第61話<一攫千金・・・したい>
落ち葉が日に日に増え始めて、素肌に当たる風は冷たく、日照時間が少なくなってきたな〜、とかを思ったりし始めている。
俺はポケットに両手を突っ込んで、時折肩を寒さでぶるっと震わせながら、とある八百屋さんを目指している。
くっそ〜、何でこんな朝早くから買い出しにいかなきゃなんねーんだよ。
そろそろ、金銭的にきつくなってきたっていうことなのか・・・?
俺が買い出しに行かされている理由は、単純明快、宇宙の始まりなんかを考え始めると糞の様にしか思えなくなるほど簡単な理由だ。
・・・聞いて驚け!この異世界にも、特売セールなるものがやっているのだ。
そして俺は、ジャンケンをして華麗に一人負けを叩き出して、潔くこんな朝早くから買い出しをしているわけである。パシられているわけじゃないからな。
目的である八百屋がようやく目に入った時、驚きと焦りのあまり、八百屋に向かって急いで駆け出した。
うそ、だろ。こんな朝早くから行列が出来上がっちまってるなんて。しかも、全員男達だ。こっちの世界でも、女の人の方が強いのか。
俺はなんとか現在最後尾である地点に、入り込んで並ぶ。
「こんな朝早くから走るはめになるなんて」
こりゃあれだな、そろそろ本気で冒険者家業に力を入れないとな。そして、一攫千金を手に入れて、こんな庶民的な暮らしとおさらばしなければ。
じゃないと、毎回俺が朝早くから買い出しに行くはめになりそうだもん。
行列はスムーズに進んでいき、もう少しで俺の番が回ってきそうな勢いだ。
やけに速いな。こっちの男達は、行動が速いのか。
なんて事を思いながら、現在先頭に位置する男を見ると、速いスピードで注文するやいなや、あっという間に会計を済ませてお釣りも確認せずに、肩をぶるっと震わせながら、走って帰って行っていた。
・・・やっぱり、寒さが原因ですか。
冷たい風が俺の露出している皮膚に刺さり、俺は全身をぶるっと震わせて、鼻をズルズルとする。
ああ、寒い!もう、冬かよ。寒いから、冬は嫌なんだよな。
冬と言えば!と聞かれれば、クリスマス!と答える人は少なくないだろう。
一年のうちのたったの一日しかろくに働かない、白い髭を沢山生やして、暖かそうな赤と白の服を着ている、年齢不詳のどっかのお爺さんが働く唯一の日、それがクリスマスである。
本当は、イエスキリストのなんかの日なんだけど。
それでも、そのお爺さんはそんなことを気にもしないで、トナカイ達にビシバシと激しくムチを打ちつけまくって、良い子の子供達にプレゼントを送り届ける日だと親から教わりました。
が、現実は甘くなかった。
クリスマスの次の日友達と遊ぶ事になって、純粋だった俺は枕元に置いてあったプレゼントを、一刻も早く友達に見せつけたい気持ちでいっぱいになっていた。
そして、いざ遊ぶとなると、お互いに貰ったプレゼントを見せ合う事になって、友達が先にプレゼントを見せてきて、それは俺が貰ったのと同じピッカピッカの新品のゲーム機だったのだが、・・・その時だったな、俺が中古という言葉と、サンタが誰なのかを知ってしまった時は。
とはいえ、今はそんな昔のことはどうでもいいのだ。
クリスマスと言えば、今の俺の年頃ぐらいになると、リア充どもがキャーキャー、わっしょいわっしょいと、言いながら過ごす憎い日なのである。
カップル達はようござんすねー。どうせあれでしょ、二人で並びながらイルミネーションとかを見ながら、キスとかしまくるんでしょ。なんで不埒な!
そんな憎いカップルどもは、男か女のどちらかが羽目を外し過ぎて、乱行パーティーをしまくりまくって、別れちまえばいいのに。それか、テクノのブレイクしてしまえばいいのに。
俺がそんなことを考えていると。
「あのー、お客さん?ご注文は?」
八百屋の亭主が俺にそう言ってきた。
どうやら気付かないうちに、俺の番まで回ってきたようだ。
俺はハルから預かっていた、欲しい野菜と個数が書かれた紙と金を亭主に渡すと、亭主はせっせと野菜を手に取っては袋に詰め込んでいく。
そして、最後に何かが書いてある紙を折りたたんで袋の中に入れ。
「へい、まいどあり」
俺はその袋を受け取って、家に向かって歩き始めた。
少し体が冷えてきたこともあり、小走りに変えた時、そういえば亭主が紙を袋に入れた事を思い出して、俺は歩くスピードを少し落として、袋の中からその紙を取り出した。
「なんだこれ」
俺はそう呟いて、折ってあった紙を開けると、『王都、冬祭り!』と書かれたチラシであった。
冬祭り?また、特売セールか?
俺はそう思いつつ、チラシを読み上げる事にした。
「え〜と、・・・今年も皆様お待ちかねの冬祭りの時期が近づいて来ました!例年通り今年も、出店を数多く出店し、お酒を飲んで、みんなで歌って踊りましょう。そして、今年もグレードアップした花火もあるのでお楽しみください。か」
冬祭りか、まあ予定日を見る限りではまだ先の話なんだけどな。
にしても、この世界にも花火があるとはな〜。
俺はチラシの一番下にまだ何かが書いてある事に気が付いた。
え〜と、・・・出店を出店したい方は王都の役所まで申請をして下さい。
なんだと、・・・決めた、俺はこの冬祭りに出店を出店して、一攫千金を勝ち取ってやる。
そう決心した俺は、家まで風のように走り抜けて帰って行った。
************
家に帰ってから、俺はハルとイノリとミルに出店を出店しようという話を持ちかけたところ、全員乗り気になってくれたので、俺はひとまず安心して、朝食をのんびりと食べていたら。
「あ、そう言えば」
俺の前の席で座って朝食を食っていたイノリが、何かを思い出したように呟き、俺を見て。
「冬祭りの準備を進めたい気持ちがあるのは、知っているんですけど〜」
「おう、一刻でも早く冬祭りで一攫千金を出来る案を出したいと思っているが、なんだ?」
イノリは俺の顔を伺う様に。
「あの〜、明日からシンジも含めて私達は、ちょっと調査に行ってくれないかと、王様直々の依頼が今日の朝来ちゃってまして〜」
ふーん。王様直々なら仕方がないな。早く終わるように頑張るか。
俺はそう思って、何をするのかを聞いていなかったので。
「何をするんだ?」
俺がそう言うと、ハルとミルが不安げに笑い始めて、俺が首を傾げているとイノリが。
「魔王軍の幹部の一人が今そこに住み着いていると言われている、王都から少し離れた廃墟の調査です」
俺はそれを聞いて唖然としていると、ハルが横からわちゃわちゃしながら。
「で、でもね、安心しなよ。今回はかなり心強いから。カオル君とエリーちゃんのパーティーにも声をかけているようだし。何と言っても、騎士団の総長でもあるウィリー・センピルさんも同行してくれるらしいから」
確かに心強いよ。それに、全員顔の面識はあるわけだから、まだ少し気楽なんだけど。
「また、死にそうな思いをするのは嫌だよ」
俺がそう真顔で言うと、ハルとイノリは顔を少し引きつらせて笑っていた。
え、なに?俺また死にかけるの⁉︎




