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演劇部員なスタッフ達


 舟は進み、周りの景色が様変わりしてきた。次第に山や木立が多くなってきた。最初は月明かりで見えていた川面も、徐々に闇に紛れ、何だか平衡感覚が失われてとても気分が悪かった。



 緩かなカーブを過ぎると、突然大きな門が現れた。


「こちらで舟を降りて頂きます」


 門は岩盤の様な物で出来ており、舟が近付くと重そうに観音開きに開いた。急に周りが明るくなってホッとする半面、いよいよ何かが始まると思うと動揺して、舟を降りるときにまたもや転んでしまった。彼は笑いを堪えながら手を貸してくれる。


「いらっしゃいませ、お客様ぁ。お怪我はございませんでしょうかぁ?」


 頭上から可愛い声が降って来た。


「あ、大丈夫です、お邪魔します」


 条件反射で返答したが、何かオカシイ。いらっしゃいませって……。

 声のした方を見ると、生前(多分)テレビで見たバニーガールの小悪魔版といった格好の女の子がニッコリしていた。黒のふわりとしたミニスカに黒いロングブーツ。頭のカチューシャに長くて黒い矢印が付いていて、それが彼女が動く度にみょんみょんと揺れ動く。


「こちら、整理券となっておりまーす。無くさないよう、お願いしまーす」


「せ、整理券? ですか」


 アルファベットと数字が印字された、茶色いカードを渡される。


「こちらのドアを通りまして、そのままお進み頂きますと、左側に大きな扉がございます。ノック等必要ございませんので、中に入ってお待ち下さーい」


 語尾を伸ばしつつ半音上がる話し方を聞いていると、ここが何処か忘れそうになる。とても変な気分だ。


「ノゾミさん、行きましょうか?」


「あ、はい」


 とりあえず死神さんは、まだ一緒にいてくれるみたいだ。知らない場所では、少しでも知っている人がいると不安が和らぐ。ま、彼とも知り合ったばかりなんだけど……。



 扉を開くと僕と同じ立場の人達が大勢いた。皆これから何が起こるのかと、疑心暗鬼になっているようだった。手にはそれぞれの色の整理券を持っている。


 広間の様な部屋の中央が一段高くなっていて、円形の劇場の舞台みたいだと思った。そこへ、いかにも死神のボスといった感じの男が現れた。(といっても黒スーツなのは一緒。Yシャツは光沢のあるグレー、黒い山高帽子を被っていた)彼はわざとらしく咳払いをし、マイクを握った。(それにしても、死神さん達は演劇が好きなのだろうか?)


「レディース&ジェントルメン!! ようこそお出で下さいました!!」


 あまりの言いように、一気にざわつく観客達。……いや、死者か。そんな周りの反応をスルーして、ボスは話を続ける。


「皆様を最後の審判へお連れする前に、私から一つお話がございます。……見ての通り現在ここ死者の国は、たいそう混み合っております。それと言いますのも、皆様が今までおられた地上の世界が、様々な要因が重なりあって大変な混乱期に入っているからです」


 いつの間にか話に引込まれた死者達は、ある者は深く頷き、また、ある者は次に何を話すのかとボスを直視している。


地上(アチラ)がそんな状態の為か、せっかく此処(コチラ)でお気持ちの整理等をして地上の世界へ転生しても、又直ぐ此処へ戻って来てしまうケースもございます」


 皆息を飲んだり、知らない者同士顔を見合せたり、頭を抱えたりして、ボスの次の言葉を待っている。


私共(わたくしども)死者の国のスタッフは考えました。私共の仕事は、皆様の傷ついた魂が癒されより良い転生が出来るようお手伝いをする事。しかしながらこのままマニュアル通りの事をするだけでは、いつまでもこの状況は変わらないのではないか?と」


 ふ、隣にいる死神さんを見上げると、紅潮した顔でボスを見上げ(ボスのセリフに酔ってる?)、腕を組みウンウンと(うなづ)いている。


「そして、私共は(ひらめ)きました。皆様を次のステップの場に案内する前に、心の奥にある『悔いを無くす旅』をして頂こう、と」


 演劇だったら盛り上がるシーンであろう。だが盛り上がってるのは彼ら、……死者の国のスタッフで、僕たち観客である死者達はポカーン状態だった。


 そんな死者達を見ながらボスは話を続ける。


「先程お渡しした整理券はお手元にございますでしょうか? ……それを良くご覧下さい。カードの色は種類がございますが、それは置いといて、アルファベットと数字でグループになって頂きます。そこへ私共のスタッフが一人、担当に就きます」


 僕の隣の死神さんの目が、キラリと光った様な気がした。


「詳しい説明と注意事項はその者がします。それぞれのグループでディスカッションして下さい。旅をして頂くのはその後です。では、コングラッチュレーション!!」


 ……生前の記憶を持たない僕にとって、厄介な事が起きようとしていることだけは理解した。




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