それぞれの想い2
あれから私は娘を家に連れ戻した。孫が九つという幼さで電車事故で他界してしまってから……。
轢死の孫は解剖されて死因を調べられる事は無かった。だが祖母の私には分かる。孫は自殺したんだ、娘の折檻から逃れる為に。きっと遺体にはその爪痕が残されていたに違いない。
どうしてそんな事を確信してるかというと、娘が孫にしたであろう事は元々私が娘にしてた事だからだ。
虐待の連鎖って言葉を知ったのはつい最近だ。テレビのワイドショーでやっていた。……でも、言わせて欲しい、昔は虐待なんか当たり前だった。
先の大戦後、親の居ない子供がどれだけこの国にいた事だろう。……当時、既に大人だった人でさえ生き抜くのが大変だった時代だ。ならば子供は……。
メディアに流れる戦争の体験話なんて、ほんの一部だ。それも美談の方が多い。当たり前だ、本当にしんどい生き方をせざるを得なかった者達は、皆死んでしまったんだから。
誰もが愛する人を失い、食べる物も、雨風を凌ぐ為の物も無かった。そんな状況でも略奪する者はした。鬼の様な所業はあちらこちらで起こっていたのだ。そんな時代だ。綺麗ごとじゃ生き抜け無かった。
ならば、生きて、生き抜いて、……こうして小さくても持ち家に住み、明日のご飯に悩む事の無い生活が出来てるのは幸せな事なのだろう、そう思う。
……私が娘にした事は許されない事だったのかもしれない。けれど私は、私が子供だった頃に見た周りの大人達の、子供の扱い方を真似しただけだ。誰もが心を無くして、ただ生き残る為に暴力的になってしまった。
私は私の生き方に疑問を持った事なんて無かった。孫が亡くなる迄は……。
誠也……、あなたが辛い目にあったのは、間違いなく私のせいだ。ひいては戦争のせいだ。戦争が無かったら普通の祖母と母と孫として、仲良く暮らせただろう……。もう一度、あなたのお母さん……娘とやり直してみようと思う。それで私の罪が消えて無くなる訳ではないけれど……。