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カラスの春こい

作者: バンズ

あるところに一匹のカラスがいました。


カラスはいつも人間の食べ物をもらっている貧乏なカラスでした。


カラスは毎年、春になると浜辺に行きます。


春になると海の向こうから渡り鳥がやってくるからです。


カラスの真っ黒な体とは反対の、真っ白な体をした渡り鳥たちは、きれいな列を作って海の向こうから飛んできます。


カラスは渡り鳥たちが好きでした。自分とは違ってきれいでおしとやかで美しいからです。


そして、カラスは渡り鳥の中にもお友達がいました。


「カラス君。ごきげんよう」


「ご、ごきげんよう。渡り鳥さん」


カラスはこの渡り鳥の女の子が好きで、話すときはいつも緊張していました。


「今年の春はいつもよりあたたかいわね」


「そ、そうだね。お魚もいっぱいいるでしょ」


カラスはお話しするのがあまり得意ではありませんでしたが、渡り鳥としゃべるときだけは頑張ってお話しました。


「じゃあ、また来年の春に会いましょうね」


そういっていつものように渡り鳥はまた海の向こうに行ってしまいました。


「また会いたいなぁ」


そういってカラスはまたいつものように渡り鳥を待つ間の一年を一生懸命に生きました。


けれども、今年はなかなか春がやってきませんでした。


どんなに待っていても冬が終わりません。


カラスは浜辺にいたカニに聞きました。


「カニ君。なんで今年は渡り鳥たちはやってこないの?」


カニはカラスに向かって言いました。


「カラス君。渡り鳥っていうのはね、春になって暖かくならないとやってこないんだよ」


続けてカラスが聞きました。


「じゃあ、なんで春にならないんだい?」


カニはハサミで看板のほうを指して言いました。


「冬の女王様が塔に住んだままだから、春の女王様が塔に住めないんだよ。だから春が来なくて、ずっと冬のまんまなんだ」


看板には王様が冬の女王様を春の女王様を交替させてほしいというお触れを出していました。そして、交替させたものには褒美を与えるとありました。


「ありがとうカニ君。じゃあ僕が冬の女王様のところへ行ってお願いしてみるよ」


「ご褒美が欲しいの?」


「ご褒美はいらないよ。春を呼ぶだけ」


「そうかい。頑張ってね」


カラスは浜辺を飛び立って冬の女王様のいる塔のところへ向かいました。


女王様の塔はとても高く、たくさんの茨の木に囲まれていました。


人間が茨の木を抜けようと頑張っているのが見えました。


カラスはそんな人間たちには目もくれず、塔のてっぺんへと飛んでいきました。高い塔のてっぺんに女王様の部屋がありました。冬の女王様は部屋の真ん中で一人本を読んでいました。


カラスは窓の外から冬の女王様を呼びました。


「あら、どうしたの?カラスさん」


「ごきげんよう。冬の女王様。今日はお願いがあって来ました」


カラスは外の雪の方を向いて言いました。


「春の女王様と交替してくれませんか?このままでは冬が終わりません」


女王様は悲しそうな顔をして言いました。


「ごめんねカラスさん。それは私にはできないことなの」


そして、外の灯台の方を指さして言いました。


「あそこに灯台があるしょう?あの灯台が光っていないと春の女王を交替してはいけないことになっているの。そういう決まりなの。本当は私もこの塔から出たいのよ」


遠くの方に灯台が見えました。灯台の光は全く光っていません。


「じゃあ、僕が灯台に行ってきて、光をつけるように言ってくるよ」


「ほんとうに!カラスさん。お願いするわ」


女王様の塔と飛び立って、カラスは灯台へ向かっていきました。


カラスは足がかじかんで痛かったけど頑張りました。


灯台はとても大きくててっぺんは丸い形をしていました。


カラスは灯台の中に入って見回してみました。


中は真っ暗で人の気配がありません。


「誰かいませんかぁ」


カラスが声を上げると、建物いっぱいに響き渡りました。


「こっちじゃよう」


灯台の上の方から声がしました。


カラスは羽ばたいて灯台の上へ行ってみました。


すると、窓が一つだけ開いていてそこから外の冷たい空気が中に吹き込んでいるのを見つけました。


「こっちじゃよ。こっちこっち」


声はその窓の外からカラスの事を呼びました。


カラスが窓の音に出て辺りを見回すと丸い屋根の上に一人のおじいさんが座っていました。


おじいさんはカラスの方を見ず、ずっと遠くの雪雲を眺めていました。


「こんなところで何をしているんですか?」


カラスがおじいさんに聞くとカラスの方は見ずに体をぶるると震わせて言いました。


「ここでサンタたちが来るのをずっと待ってるんじゃよ」


「なんでサンタさんを待っているんですか?」


「わしはここの灯台の番をしているんじゃが、毎年雪の降る時期にサンタがここに来たら灯台の灯りを付けるんじゃよ」


「勝手につけたらだめなんですか?冬の女王様が灯台がつかないと春の女王様と交替できないんです」


「そういわれてもなぁ。毎年のきまりだからなぁ。わしも本当はここから降りてゆっくりしたいんだよ」


カラスはずっと外にいるおじいさんがかわいそうに思いました。


「じゃあ僕がサンタさんのところに行ってきて、何で来ないのか聞いて来ますよ」


「本当かい!そりゃあ助かる。お願いするよ」


灯台を飛び立ってカラスはサンタのいる家へ向かっていきました。


カラスは吹雪が強くて寒さでゆっくりしか羽が動かせませんでしたが頑張りました。


サンタの家は木でできた大きな家で窓には暖かい色の光が見えました。


―――どんっ!どん!


「サンタさんいますかぁ!」


カラスが家のドアを叩くとしばらくしてサンタが扉を開けてくれました。


「こんにちはサンタさん。」


「おお。カラス君凍えてるじゃないか。さ、中に入りなさい」


サンタはカラスを家の中に入れ、カラスを暖炉の近くに招きました。


カラスはとても暖かくて気持ちよかったですが、暖炉の火は少し苦手でした。


「こんなところにどうしたんだいカラス君」


サンタが暖炉に一番近い椅子にどかっと座りカラスに聞きました。


「サンタさん。灯台のおじいさんのところには行きましたか?」


カラスが聞くとサンタはちょっと困った顔をしました。


「行っておらんよ」


サンタは立ち上がりテーブルに置いてあった一枚の紙を持ってきました。


「この間王様から今年のサンタの仕事はあげるお金を減らすという手紙があったんじゃ」


サンタが持ってきた手紙を見ると、そこには王様がサンタに毎年働いたお礼にあげているお金を減らすと書いてありました。


「わしの仕事は年に一回しかないじゃろ?だからその時にもらえるお金を減らされると一年間生活することができなくなってしまうんじゃよ」


サンタはまた椅子に座り込みココアを少し飲みました。


「だから王様に何とかしてくれないかと手紙を出しているんじゃが、全然返事が返ってこんのじゃよ」


「手紙が返ってくるのは待たなきゃダメ?」


カラスは暖炉から離れてサンタの近くにひょこひょこと近づきました。


「王様の返事を待たなきゃあ勝手に仕事に行っちゃうと怒られるかもしれないからダメなんだよ。ほんとはわしも早くプレゼントを皆に配りたいんだけど、決まりだからねぇ」


カラスは雪で濡れて重くなった羽を気にして体をバサバサと震わせました。


「じゃあ僕が王様のところへ行ってきてサンタさんの事を話してきてあげるよ」


「ほんとうか!それはありがたいことだ。お願いしていいかな」


カラスはサンタの家を飛び立って王様の城へと向かいました。


サンタの家が暖かかったので急に外に出たカラスはちょっと頭が痛かったけど頑張りました。


王様の城はとても大きく下にはたくさんの街が見えましたが、辺り一帯雪が積もっていて人はあんまりいませんでした。


お城の中を覗いてみると窓から王様が一人悩んでいるのが見えました。


―――ばん、ばん。


カラスが窓を叩くと王様が気づいて窓を開けてくれました。


「おや、カラスじゃないか。こんなところに来てどうしたんだい」


カラスは自分の羽に降り積もった雪を掃いながら言いました。


「王様。こんにちは。サンタさんからの手紙は届いていますか?」


すると王様はちょっといやそうな顔をしました。


「あ、ああ。見たよ。それがどうしたんだい?」


カラスが王様の机を見ると、そこにはサンタが送ったであろう手紙が置いてありました。


他にもたくさんの手紙が机に広がっていました。全部王様あてみたいです。


「サンタさんが仕事に行けなくて困っているみたいなんです。早く手紙を返してあげられませんか?」


「それは無理なんだ」


王様はカラスに背を向けてきっぱりと言いました。


カラスは皆無理だと言うから、そろそろうんざりしていました。


「それは私ひとりじゃ決められないんだよ。大臣たちと話し合わなきゃいけないし、それに今は冬が終わらないから全然食べ物も取れなくてそれどころじゃないんだよ。本当はサンタにもよくしてあげたいんだが、決まりだか・・・」


王様が振り向くとそこにはもうカラスの姿はありませんでした。


カラスは王様の言葉にうんざりして王様のところを出てサンタの家に向かっていました。


「皆決まり決まりって言って人のせい。これじゃあいつまで経っても春が来ないよ」


カラスは吹雪の中を飛びました。雪が重たくて、足がかじかんで、頭は痛かったけど飛びました。


早く渡り鳥たちに来てほしかったカラスは全部自分でやりました。


「サンタさぁん。カラスです!開けてください!」


サンタの家の前に来たカラスは大きな声でサンタを呼びました。


「おお、カラス君か。早かったね。で、どうだったんだい?」


カラスはへとへとになった声で言いました。


「王様が前と同じようにお金あげるって言ってたよ。だから仕事行ってきて大丈夫」


カラスは嘘つき。


「おお!ほんとうか!ありがとうカラス君!すぐにプレゼントを配ってくるよ」


サンタは大急ぎで家を出てそりに乗って行ってしまいました。


これでサンタは灯台のおじさんのところに行けます。


けど、カラスは嘘つき。


これで灯台のおじさんは灯台を光らせることができます。


けど、カラスは嘘つき。


これで灯台の光を見た冬の女王様は春の女王様と塔を交替できます。


けど、カラスは噓つき。


これで春がやってきて渡り鳥たちがやって来ます。


けど、カラスは・・・・・・。









長い冬が終わって春がやって来ました。


カラスはいつものように浜辺で渡り鳥たちを待ちました。


「早く来ないかな。楽しみだな」


カラスは楽しみでずっと眠れませんでした。


渡り鳥に会えると思うと緊張してきました。


「カラス君見つけたよ」


後ろの方で聞いたことのある声がしました。


振り向くとそこにはサンタが立っていました。


「こんにちは、サンタさん。どうしたの?」


「君は噓をついたね。王様は前と同じようにするなんて言っていないって言ってたよ」


カラスは頷きました。


「うん。そうだよ」


「なんで嘘なんかついたんだい。これじゃあわしは生活できないぞ」


サンタは怒っています。無理もありません。カラスが言ったのは真っ赤な噓なんですから。


「そのことなら大丈夫。ちょっと忙しいところだったけど、サンタさんのためにも先に王様のところに行こうか」


「王様はどうにもできないとしか言ってなかったぞ」


「大丈夫。大丈夫」


カラスはサンタと一緒に王様のお城まで行きました。



カラスは王様のところに行くのに全く怖気づいていませんでした。


カラスとサンタは王様の城に入って王様のいるところまで案内されました。


「カラス。お前はサンタに嘘をついたそうだな。おかげで大変なことになっているんだぞ」


王様もカラスにカンカンに怒っていました。


カラスはそれでも平気な顔をしています。


「どう責任とってくれるんだ。カラス!」


王様は遂に怒鳴り散らしてしまいました。


「嘘はついてませんよ王様。だって春を呼んだのは僕なんですから」


そこにいた全員が驚きました。


「なんだって?」


王様が聞き返すとカラスは自慢げに話しだしました。


「僕は冬の女王様を春の女王様と交替させるために一人で飛び回りました」


そして、カラスは今までの事を全部話して王様を納得させました。


「確か王様は春を呼んだものには褒美を与えるという看板を出していましたよね」


カラスが尋ねると王様は弱った顔をしました。


「確かにそんなおふれ出したが、それがどうしたんだ」


「その褒美は僕がもらえるんですよね」


カラスがそう言うと王様はもっと弱った顔をしました。


「そ、そうだが」


「じゃあその褒美はそのままサンタさんにあげてください」


「なんだって!!」


王様は立ち上がって大声を上げてしまいました。


サンタも驚いて口を開けたままカラスの事を見ています。


「これでお金は大丈夫だねサンタさん」


「そ、そうだけどカラス君はそれでいいのかい?」


「うん。もともと褒美には興味がなかったからね」


王様はカラスにしてやられてしまい、その場に座り込んでしまいました。


カラスは王様に向かって胸を張って言いました。


「王様は来年ちゃんとサンタさんの事も考えてくださいね。じゃないとまた冬が長くなりますよ」


カラスは王様に褒美をもらうと、そのままサンタに渡して、サンタと仲良く城をあとにしました。










「聞いたわよカラスさん。春を呼んだそうね。」


渡り鳥のお友達がカラスに言いました。


渡り鳥はいつものように浜辺にやってきて魚を食べていました。


カラスは緊張して食べていた魚をこぼしてしまいました。


「どこでそんなこと聞いたんだい」


カラスは顔を真っ赤にして下を向いてしまいました。


「渡り鳥はうわさが広まるのが早いのよ。すごいじゃない、そんなことをしたなんて」


「ありがとう。なんか照れるな」


そう言ったカラスはなんだか恥ずかしい気持ちになりました。カラスにとっては最高のご褒美になりました。



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