるやつが今更何を言う?」
同じソファ、カイルの横で座っているナナは彼を見て言った。
「優しーいお兄さんなら遊んでくれてついでにオヤツやマッサージも」
「しない、自分で買って自分でやれ」
「自分でマッサージなんてしても寛げないじゃないですか、お金もないし」
「やっぱお前居候っていう認識ないだろ」
「えーありますよ?」
「なら少しは自重しろよ」
可愛らしい顔を作って、カイルに近付いて上目遣いになる。
「自重はしてるけど、でも少しぐらいは良いんじゃないかなぁって」
「ダメだ」
「ケチ」
拗ねたような顔のまま彼女は続ける。
「今更ですが、あなたは学校に通ってたりしますか?」
「通ってるよ、ここらで一番デカイ学校だ」
あえてわかりやすく言ったが、その必要はなかったとすぐにカイルは悟った。
「あぁ、やっぱりブレイス本家が経営してるとか言うあそこですか」
「子供のくせによく知ってるな」
「その程度さえ知らずにこんなところウロウロしませんよ」
「そう言えば、何故グリセリーはその、こんなところまでお前を追ってくる?」
ナナは思い出したように「あ」と言ってから話す。
「本当にグリセリーかは分かりませんよ、彼らが使う魔法がブレイスが公開してる物とかけ離れていたからそう考えただけです」
そう説明する彼女をカイルは見つめる。
年は11と言っていた。
その歳でブレイスが一般公開している魔法系統をある程度覚えているという事が事実なら相当の秀才であると言える。
非凡である事は彼にも分かっていたが、恐らくは、その予想を超えている。
「やだ、やっぱりロリコン……」
「心配なら外で寝るか?」
「嫌でーす」
カイルは考える。
今までの反応などからブレイスに関わりのある人物だろうとまでは推測していた。
だが、グリセリーにはダンテがいる。
彼女の差し金である可能性も否定出来ない。
少しして、肩にもたれかかってくる。
考えながら眠そうにしているナナを見る。
そして、カイルはその不用心さに敵だと断定出来ない自分が、信じてしまう単純さが嫌になる。
怪しさ満点のその少女に対する優柔不断さが嫌になる。
「あぁ、クソ。 何が正しい……?」
「ふあ……?」
「眠いなら寝ろよ」
「出来たら、寝室に、連れて……行って、下、さい」
体を預ける様に倒れ込んでくる彼女に、言った。
「……寝室1つしかねぇよ」
どうしようかと少し、迷う。
「俺はソファで良いか」
ソファで寝ると決め、小さな体を自室へと運ぶ。
自分の部屋を出る直前に振り向いて、スヤスヤと気持ちよく寝ている彼女に向けて囁く様な声で言った。
「ホント、図々しいなこいつ」
カイルは彼女が寝てから暫くいつもの民間放送を見ていた。
笑顔が可愛いと人気高い女性アナウンサーが真面目な表情で言う。
「えー今朝報告した通り、世間を騒がせていたグリセリーはその勢力を少しずつ縮小させています」
それから、もう心配はないだとかそんな言葉が続く。
疑惑は少し残るが、その報告は嘘ではないと信じやすい物だった。
「全方位に喧嘩売ってりゃ、そうなるよなぁ」
安心と同時に、心配が募る。
その感情を無理矢理誤魔化して座っていた状態から体を横にしてソファに寝転がる。
「寝るか」




