緊急事態発生!
申し訳ありません。
天文や気象等、理科にお詳しい方には、お叱りを受けるかもしれない内容です。一応調べまくった事に、自分なりの見解を肉付けした形なのですが…。
どうか、気に入らなくてもお許し下さい。
「いっ、なっ、何が!?」
「落ち着きなさいよ、待ってれば分かる事でしょ?」
上原さんに言われたけど、そう言われても前触れの無い大音量の放送と、死神さんのボスの台詞に落ち着いていられる物だろうか? と思う。
今までどこかひょうひょうとした態度だった夜見も、険しい表情で忙しなくタブレットを操作している。他の死神さん達と連絡を取り合っているのだろうか?
そこへ『ブツッ』という音がして、またもやボスの声が響き渡る。
『死神諸君! 今から流す放送に必ず注目する様に! 繰り返す、死神諸君に告げる、今から……』
眉間に皺を寄せて夜見が画面にもなる窓を見据える。上原さんと僕もそちらを見た。すると、あの穏やかな林の景色が輪郭を薄めていき、やがて真っ暗になった。楽しげに聞こえていた鳥のさえずりも止まる。
暗くなったのはほんの数分だと思う。だが時間が経つのが長く感じた。
やがて幾つかの小さな白っぽい光が見え始め、画面が黒と紺の間の色をしている事に気付いた。
「これは、宇宙?」
僕が呟くと夜見が頷いた。
どうやら光は星の様である。徐々に星の数が増え、赤や黄色やオレンジの光もあることが分かって来た。そして画面の中央に暗い緑色の、不気味な星が浮かび上がった……。
「これは、……」
食い入る様に眺めていた夜見の指がタブレットの上で固まる。そのとき、又もボスの放送が始まった。
『あー、死神諸君。今、影像を見て貰えていると思う。……この通り、巨大惑星が光速で地球に近付いて来ている! そのスピードは現代人の観測技術を以てしても、一部の宇宙研究者にしかまだ発見されていない。彼らからは仮の名前として《惑星Ω(オメガ)》又はニビルと隠語で呼ばれている。惑星Ωが太陽系を通過する際に、太陽活動が活発になり太陽フレアが起こる。その後、太陽活動は衰退すると推測されている。考えられる地球への影響だが、今のところ気温の上昇による更なる温暖化。大気圏に穴が開く可能性も考慮されているが、その場合、穴から宇宙線が降ってくると思われる。それにより生物は被曝する模様。それから、地球と月の軌道上を通過するとみられ、その衝撃波により、地球及び月の軌道に影響を与える可能性も懸念されている。なお、太陽系内に突入するのは、20ZZ年11月頃であると考えられているが、我々の特殊能力者である《先見者》達によれば、それよりも3ヶ月以上早い、という話だ。……以上!』
「なんか、頭がパンクしそうなのですが」
放送が終わった様なので思わず呟いてしまった。
上原さんが両手を大げさに広げて言った。
「今以上の温暖化なんて耐えられないわ。被曝の話も。死んでて良かったかも。……夜見、地球と月の軌道への影響って何?」
夜見が再びタブレットを弄り始めながら話をする。
「月の重力が地球に影響を与えているのはご存知ですか?」
「潮の満ち引きくらいなら」
上原さんが答える。僕は聞き役に徹する事にした。
「それ以外にもバイオリズムや犯罪率等といったの話もありますが、……ま、コチラはひとまず置いておきましょう。……地球の海水量は陸地に対して70%だと言われています。月の重力で潮の満ち引きが起こる、と考えられていますから、月の軌道が変われば満ち引きどころか暖流や寒流にも影響が出て、海の生物の環境にも変化が起きると思われます。……それに暖流と寒流は高気圧・低気圧といった大気の流れとも無関係ではありません。大型台風、あるいは干ばつ等の異常気象が引き起こされる可能性もあるわけです。それらの結果……、そうですね、食物連鎖の崩れや新たなる細菌の発生等、世界規模で未知の問題が起きると思われます。……ここまでご理解頂けましたか?」
僕は首を縦に振った。上原さんは呟く様に言った。
「……とんでもないわね」
夜見は頷くと話を進めた。
「それから地球の軌道がずれた場合ですが、分かりやすいのは気温と時間ですね。気温は想像出来ると思いますので時間について説明します。ほんの数センチ太陽から遠のいたり逆に近付いたりするだけで、凡そ365日間で太陽を一周のリズムに誤差を生じさせます。ほんの少しの狂いがどの程度の余波を与えるか……。季節がずれ植物の実りの時期がずれる。当然動物にも影響は出るでしょう。魚介類もそれぞれの産卵期が歪むと思われます。これらが意味するのは、……そうですね、ある時は特定の生物の大量発生であり、逆に食糧難や貧困といったことも起こるかもしれません。……今までにもありましたね、イナゴの大群が稲を食いつくす、あるいはクラゲの大量発生等。こういった事が次々とニュースにのぼる事でしょう」
僕は何も言えなかった。上原さんも顔がひきつっている。
「そんな事って。……以前からこういうニュースってあったじゃない? 隕石が落ちるとかって。でも結局大気圏で燃え尽きたり途中で軌道が変わったりして衝突することは無かったでしょ? だから、だから……」
「そうですね。……軌道を変えるのも我々の仕事ですから」
僕達は驚いて夜見の顔を見た。いつものひょうひょうとした表情に戻った夜見と目が合う。
「まあ今回は、……今までで最悪の仕事になりそうですけどね」
夜見は口の片端を上げて、ニヤリと笑った。




