第56話<驚きの日>
ポカポカとした眠気を誘う日差しが、家の広間に差し込んでくる。
「う〜ん。・・・ふあ〜〜」
俺は広間に置かれた大きめのソファーに、寝転びながらゴロゴロしている。
朝飯食ってから、時間がだいぶ経ったよな〜。昼ご飯はまだかな〜。それとも、この家は一日二食なのかな〜。
暖かい日差しにあたっていると、何かに優しく包み込まれたみたいに、穏やかな気持ちになり、眠気が来るというのは、自然と起きてしまうものだ。
ソファーの余った端っこのスペースに、イノリが小さな欠伸をしながら、座って俺を穏やかな目で見てきた。
俺はゆっくりとゴロゴロしながら、イノリに顔を向けて。
「どうしたんだ?」
「いいえ〜、なんだか気分が良くて〜」
イノリはいつもよりほのぼのした口調で続けて。
「今日はクエストなんか行かずに〜、一日中こうやって過ごしませんか〜?なあに、王都に来てから毎日のように、クエスト生活をしていたんです。お金はたんまりとあるはずですからぁ〜」
俺は目を瞑ってゆっくりと深く頷く。
賛成だ。今日という日ぐらい、一日中こうやってのんびりと過ごしたいものだ。
王都に来てから、カオル達と会って、それからというもの、毎日クエストを行う生活を送っていたのだ。働かずとも、二日間は裕福な生活が出来るぐらいには、お金があるはずだ。
こういう時に、王城にいる裏切り者の尻尾でも掴むべきなのだろうが、そんなのする気にはならないから、絶対にやらない。
・・・そのうちボロでも出してくれるだろう。
俺は大きな欠伸をして、口を少しムニュムニュしてから。
「イノリ〜。お昼ご飯はいつ〜?」
すると、イノリは口元を手で軽く押さえながら、小さく笑い。
「何言ってるんですか〜。さっき朝ご飯食べたとこじゃないですか〜」
「そうだったな〜。・・・そういえば、ハルはどこなんだ?」
イノリは口元に指を当てながら、思い出すそぶりをして。
「ああ、朝ご飯食べてから、散歩に行ってくるって言ってましたね〜」
「・・・そうか〜」
とりあえず面倒事を持って帰ってこないように祈ろうか。やっぱり面倒くさいな〜。
そんなこんなを考えていると、突然に家の玄関が勢いよく開かれ、ほのぼのとした平穏が消し飛ばされてしまったのであった。
ゴロゴロしていた体を起こして、目の前でニコニコしながら立っているハルを見ると。
「ねぇ、シンジ。犬は好き?子犬だよ。毛がふさふさの茶色で、目がとても愛くるしい子犬なんだけど」
「おい待て。いきなりなんなんだ?しかもよくよく聞けば、犬を飼うってことなの?」
ハルは俺の言葉に反応したが無視して、目をパチパチさせながら、俺を見てくる。
新手の嫌がらせか。
「ちゃんと考えてみろよ。冒険者がペットを飼う?そんな余裕どこにあるんだ?あと、毎日散歩に行かせなきゃ行けねーじゃねーな」
すると、イノリが俺の肩をちょんちょんと叩いて。
「犬は散歩させなくていいんですよ。散歩をさせなきゃ行けないのは、猫の方ですから。・・・シンジのいた世界じゃ、どうだったのかは知りませんが」
逆だったんだ。にしても、猫がリードを付けながら散歩をしている絵が、なかなか思いつかないんだけど。
すると、目の前で立っているハルが、座っている俺に目の高さを合わせて。
「シンジ!これからクエストを受ける時は、全部初級クエストにするんじゃなくて、中級クエストにしたらお金の心配なんて、いらないと思うの」
はい、そうですか・・・。
俺は外を見ながらため息を吐き。
「まあ、いいよ。家族が増えるだけだ」
俺の言葉にハルはとびっきりの笑顔を見せながら。
「うん!」
俺はこういうのに、弱いんだよな〜。
ハルは背中に手を回して。
「は〜い。新しい家族になることになった、子犬のペペでーす」
そう言って、俺の懐に、子犬ことペペ。ペペこと家族が飛び込んできた。
俺はペペを撫でていると、ペペが気持ちよさそうに体をくねくねし始めるので、ニヤニヤが止まらなくなる。
ハルは立ち上がって。
「さて、それじゃあ今から中級クエストでもやりに行こうか」
え、・・・ほのぼのして過ごせるんじゃなかったの?
イノリは一向に準備をしようとしない、俺を見て。
「さあさあ、早く準備してくださいよ〜」
「今日はほのぼのしながら、まったりと過ごすんじゃなかったの?」
イノリは少し笑って。
「家族が増えるんだし、祝ってやらないとけないけませんよね〜」
やっぱ、そうなりますか。
俺の懐にいる子犬のペペは、愛くるしい顔を俺に見せてくる。
「まあ、家族なら仕方ないよな」
そう言って、クエストに行くことにした。
改めて思うが、平穏で何もしずに一日が終わるという日があっていいと思う。強く熱望するくらいだ。
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俺とハルとイノリは只今、荒らし野七体討伐のクエストをしているのだが、大ピンチ。
一体は倒せたのだが、残りの六体に逃げ場のない洞窟まで、追い込まれてしまっている。
俺は荒い呼吸をして、肩を震わせながら。
「正直舐めきってた。中級になるだけでモンスターの強さがここまで変わるもんだとは」
俺が右手に握っている刀を何度も握り直していると。
ハルが横で急に笑い始めて。
「あはははは。やっぱり、そうだったかー。こっそりと、中級クエストを受けたフリをして、上級クエストを受けちゃったんだよねー。ほら、お金が一気にがっぽりって感じだから」
「通りで強すぎると思ったら、・・・何してんだよ!」
俺の声が洞窟内に響き渡る。
「ごめんごめん。まあ、シンジだけはなんとか無事に元の世界に返してあげれる、奥の手があるから」
「ちょっと〜、ハル〜。私はどうなるんですか!」
はぁー、まあ、奥の手とやらが気になるが・・・。
「とりあえず、この状況を打開するぞ!」
俺がそう言った時、急にとんでもなく明るい閃光が走り、目の前にいた荒らし野達を飲み込んでいった。
「「「・・・・」」」
俺達は、それを呆然と眺めていた。




