第4話<月よりも輝いて>
俺とハルは、噴水の前に座っていた。
辺りは暗闇で、街灯と月の光が俺達を照らしている。周りには人がいなく、とても静かだ。
「ごめんな、俺に任せろとか言っといて、結局誰も捕まえることが出来なくて」
俺は、下を見ながら言った。
結局、ハルのパーティーメンバーは、一人も捕まえることが出来なかった。俺は、自分が無力だという現実を突きつけられたのだ。
すると突然、ハルが小さくクスッと笑って、俺の肩を手で突いてきた。
俺がハルの方を見ると、目が会った。
「シンジのせいじゃないから気にしないで。私を助けてくれたときは、本当に嬉しかったんだよ」
「そうか、それじゃあ切り替えて、明日に向けて反省しようぜ」
俺は、元気良く言った。
すると、俺を見ていたハルが下をうつむいた。
「ありがとう。でもね、もう出来ないんだ」
ハルの口から発せられた声は、弱々しかった。
「なんでなんだよ。諦めんのか?」
「そ、そうじゃないんだよ」
ハルは、顔を上げて俺に空笑を見せる。
「本当はね、パーティーメンバーが集まらなかった理由を知ってるんだよ。多分、私サーチをかけられていたんだ」
「どういうことなんだよ。あと、サーチってなんだ」
「サーチっていうのは、一種の魔法なんだよ。効果は、かけた相手の能力を知ることが出来るの。私は攻撃力がほとんどないんだ。魔法使いなのに攻撃魔法の一つも使えない。回復系の魔法は極めてあるんだけど、今どきそんなバランスの悪い魔法使いは、ポンコツなんだよ」
「で、でもさ、回復魔法は極めたんだろ。それならさ、パーティーメンバーが集まらない理由にならないだろ」
「今は冒険者をする人が少なくなってきてるの。理由は、冒険者なんてやってたら、いつ命を落とすかも分からないし、魔王軍に喧嘩を売ってるようなもんなんだよ」
この世界に、魔王なんていたんだ。ま、いつ命を落とすか分からないのは、同意するしかないな。
ハルは話を続ける。
「そして今の魔法使いに求められているのは、回復系の魔法がそこそこ出来て、なおかつ瞬間火力がとんでもない攻撃魔法が使えることなんだ。ね、私なんか簡単な攻撃魔法すら使えないんだよ。そんな私とパーティーを組んでくれる人なんて、世界中探してもきっといないんだ」
ハルの一言一言に重みを感じる。俺は、胸が苦しくなっていく。
「これから練習して、攻撃魔法を身につければいいじゃないか」
ハルは、再びうつむく。
「そうしたいんだよ。でもね、もう時間切れなんだ」
「時間切れってなんだよ」
「私の親はね、もともと私が冒険者になることを反対していたんだ。でも、頼みこんだら、パーティーメンバーを連れて家に来て、その人の顔を見せてくれたら、冒険者になっていいって言ってくれたんだ。で、その期限が今日までなんだ。普通、私と同じくらいの年齢の子は、もう結婚するんだ。親もそれを望んでいる」
「でも、ハルは結婚という道ではなくて、冒険者の道を歩みたいんだよな」
ハルは、力なく頷く。が、今の彼女の目には、希望の光が全く見えない。
「ハルは、サーチって魔法使えんのか?」
「使えるけどどうしたの?」
ハルが、俺の唐突な発言により少し驚いている。
「じゃあさ、俺に使ってくれよ。俺の能力を調べ上げてくれ」
「分かった。今日のお礼ってことでね」
ハルは、俺に向かって左手を伸ばす。
「サーチ」
ハルは、俺に魔法をかけた。
別に体の以上は感じられない。
ハルは、こちらを見てきた。
「この魔法はね、相手の能力の情報が私の頭の中に送られてくるの。それじゃあ、言うよ」
俺は、小さくうなずき、息を飲む。これが、こいつと俺のこれからに関係するから。
「簡単に言うね。ゼロ〜百の数値で言っていくよ。数値が高ければ、高いほど良いって意味だから。あと平均は、全部五十で考えてくれるといいから」
よし、運命のときだ。
「スピードは六十。瞬発力は六十八。守備力は七十二。魔力は、えーと言っていいのかな」
何をためらっているんだろう。
「ためらうな。ドーンとこい」
「そ、それじゃあ、魔力はゼロです」
「なんじゃそりゃ。ゼロってなんだよ。まあいいや、それより攻撃力を教えてくれ」
「攻撃力ね、ちなみに私は十九だよ」
「はいはい。早くしてくれ」
ハルは、少しむすっとしたが、すぐさま目を瞑った。俺の攻撃力の情報を受信しているのだろう。
俺は、願う。
やがて、ハルは目を開けて、少し体を震わせていた。
「こ、攻撃力は、八十二です」
すげぇ。俺ってそんなに高かったんだ。それよりこれで、必要なピースは揃っただろう。
ハルは、立ち上がる。
「攻撃力は、とんでもなくすごいね。なかなかいないよ」
「ありがとう」
「うん。時間が時間だし、もうお別れだね。楽しかったよ、シンジ。私は、明日から花嫁修行かな」
彼女の目から、少し涙が溢れていた。
諦めきれてねえじやねーか。
俺も立ち上がる。
そして、俺は言う。
「ハル。俺と、パーティー組まないか?」
「え」
突然のことにハルは、驚いている。
「わ、私のことは気にしないでいいから」
素直じゃないな。
俺は、少し笑う。
「ハルには、ハルの目的があって、俺には、俺の目的があってパーティーを組むんだ。別に気をつかってるわけじゃねーよ」
「じゃあさ、シンジは、なんで冒険者になるの?」
俺には、俺の理由がある。俺は、ただ知りたい。その答えをハルとパーティーを組むことによって見つけることが出来る
と思ったから。
「俺の理由はな、なぜ俺がここに召喚されたのかを知るためだよ」
ハルは、しばらく口を開けていて、急に笑いだす。
「シンジの理由がいまいちわけわからないよ」
「そうだな、俺も分からない。だけど知ろうと思ったんだ」
自分の手で答えを掴むために。
「そういえば、ハルがなんで冒険者になろうとしてんのか、理由ぐらい教えてくれよ」
彼女は、人差し指を立てる。
「まだ、教えられません」
まだか、まだってことは。
「ハル、俺とパーティーを組んでくれませんか?」
「もちろん、喜んで」
ハルは、笑顔で答えてくれた。
彼女の笑顔は、満月よりも輝いていた。




