それぞれの想い3
ざざん……ざざん……。何度でも繰り返される波しぶき……。
私、須藤真由美は弟の鎮魂の為に、今日は浜辺に来ている。
ざざん……ざざん……。私の気持ちを知ってか、知らずか海は波しぶきを跳ね上げる……。
海の側で生まれ育った私達は、真冬以外は浜辺が遊び場だった。その為いつも真っ黒に日焼けをしていた。
近所の子達と泳いだり、打ち上げられた貝殻や流木を拾ったり、砂のお城を作ったり……。
海はいつでもそこにあって太陽の光をキラキラと反射させながら、はしゃぎ回る私達を見守ってくれていた。
中学生くらいになると、テレビのニュースや周りの大人達の会話が聞くともなしに耳に入ってくる。不景気、不況といった単語を頻繁に聞いた。家の空気が重く苦しかった。
そんなときは弟が海への散歩を誘ってくれた。自転車にラジカセをくくり付けて押しながら歩き、夜の浜辺で星空を見上げて弟のお薦めの洋楽を聴いたものだった。
弟とその友人達が釣りにはまり出したのもその頃だ。今思えば、それは家計を助ける為だったのかもしれない。釣りを始めた弟達は5キロほど離れた漁港へ行き、漁師のおじさん達の手伝いをしながら釣りの手ほどきを受けたり、ポイントを教えてもらったりと可愛がって貰ってた様で、時おり魚介類を持ち帰って来た。
弟はおじさんから漁師に誘われ、海の男になった。友人達は海を職業には選ばなかったが、弟は本当に海が好きだったのだろう……。
その日、弟は10年ぶりの同窓会に出かけた。中学を卒業してからは約30年が経っていた。珍しく当時仲良かったメンツが揃う、と嬉しそうに笑っていた。
楽しかったに違いない。だから飲み過ぎたのだろう。普段泥酔するほど飲むことも無いし、酔って桟橋に行くことも無いのだけれど、調子に乗った仲間に押しきられ千鳥足で出向いたらしかった。
そして、波を眺めて目の回った友人が海に落ちた。慌てる仲間達の耳に、大きな水しぶきの音が続けて聞こえてきた。最初に落ちた仲間と、助けに飛び込んだ弟は……。少しくらいの酒だったら溺れることは無かっただろうし、弟一人だったら浜へ帰って来れた筈だ。……いや、……そんな事は分からないけれど。
弟よ……、いつも周りを気遣っていた優しい弟よ。今でも海に御霊を抱かれているのだろうか。彼の愛した海に……。
波は今日も優しく、海の唄を歌う……。