後日談
もう一度言いますがこの話は完全に蛇足
それでも良ければ……これが最後の魔法の物語の結末ではないカイルを主人公とした物語の結末です
これは、世界が終わった後の物語。
足元の花を踏みつけるカイルの目の前には、ずっと待ち望んでいたダンテの笑顔があった。
この為だけに、彼は仲間達と共に大きな罪を犯した。
決して許される事がなく、咎められる事のない罪。
彼が決断したせいで、実質同罪を背負った仲間はここで彼女と会っている事を知らない。
「ねぇ、どうかな?」
彼女は人里から離れた花園に小さな小屋を作った。
家の外壁を黒の花弁で埋め尽くし、2人の名前を赤の花弁で表現して名札代わりにした。
屋根はもう既に少し傾いていて、時間が経てばきっと落ちるだろう。
それに対するカイルの評価を気にしているらしい。
「屋根がズレてる」
と言って、昔のように笑い合う。
世界を滅ぼした者とは思えない表情で。
「魔法が使えないからすっごい苦戦したけどこれでも頑張ったんだよ!」
彼女が自作した椅子を叩いて、座るように促す。
それも、同じ様に壊れるかもという恐怖を感じさせる微妙な造りだった。
魔法が全く使えないせいで、何もかもが変わった。
今まで魔法に頼りきりだった彼らは食事の用意1つに手間取ったり、最初に至っては走るという単純な行為さえ最初は苦労した程だ。
そして、魔法を封印したのはカイルだ。
全ての責任を魔法に転化して、身勝手に彼が封じた。
封印は世界の崩壊に対抗する者が一度だけ、破ってしまうが、それを除いては一切破られる事がない。
加えて、当然ではあるが世界も魔法のない世界の形に変わって行くだろう。
それでも、彼らは皆笑っていた。
「この世界は、いつまで続く?」
彼の様に、また誰かが壊してしまうかもしれない。
それは結局のところ、仕方がない。
誰かを誤って殺すと、その家族に恨まれる。
その家族が報復すれば、また恨みが増える。
どれだけ善人が集まり努力しようと負の連鎖は止まらない。
ダンテが狂ったのは世界のせいで、狂った彼女がカイルに決断させた崩壊は、止めようがない事だったのだ。
「少なくとも、私達が生きている間は続くよ。 この世界の人々にはまだ力が無いし、条件を満たせる人がいない」
ダンテが言ったこの世界、それは少し先の未来において地球と呼ばれる。
そしてここが、今まで続いた世界の破壊と創造の終着点でもある。
何度も繰り返し続けた終わりは、彼の代で最後だ。
「本当に、正しかったのか正直今でも俺には分からない。 だけどダンテがいる。 今はそれで十分だ」
「うん、ありがとう」
本当は世界を救うつもりだった。
それなのに、実際は破滅させてしまった。
今更正しい正しくないの考察はもう無意味で、後悔も同様だった。
今更償おうにも、世界と謝るべき存在のどちらもいないのだから当然だ。
「この世界には何があるんだろうな」
「これから少しずつ見て、感じていこうよ」
「あと、しばらくしたら仲間に紹介したい」
ダンテはからかう様な笑みを浮かべて言った。
「なんて紹介するの?」
カイルの顔は対照的に少し強張っている。
彼はこんな状況になったしまった上で自分達の関係が受け入れられるか、怖かった。
「……そうだな、婚約者だって紹介するよ」
そう言うと、純粋な喜びのみに支配された顔をしてくれて彼も同じ様に嬉しかった。
過去を忘れる事が出来なくとも、未来を望む事は出来る。
現在を楽しむ事も。
「あれ? しばらくって事は」
「せめてそれまでは……2人きりでいよう」
結局許されて良いかどうか、ではなくカイルがどうしたいかが最も重要だ。
彼は自分に対して生きる価値はあると、自分で決めた。
仲間達が求めてくれる限り、生きる意味はあると思ったからだ。
ダンテに対しても、そう思う。
例え、大切な世界が滅ぼうとも、彼女は1人しかいない。
だからこそ、今を精一杯生きなければならない。