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僕と死神さん


 そのとき僕は死んでいた。死の瞬間をハッキリと覚えている訳では無かったが。


 いつの間にか、暗い川沿いの道を歩いていた。湿った土や草の匂い。水の流れる音がしていた。不思議と嫌な感じはしなかった。


 そしたら、黒いオシャレスーツを着た男が現れて僕にこう言ったんだ。


「サトウ ノゾミさん、ですね? 14歳、男性の」


僕は(おかしな言い方だなぁ)と思いつつも、何だか納得しちゃったんだ。


「そういうあなたは、死神さんですよね?」


「おっと人聞きの悪い。あの世の水先案内人、と呼んで頂きましょうか?」


「どう違うんですか?」


「あんまり変わりませんけどね。」


 彼は唇の片端を上げてニヤリと笑った。


「まあ立ち話もなんですから、とりあえず行きましょうか?」


 彼はひょろ長い腕を芝居がかった仕種で広げた。すると彼の背後の川辺に、いつからあったのか小舟が見えた。


「これで行くんですか?」


 軽く頷いた彼はひらりと舟に飛び乗った。僕も慌てて真似をしたが、上手くへりを飛び越えられずに足をぶつけ、舟の中へ転んでしまった。彼は背を向け声を殺して笑っている。


 と、川の中で何か跳ねる音がした。


「失礼」


 素早く振り返った彼は何処から出したのか、長い柄の付いたあの鎌をいきなり真横に払った。僕の耳のすぐ脇で「ぐおおっ」とも「ぎょええ」とも取れる不気味な声がした。急いで声のした方を見ると、ヌメリのありそうな黒くて長い何かが水の中へ落ちていくところが見えた。派手な音がし、水しぶきが飛ぶ。


「なっ、なっ、なっ!?」


 僕の悲鳴にも言葉にもならない声に対し、彼はつまらなさそうに返答した。


「ああ、お気に為さらず。アイツに喰われると転生出来なくなる、それだけの事ですので」


「はっ!?」


 僕は聞き返したかったが、彼は本業(僕をしかるべき所へ送り届ける)とは関係ない事を語る必要は無い、といった態度だったので、ここではどんな事が起きても当たり前の事として受け流した方が良いのだ、と判断した。この考え方は正解だったようで、後に起こったいろんな事も一々考え込まずにすんだ。




 しばらく川を下った頃、彼が話しかけて来た。


「すみません、最初に確認しなくてはいけない事があったのですが」


「はい?」


「ご自身の死因って、覚えていらっしゃいます?」


「死因ですか」


 突然話を振られ焦ってしまった。それは、ここに着いてからぼんやりと頭の隅で考えていたことだった。


 目を閉じ、舟に乗る前の道を後ろ向きで遡る。つまり記憶の逆再生だ。……しかし僕の頭の中の映像は、いつまでたっても暗い川沿いの道を歩いているだけだった。


「すみません、ここに来る前に何処にいたのか分かりません」


 言いながら僕は焦っていた。《佐藤さとう のぞみ》という名前、これにはスゴイ自信があるのにそれまでの自分の軌跡が全く思い出せない。何処で産まれた? 両親の顔? 兄弟の有無? 学校の名前? 親友や友人? 好きな科目と嫌いな科目? いつも考えていたかもしれない悩み事? 将来の希望とそれに対する努力? そして好きな人はいたのか? 僕は、……どうして、どうやって死んだのか?


 そんな僕の様子を見ていた彼は、肩をすくめた。


「お気に為さらず。稀にあることです。……ただ死因をお話し頂きますと、(ここで、またもや何処からかタブレットの様な物を出した。さっきの鎌はいつの間にか消えている)そのお話に間違いがなければここに記載されたノゾミさんのデータが光って本人確認が出来る、という、こちらの事情なだけですので」


 拍子抜けしてしまったが、気分が落ち着く事は無かった。(そのデータを見せてくれれば何か思い出すかも、とは思ったが多分無理だろうと諦めた)


 舟は音も無く水上を滑り出した。言葉は丁寧だけれど掴み所の無い水先案内人と、不安感ばかりの僕を乗せて……。




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