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最終話

最終話です

決着は一瞬より短い時間でついた。

接近する直前の刹那の内に魔力で伸ばした刃で五度打ち合い、動きを封じようとする雷を全て氷と火を利用して大気に受け流し、接近したカイルは恐らくは、完全にヒトの世界の頂点に立ったリュウという男の急所を斬り裂いた。


 それだけでは、本当の力を持つ者は死ぬことが出来ない。

だが、同じ力を持つカイルは自身のそれをリュウの身体に送り込み、再生機能を封じた。

否、封じようとした。


 しかし、想像を上回る抵抗力で生命を維持する。

それを対処出来ないと悟ったカイルは無慈悲に腕と足を斬り飛ばし、戦闘能力を奪う。

足や腕が元に戻れば胸、胸が戻れば腕や足。

この決して信用してはならないはずの闇の力に抵抗出来なくなるまでそれを続ければ彼の勝ちだ。



 待っていた再生は始まらない。

足や腕が無くとも戦闘は可能だが、自由に動けない相手を無傷で対処する事は難しくない。

だから、最低でも足か腕のどちらかは必要なはずだ。

両手足を失った状態では、一般の兵士相手ならまだしもカイルが相手では距離を取る事さえ不可能だ。


 彼には、その状態は生命の維持に全ての力を注いでいる様に見えた。

何より、これ以上戦闘を続行する意思が見えなかった。


「何故、抵抗しない?」



 苦しそうな声で、彼は言う。


「俺は……やっぱりこの世界の主役じゃないらしい。 カイル、今、言いたい事だけ言う。 聞け」


 と、前置きしてから。



「ブレイスを含む組織と呼べるヒトの集団は全て滅んだ。 たった一人の天才によって、世界は滅んだよ……生き残りはゼロじゃないだろうが、完全に人類の負けだ。 それでも、奴と戦うのか?」


 何故滅んだか、その理由は推測さえ付かない。

数十万を超えるはずの戦力を有し、世界で最高クラスの戦力を持つ今のブレイスをたった三日以内で滅ぼす事が出来る存在など悪魔を含めてもいるはずがない。

人類は世界の裏の支配者である悪魔にさえ対抗出来る力を完成させ、実用段階に入ったはずなのだ。


 それを成し遂げたのは恐らく、彼女だろう。

彼女がやった事は最早、才能や執念では語れない。

今、カイルは仮に世界が終わらなかったとしても伝説に残るであろう復讐の鬼に対抗する覚悟を問われている。

彼は都合良く捉えた期待に応えた。


「あぁ。 最後の最後まで、この想いを貫くと決めたんだ」


 例え、大罪人と誹りを受けようと、その手をどれだけの悪に染めてでも。

あの終焉を呼ぶ魔物を止めてみせると決めてしまった。


 カイルは罵倒を受けても仕方がないと、受け入れるつもりだったが不思議な事に罵倒は無く。


「カイル、俺の立っていた場所が見えるか?」


 その場所は分かりやすい、目を向けると。

そこには明らかにヒトではないナニカがいた。

ピンクと紫で彩られた二枚の羽根が隠そうとする赤黒い胴体らしき部位。

腕はなく、切断された細い触覚が2本。

剣で付けられたらしい凄まじい数の傷から青の液体が溢れている。


 その隣には銀色の細く長く、ヒトの少なく見積もって十倍程の体長の化物が穴だらけの身体を血の池に伏していた。

端が金色に輝く割れた長い三本の爪、それを繋いでいたと思われる金色の切断面を持つ人類の2倍程の巨腕。


「俺は……半分ヒトで、半分悪魔だ。 お前とは違う。 常に俺の心はどこか荒れ狂っていて、冷たくて、暴れ足りないんだ」


 四肢を失っているにも関わらず、生気はまるで失われていないように見えた。

しかし、まだ血は止まっていない。

カイルはもう力の侵食を止めている。

止血は始まっているはずだが、妙にその速度が遅い。


「だが……俺は悪魔にはなれなかったよ。 なら、俺は何だ? ……どっちの血も捨てきれない半端者じゃ、世界は守れない」


 リュウの目が明確な希望を宿して、それはカイルにも伝染して来ているのが彼も分かった。

血だらけのリュウの、恐らくは、心が発した光がカイルの胸に吸い寄せられていく。


「半端者……」


 お前は半端者ではないと言われれば、彼は否定するだろう。

もしも、彼女を救う為に全てを捧げる事が出来たならこんな事態にはなっていない。

救えなかったから、彼女は今も助けを待っている。

過去は、そうだった。

だからこそ、これからの未来だけは違うと誓う。


「お前は違う、だから悪魔にも使えない……俺達だけが持つこの力を渡すよ」


 まるで弟に笑む兄の様な顔をして、彼はそう言った。

すると、橙の朝日と共に、煌めく閃光がカイルを包む。

その輝きが膨張し、やがて収縮を始めると力が入り込んでくるのがよく理解出来る。

その力がどんな効果を持っているのか、彼には解る。


 本来リュウが持っていた命を犠牲にする身体変化の術がカイルに取り込まれると、それは彼の優しい心により変化して、どんな能力よりも理不尽な世界で最も強力だと言える力に成った。


「一度交戦しようとしたがダンテは想像を遥かに超えて強い……どんな手段であれ、今の彼女に対抗出来る存在はお前だけだ」


 腕が少しずつ修復され始める。

今の彼は斬り落とす事など、考えもしなかった。



「リュウ、お前は……」


 これからどうするのかと、彼は問おうとした。


「あぁ、もう俺は助からないよ。 核を失ったからな。 まだ死にはしないだろうが、時間の問題だ」


 それはどうでも良いと言ってから、一度目を閉じる。

それは死を覚悟するための時間だったのか、それとも未来を心配する時間だったのか、確認する事はきっと出来ない。

次に開かれた目は黒く染まっていて。


「カイル!」


 悲鳴が響くと同時にカイルに向けて腕が伸びる。

掌には魔力の塊が生成されて、それが打ち出される。


 狙いは、カイルではなかった。

その後ろにいる、仲間ではない……敵だ。


「く……待て! 私はそこのカイルを!」


 彼を守ったリュウにより、距離を取るように吹き飛ばされる。

いつでも冷静だったはずのシビアという男は今、ひどく焦りを抱えている様だった。

いつも付けている仮面も無く、少なくとも今は仕事に遅れそうな一般人とでも表現出来そうな物だ。


「行け、その先に透明の扉がある。 知覚出来るはずだ」


 足の修復がまだ終わっていないリュウには、シビアという強力な存在に勝つ事は出来ない。

だが、カイルがここで時間を取られ、彼の想いを無駄にしてしまう訳には行かない。


「行きましょう」


「行くしかねぇだろ」


 仲間の声を、彼は正しいと思った。

後ろに引き摺られそうになる想いを、断ち切って前に進んだ。


「右斜め45度、すぐそこにある!」


 これは警告だ。

扉が知覚できていない者に伝えるとかではなく。



 ここから先は、命の保証は出来ない。

もう、誰にも守れない。

戦いが終わって、今まで通りにいられるはずがない。

全員が死んで終わりかもしれない……と。


「行こうか、最後の闘いだ」


 ミヤはいつものように笑う。

こんな状況でいつもと同じ様に若干ふざけたかのような顔をしていられるメンタルには、カイルも敬服しか出来なかった。


 見えない扉を蹴破って、突入した彼らを待っていた光景。



 透き通る白をベースとした、中心の通路だけが黒の空間。

ここに壁はない……様にカイルには思える。

通路の終着点、赤と青が互いに喰らい合う様な形状で半端に混ざり合った巨大な円が描かれている。

その中心に、この世で最も高い知能を持ち、最も高い実力を持つ存在が立っていた。

靡く金の毛の一本一本がオーラを纏い、それだけで圧倒されてしまいそうな程に……強い。

ヒトは誰もが彼女を化け物だと認める。

それだけの事をした。

それでも守りたいのなら、誰かが彼女を止めて、命が続く限り守り抜いてやる必要がある。



 黒を蹴り、ダンテの元へと向かう速度はやはりヒトのものではない。

彼らもまた、化け物だ。

もうヒトと呼べる領域を遥かに超越してしまっている。



 端の赤に辿り着いたカイルは言った。


「ダンテ! お前を助けに来た!」


「……」


 彼女が言葉に答えなくとも、彼は止まらなかった。

全員が赤、もしくは青に辿り着いた時、彼女はようやく言葉を返す。

これから最終決戦というところで嬉しそうな顔が見えた。

まるで、窮地を救われたヒロインの様な目をして笑っている。


「待ってたよ、カイル」


 走りながら、力で刀身を伸長させた魔の剣を低めの位置で構える。

腕力で負けている事は承知の上で上に剣が浮かされるよりは、地面に叩きつけられる方がまだマシだと判断した結果だ。


「世界は、終わらせない!」


 ダンテが動く。

姿が揺れて、視界から身体が消える。

カイルが取れた行動の全てをここに記す。


 剣を1ミリほど引いた。

身体の勢いを僅かに殺した。


 目的を考えればその行動は正しい、だがたったそれだけの事しか出来ない。


 ダンテの行動によって引き起こされた結果全てをここに記す。

ミヤ、胴体を切断され死亡。

ビオス、胴体を切断され死亡。

ユウカ、胴体を切断され死亡。

カイルの剣が斜め上を向いた。


 カイルだけは無傷だ。

そもそも、彼女はまだ彼の元に到達してすらいない。

だが、彼はその到達する瞬間を目で見る事さえ叶わなかった。

新しい力など使う暇がなかった。




 極限まで研ぎ澄ませた感覚が柔い少女の皮膚を裂いた事を理解する。

精神が肉体の感知速度を越え、魔剣が血を吸った事を感知する。

更にほぼ静止しているはずの剣が強者の肉体を食い破った感触を愉しんで。

やがて……絶対に攻撃してはいけない大切な部位、心臓を貫通する。


 カイルは最初、もたれ掛かる感触を信じられなかった。

確かにまだ熱を持った液体が、彼の戦闘服を伝い、下半身にまで届く。

カイルの血に濡れて温かい手が、行き場を失って落ちると同時に、背中に手を回される。


「好きだよ、これから先の未来もずっと」


「え……」


 彼女が心臓を貫かれた程度で死ぬはずはない。

だが、意図しない力の侵食が、何故か止まらない。

闇が浸透する速度が悲しい程に早い。

無力さを実感する事しか出来ないと悟った彼は、絶望さえ抱く事を許されない。


「あなたが最後を決めて。 私との未来を望んでくれるのが嬉しいけど……任せるよ」


 最後。

それが彼女の話ではないと理解出来てしまう。

彼女が、今、知識を与えてくれたから。

そんな魔法があるとカイルは知らなかった。


 だがそれよりも。


「何故……?」



「カイル、結末の迎え方は簡単。 ここで、永遠……の愛を、誓いますって言えば…………」


 言ってしまえば世界の滅びが始まり、世界の再構築に移る。

発動条件は人類の数が全世界で十万人以下になった状態で、世界で最も深い愛を持つカップルのどちらかがこの場所で愛の告白をし、受け入れる事。

彼はそんな世界のシステムを知った。

そのシステムにとって、デシアという力は最適だった。

想いを増幅する力が、互いに作用する。

その想いの名は愛。



「あぁ! 誓う! 永遠の愛を誓う! だから死ぬな! まだ……」


 本当……カイルにはダンテがもうダメだと分かっている。

この世界ではもう救えない。

だから言ってしまった。

世界を対価として救おうとアッサリ決めた。


「ありがとう」


 酷く優しい透き通る声。

それは自身に対する死の宣告でもあった。

開いていた目が閉じて、背中に触れていた手が力無く折れる。

カイルは後ろに倒れ込もうとする彼女を支え、剣を抜き、ゆっくりと倒してやる。

心の動悸はすぐに収まってはくれない。

状況を冷静に見つめようと、ほんの僅か落ち着く為に、非常に長い時間を必要とした。



 それから、長い長い魂の慟哭が響いて。


 後ろを見る。

仲間達のどうあがいても否定出来ない死がそこにある。

赤が優勢となった地の色具合は、きっと、この世で最も美しい光景だ。

主張の激しい濃い青色が血で上塗りされ、それでも尚、その存在を主張している。

親しい友人の生きていた証が映える青。

それをカイルは嬉しいとは思えない。


「結局、何も救えなかった」


 世界を救う事には失敗し、仲間を守り抜くことも叶わなかった。

最初からずっと同じ未来を重ねたいと望んだダンテには、まるで敵わずに敗北した。

全てにおいて彼女の勝利だ。

全ての人類は彼女を賞賛すべきだ。

たった一人で世界を操り、破滅に追い込んだのだから。


 それに、彼女は何一つ悪くない。

話を大きく見れば、悪人などいないのだ。

存在する全ての悪事は仕方がない、と片付ける事しか出来ないだけにどうしようもない。


 全てを救う事など不可能で、偶然救われない存在が彼女だったと、運が悪かっただけの話だ。

だから今世界中で鳴っている悲鳴は恐らくは、神とやらが贈り付けた祝福だ。

世界は生まれ変わる事を祝い合っている。







 やがて、世界の再構築の第一段階が始まる。

それは世界の始まりの種を生む作業。

ちょうど、カイルの頭上にそれはあった。

世界と言うにはまだ小さい光の粒。


 彼は今なら容易に干渉できるその世界の種にある魔法をかける事にした。

今まで一度も使ったことがなく、使われた歴史もなく、様々な想いが強く溢れ、それが力に変換されている今だからこそ発動出来る、莫大な魔力と時間を消費する魔法。



 発動には死んだダンテや仲間が放出している魔力を借りた。

それがこの場で出来るせめてもの手向けだった。

彼らは次の世界に移住する為、魂は生きているが、その眠りはこの世界がある限り終わらないだろう。

何故それが分かるのか、何故そうなるのか、そこまでの知識を彼女はカイルに与えなかった。




 争いの権化である魔法を封じる、本当の意味での最後の魔法。

魔法という力があるから、デシアという力がある。

魔法という力があるから争いは生まれる。

それはただの責任転嫁だ。

だが、それでも間違いなく未来はマシにはなると、未来を、未来の人々を信じて。


 世界で最も強い、怨みに似た優しい想いが集約されて放たれた。

それを好機とばかりに、世界が命の排除を始めた。

今のカイルには、その全てが理解出来る。

彼の行動には関係のない最初から仕組まれていた世界の崩壊だ。

人類では絶対に倒すことが出来ないバケモノが解き放たれた。






 長い涙と静寂の後…………泣いて、叫び疲れたカイルは泣き腫らした目をしてこの世界で最後の責任を果たす為に外に出た。

外に出ると、何処かで見た少女が化け物に襲われていた。

それは人類では倒せない。

だが、人類という枠を越えた者であれば……。


「ナナ……」



 カイルは魔法ではない別の力を使用し通常では考えられない程に加速して、その一方的な暴力の場へ向かった。

この後の彼の行動は……矛盾の連続だった。

後日談が1話のみ続きます(この後すぐ投稿)

はっきり言ってしまえば蛇足な部分なので読む事は勧めません。


なので、作品完結のあとがきはこちらに書かせてもらいます


まずは、更新速度が周りと比べて非常に遅かったにも関わらずお付き合い頂きありがとうございました


初の完結作品になります

この作品はこの結末だけは実は決まっていました。

それ以外は一切のプロット無しで、この後の話と最後の最後のシーンだけを終着点として書きました。

それでも表現力の不足や、話の構成力不足で途中こうしようと考えた案を自分で却下せざるを得なくなったりもしました。

ダンテというヒロインの設定が強すぎてそれに乗じて周りも常に戦争末期状態になったりと色々難しかったです。

前々から何度か次の世界という言葉が出ていましたが、それは続編の裏設定といったところです

それは過去に書ききれず一度諦めた作品で、別作品が挟まる予定ですが今度こそは最後まで書ききりたいと思っています


現時点で予定している別作品

・裏切りの英雄と亡国の姫

因縁のある英雄と姫は、互いにそれぞれの理由で居場所を無くし、出逢い、やがて相手の事に気付くが、二人は過去にない初めての感情を抱えてしまい、何もそれについて言い出せずにそのまま協力関係を維持するが……という感じのストーリー

・魔界転生少女

魔界という人類においての悪が正義とされる世界で頂点に立った魔王と呼ばれた悪魔が少女として生まれ変わり、圧倒的な力を自覚し、自身に恐怖を抱きながらも周囲を守る為に戦う話


このどちらかを少ししたら投稿する予定です

最後の魔法の物語と比べたら比較的雰囲気が軽いです

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