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18話

 帰り道で、カイルは暴漢に襲われていた。

数は多いが実力は低く、魔法もお粗末な物で恐ろしく簡単に撤退していった事から誰かが何かを仕掛けてきているのだろうという結論に至った。

そして、問題はもう一つある。

彼の腰に位置する顔は笑顔で彼を見上げて、言った。


「助けてくれてありがとう」


 最初襲われていたのは小さな黒髪の少女だった。

抵抗出来ないと見てその間に割って入ったのだが。


「お前、大人からなんて言われた?」


 彼はその幼い少女を疑う。

彼女がブレイス、もしくはグリセリーの一員である事を疑う。


「え……?」


「見りゃ分かる、年の割に質の良い魔力が溢れてんだよ」


 そう言うと彼女は表情を消して言う。


「………………よく分かりますね」


 溢れている魔力は微々たる物だ、多分、これなら誰も魔力の質には気付かないだろう。

それが、逆におかしいのだ。

小さな子供が魔力を完全にコントロール出来るわけがない。


「で、目的は?」


 魔法を放てない様に魔力で無理矢理少女の魔力を抑える。

普通の、彼女と同年代の子供であれば、下手をすれば死んでしまうかもしれない、だが彼女なら問題ないとカイルが判断した結果だ。


「苦しいんですけど」


 口ではそう言うが表情は変わっていない。

だが苦しいのは事実だろう。

呼吸が出来ないような閉塞感に苛まれているはずだった。

それに全く表情が歪んでいない辺り、訓練を受けているのはもう確実で、それを理解された事も分かっているはずだ。

そして、そのまま放置しているとその辛さに耐えきれなくなって、言う。


「分かりました分かりました、事情言うから! 言うよ」


 少しだけ緩めてやると、少女がわざとらしく睨みつけながら深呼吸して言った。


「追われてるの、匿ってください」


「誰からだ?」


 カイルには彼女を匿ってやる理由などない。

どちらかの組織が自分をコントロールしようと考えている可能性は思考の中に入れていた。

が、それを逆に利用する事も出来るのではないかと考えていた。


「それは……」


 彼女は言うべきか悩む仕草を見せてから言った。

「多分……グリセリーです」


「そうか」


「だからお願いです、助けて」


 小さな二つの手に手を掴まれる。

そこにはほんの少しの温かみがあった。


「俺に、何のメリットがある?」


 もしもメリットを準備してきているのなら、もう確定だろう。

だが彼女は言いにくそうな顔をして言った。


「ないけど……でも……」


 ひどく辛そうな顔をしていた。

絶望するような、これからの苦難をどう乗り越えていけばいいのかと悩む顔を見せる。


「まあ、良い。 どうせ食費も嵩まないしな」


「本当に……良いんですか?」


 上目遣いで見てくる事に、少し可愛らしいと思う。

容姿は良い。

将来が楽しみに感じられる顔立ちをしている。

もしも彼がロリコンであったなら、という仮定を建てるのは少し怖いが事実はそうではない。

少し眺めていると、彼女が膨らみのない胸元とスカートを手と腕で隠すようにして言った。


「あなた実はロリコンですか」


「どこからそう思ったんだよ」


「笑わないでください、意外と深刻な問題です」


「早く出ていけるようになれば問題ない」


「今の世の中、あなたのように、助けてくれる人なんてほとんどいませんよ」


 カイルはこの寂しげに呟くように発された言葉を何故か、忠告の様に感じた。

それを無視して言った。


「過去に何度襲われた?」


「……本気で危なかったのは、3度ほど」


「研究所とかから逃げ出してきたのか、それとも何かしでかしたのか、聞くつもりはない」


「ありがとうございます」


「だが、俺はお前が邪魔になれば容赦無く切り捨てる。 忘れるなよ」


「はい、十分です」


 真剣な顔で彼女は頷く。


「名前は?」


「名前を聞く時はまず自分から名乗れって習いませんでした?」


「……ガキが」


 彼女はその呟きに笑って、言った。


「ふふ、冗談です」


「ブレイス・カイルだ」


「カイ……え?」


「言ったぞ、名乗れよ」


「本当に……ブレイスの方なんですか?」


「あぁ、だから名のれよ」


「ナナです、あなたと違って家の名はありません」


 それはそうだろうと思う。

カイルの学校は大半の人間が家の名を持っているがそれは地位が高い優秀なエリートばかり集めているからだ。

国民の8割は本来、家の名を持たない。

それどころか明日の暮らしさえ厳しいと言う者も決して少なくない。


「ナナ、俺の家まで案内してやる。 来い」


「あ、エッチな事はしませんから」


「ハッ、誰が幼女に欲情するかよ。 冗談は存在だけにしろよ」


「ちょっとひどすぎません?」


「なら年にあった言動と動作をしろ」


「あはは、お兄さんの下半身の一部すごーい」


「殺すぞ」


「痛いですごめんなさいごめんなさい」


 カイルが頭を掴んで力を入れてやると大人しく謝ってきたので力を抜くと、落ち込んだ様な声で呟く。


「虐待……」


「そうか、虐待が嫌なら1人で頑張れ」


「わー! ごめんなさい許して下さい!」


 これから先、彼の自宅はまた以前とは少し違う形で賑やかになりそうだった。

そして、彼女は、ダンテは、許してくれるだろうか、なんて、思ってしまっている自分に小さく笑ってから、言った。


「時間の無駄だ、帰るぞ」


「はーい」

次話7/10(木曜)夜時間不明

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