第5話<不思議な夫妻>
俺は一人で今、ある家の前に立っている。
「遅いな。どうしたんだろう。まさか、このまま俺を放置プレイして、野宿させる気じゃないよな」
不安にあおられて、家のドアが再び開くことを願っている。
俺は今、ハルの家の前に立っている。パーティーを結成したあと、俺が別のところからこの世界に来たということと、ゆえに一文無しということをハルに伝えた。ハルは、それを笑いながら聞いていた。
絶対に俺が言ったこと信じてないよな。ま、普通はそうか。こんな中二病みたいなことを信じるやつは、いないよな。
しかし、一文無しというのは信じて貰えたので、ハルが家に泊まれるように、説得してくれるとのことだ。
もし、泊められないって言われたらどうしようかな。考えろ、考えるんだ、俺。クッソ、何にも思い浮かばねーじゃねーか。
俺が一人で腕を組んでいると、ドアが開かれた。
「お待たせー。入って、入ってー」
中から、ハルが少し顔を出しながら言ってきた。
「話はついたのか?」
「うん!もう完璧だね。お父さんも約束だからって、私が冒険者になることを許してくれたし」
あら、何を言ってるのかしら。俺が聞いたのは、泊まれるように話をつけてきたのか、なのだけれども。
「分かったから。で、俺泊まっていいの」
「うん、オッケーだってさ」
あー、良かった。異世界に召喚された初日から野宿とかマジで嫌だったし。
「ありがと。それでは、お邪魔しまーす」
俺は、ハルの家の中に入った。
目の前にには、スリッパが置いてある。ハルは、既にスリッパに履き替えており、俺を待っているという状況である。
へー、玄関があるってことか。ここは、異世界でも日本と似てるなー。
俺は靴を脱ぎ、スリッパを履き終えたところで、目の前の部屋のドアが開いた。
中から出て来たのは、若くて、将来の、ハルって感じがする人だった。その人が、こちらに来て笑顔を見せながら、こちらを見てきた。
「あ、お母さん」
ハルの発言に俺は驚く。
え、この人あなたのお母さんなの。凄く若く見えるんだけど、目の錯覚なのかな。
「紹介するね、こちらはシンジ君です」
ハルによっていきなり、紹介された俺はとりあえずお辞儀をする。
「どうも。シンジです。よろしくお願いします」
言い終えた俺は、体を戻した。
俺の紹介を聞き終えた、ハルママは俺を見ながら、「へぇー、そう。いい感じ」
と小さく呟いて、くるりと後ろを向いた。
「あなたー。ハルがなかなかいい男を連れて来ましたよー。彼、シンジ君って言うらしいの。これは、パーティーメンバーとしての挨拶ではなくて、娘さんを下さいみたいな挨拶だと思うから、早くきてー」
俺は、口を開けたまめ固まった。
なんてことを言い出すのであろうか。ハルママ恐るべし。
「べ、べ、べ、べつにそういうのじゃないからー」
ハルが、顔を赤くしながら必死に否定している。
りんご病なのかな?いや、この世界にそもそもりんご病は存在するのかな?
ハルママは、再びこちらを見て小悪魔めいた顔しながら、微笑んだ。
「だって、いい男だと思ったからよ」
あかん。あかんやつや。このままじゃ、いきなり人妻ルートに進んでしまうところだった。やはり、ハルママ恐るべし。
シャワーを終えた俺は、リビングに行った。
「シャワーありがとうございます」
俺がそう言うと、ハルとハルママとハルパパがこちらを見てきた。ちなみに、ハルパパは、とても優しそうな顔付きである。
「ハル、あなたもシャワーに行ってきなさい」
「はーい」
ハルは立ち上がって、リビングを出て行った。
「シンジ君。まあ、そこに座っておくれ」
「は、はい」
俺は、緊張しながら正座をした。すると、ハルパパがこちらに笑顔を見せてきた。
「気楽にしてよ。緊張しなくていいからね」
ハルパパの言葉のおかげで、少し俺の中の緊張感が緩くなった。
「シンジ君、ハルから全て聞いたよ。君のことや、君が別の世界から来たことも」
「そ、そうですか」
別の世界から来たことは、さすがに信じてもらえないだろうな。
すると、ハルママとパパが顔を見合わせて、笑った。
「いやー、久しぶりよね、別の世界から人が来るなんて」
「そうだよなー。何年振りなんだろうな」
おかしい。その言い方だと、過去に誰かが俺と同じ目にあったような言い方じゃないか。
「あ、あのー。俺が別の世界から来たというのは信じてもらえるのでしょうか?」
「「もちろん」」
二人の声がハモる。
何で、信じてもらえたんだろう。不思議だ。
「シンジ君に、取って置きのことを教えてあげるよ」
ハルママが俺に突然言ってきた。
取って置きのことって何だろ。すげえ気になる。
「シンジ君が元の世界に戻るためにはね、求められていることをしなければ、いけないんだよ」
「え、それってどういう」
求められていることって何なんだ。
「例えばだけど、魔王討伐が求められてことかもしれないと言うことだよ、もしくはハルと結婚して、死ぬまでイチャイチャしながら暮らすっていうことかもしれない」
魔王討伐だと。なんて、難易度が高過ぎるんだ。あと、娘を安売りしちゃあいけないと思いますよ。それにしても、何でこんなに詳しいのだろう。
「何で、こんなに詳しいのですか?」
俺は、単純な質問を夫妻にぶつける。
「何でだろうねー」
ハルママにあっさりとかわされた。




