第42話<ヒロインルート>
車は時々、ガタガタと揺れたりもしながら、快調に走っている。ガタガタとなってしまうのは、ろくに整備もされていないような道だから、仕方が無いだろう。
「ふぁ〜〜〜〜」
俺は大きなあくびをしながら、体を伸ばす。もう直ぐで夕日が沈みそうな景色が目に映る。
村を出発してから結構な時間が経ったんだな。万が一、普通の草原で寝るはめになったとしても、俺は出発から今まで寝ていたから余裕で徹夜は出来そうだな。
ハルとイノリはスヤスヤと静かに眠っている。
なんか、いいな。癒されるな。
俺は再び外の景色を眺める。
もうすでに、夕日の半分が沈んでしまっている。そして、少しずつ夕日が沈んでいき、完全に沈みきるというところで、大事なことを思い出してしまった。
やっべー、安全な場所で一泊する予定なんだが、そこを探すことを忘れてた。安全と言われる場所には、野生のモンスターや魔獣が入ってこれないように結界が張ってあるらしい。
俺は急いで村長から貰った地図を広げて見るが、まず現在位置が分からないのでどうしようも無いことに気がつく。
やっちまったパターンだな。せめて誰かが起きていたら、まだマシな展開だったかもしれないんだが・・・どうしようか。
辺りは段々と暗くなっていく。
俺はあたふたしながらも、地図と周りの景色を交互に見ていくが、あまりにも目印になるようなものが無く、いくら頑張っても現在位置が全く分からない。
どうしようも無くなった俺は、ハルとイノリを無理やり起こすが、二人共少し不機嫌そうな顔をしている。
「おい、そんな不機嫌そうな顔をしないで、これからどうするかを決めなきゃいけないから。早く完全に起きてくれ」
「むぅーー。起きてますよ〜。さて、人を乱暴に起こして何の用ですか?」
イノリさん・・・絶対少し怒ってるよね。
「今の現在位置が地図を見ても全く分かんないし、どないするってことだよ」
俺はハルとイノリに地図を見せてみるが、ハルは地図には目もくれず。
「よし、それじゃあ今日はここで一泊することにしようかー!」
ハルは窓から顔を出して、相棒である召喚したモンスターに何かを伝えている。
いや、ハルさん?ここで普通に一泊したらモンスターにまた襲われるかもなんだけど・・・
しだいに車は止まり、ハルの相棒はその場に横になり、眠り始めた。
「ちょーーと待てー。ハル?ここで一泊したらモンスターにまた襲われる可能性があるってことだよな。なんで、平然としていられるんだ?」
「ここら辺にいるようなモンスターは、ギラファンを見た瞬間に逃げていくから大丈夫なんだよ」
「はっ?意味わからんし、ギラファンって何?」
「ギラファンはこの子だよ」
ハルはそう言って、ハルが召喚したモンスターを指差す。
へー、ギラファンって名前なのかー。俺の知らん間に色々進んでるなー。
「あと、ギラファンはかなり強いし、厳ついから野生のそこら辺にいるようなモンスターは、近づこうともしないから、安全なんだよ」
「そうなのか」
安全はいいことだ。いいことなんだが、俺が一人であたふたしながらも頑張っていた時間を返して欲しい。言うの遅過ぎだろ!
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簡単な夜ご飯を済ませた俺達は、焚き火を囲みながら、その場に座っている。
因みにギラファンはとても気持ちよさそうに、ずっと寝ている。
夜の草原での焚き火は、敵に居場所を教えてしまうようなものなので、あまりよろしくないらしいが、ギラファンが居るから大丈夫なのらしい。
イノリは空に輝いている星々を見つめながら。
「もうすぐ、夏も終わりですね〜」
「シンジがこの世界に来た時は、夏が一番夏らしかった時だったねー」
ハルは何を言ってんだ?一番暑かった時ってことか?
「おっ、ていうか、ハルはやっと俺が別の世界から来たんだってことを信じてくれるようになったんだな」
「まあねー、召喚士の特訓の時に色々村長から聞かされたからねー」
ハルは俺を見ながら、クスリと笑ってくる。
ハルは召喚士の力、俺は裏魔力、イノリは・・・何してたんだろう。
「イノリは村にいる間は何してたんだ?」
イノリは顎に人差し指を立てて、当てながら。
「そうですね〜、全体的には魔弾の威力向上や、最大魔力の底上げなんですけど、遠距離射撃の特訓もしましたね〜」
遠距離射撃か〜。遠くからでもバンバン攻撃しまくってくれるのかー。俺の仕事無くなるよね。いや、別にろくに仕事もせずに金が入ってくるなら、全然そっちの方がいいな。俺は眺めてるだけで、金が入る。なんとも最高ではないか!早急にイノリに確認せねば!
「それじゃあ、イノリは一キロ離れた敵をも余裕でバンバン、射撃して倒しまくってくれるのか⁉︎」
すると、イノリは俺を見る目を変えて。
「ハァ?何言ってるんですか〜?遠距離射撃はかなり難しいんですよ。魔弾の制御などを上手いことしながら、やるんですから。今のところは、だいたい三十メートルがギリギリというか、当たるか当たらないかのラインですし」
俺の密かな野望が打ち砕かれた・・・
「それに、シンジは私に任せて自分は楽して金を稼ごうとか考えてませんでしたか〜?」
「え、なんで分かったの」
なんでイノリに、俺の密かな野望がバレちまったんだ。
イノリは俺を見ながら固まっていたが。
「・・・図星ですか⁉︎適当に言ってみたらまさかの図星ですか⁉︎」
あらー、それ適当に言ってたのねー。俺は自分から、はまっちゃったってわけですねー。
ハルからは低めのトーンで。
「最低ーーー」
やめて、かなり心が傷ついちゃうからやめて。マジなトーンだけはやめて!
俺のもやしメンタルが千切りされちゃう・・・
すると急にイノリは笑い出し。
「あはははははは。三人集まって、こういった話をするのも、久し振りですね〜」
「そうだねー」
ふぅー、機嫌が戻ったみたいで良かったー。
「私とイノリが宿屋で会って、遅くまで話すのは結構あったけど、シンジは毎回その場にはいなかったしねー」
「そうそう。ていうかまず、シンジの姿を見ること自体がとても珍しいぐらいだったんですからね〜」
ハルとイノリは俺を見ながら楽しそうに喋っている。
「お二人さんは、随分と楽しかったようですねー」
俺は毎日が地獄の特訓みたいなもんだったからな。体力が残ってなかったし。宿屋に帰っても一人でパパッと夜ご飯を食べて、一人でパパッと風呂に入って、部屋に戻ったらベッドにダイブして寝てたからな。
「ふふっ、でも私達はシンジが誰よりも頑張ってたことを知ってますから。・・・誰よりも遅くに宿屋に帰って来て。毎日毎日ボロボロの姿で帰って来て。時には担架に運ばれる程に頑張って。声をかけようとしても、なんて声をかけたらいいのか分からなくて。でも、なんだかんだ言って無事でいてくれることが嬉しくて・・・」
イノリは少し顔を赤くして、恥ずかしそうにしながら、言ってきた。
俺は恥ずかしくなり、空を見上げながら。
「そ、そうかい」
なんかめっちゃ恥ずかしいんだけど。イノリがめちゃくちゃ、可愛く見えたんだけど!イノリルートを頑張って攻略しようかなって、一瞬でも思った自分がいるんですけど!
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今は、何時であろうか。多分、深夜なんだろうな。
焚き火の火は消えて、辺りは静まり返り、俺以外の皆は眠りについているはずだ。
俺は何故寝ていないかというと、ギラファンのおかげで、そこら辺のモンスターが襲って来ないとしても、とんでもないモンスターや、魔獣も襲ってくることは無いというわけではないので、念のため起きているのである。
長い昼寝をしたおかげもあってか、まだ睡魔が俺を襲うということは無い。
「静かだなー」
俺は岩にもたれながら、空を見上げる。
そこには、俺が産まれてから今まで見たことが無いぐらいの、大量の星々が光輝き、月もはっきりと目に映っている。
すると急に風がひと吹きして、俺の体温を奪う。
「なんか、冷えてきたな」
まだこの世界の季節は夏だとしても、もうそろそろ秋に突入しようとしているので、夜風は冷たい。
焚き火でもまた点けるかな。まだ、完全に燃え切ったわけじゃないし、焚き火に使える木はまだあるからな。
俺は横に置いていた、木を焚き火のところに置いて。
「『ファイア』」
小さく俺が呟くと、焚き火が再び燃え始めた。
裏魔力を消化したわけだが、この程度は全然問題無いだろう。
「う、うん・・・」
ハルが目を擦りながら目を覚ました。
「悪い、起こしちまったな。焚き火消そうか?」
ハルはヨロヨロと立ち上がり。
「大丈夫だよ。このままにして」
ハルはヨロヨロと歩きながら、俺の横まで来ると、その場に座り込んだ。
「どうしましたんだ?俺の横にきて」
「・・・・・」
ハルからの返事が無い。俺は寝ぼけてたんだろうと思い、木を焚き火にいれると。
急に俺の左肩に確かな重みが乗っかった。そして、俺の頬は繊細な毛によってこそばゆい。さらには、いい匂いが俺の嗅覚をくすぐる。
「ハ、ハルさん?」
ハルは頭を俺の肩に乗せながら、目を閉じている。
なんかあれだな、・・・満天の星空の下でこの状況はなかなかロマンチックだと思ってしまうのは何故だろう。
俺の顔の横には、ハルの顔がある。それだけで、俺の心臓の鼓動は高鳴っている。
「・・・シンジ」
「はい!」
俺は少し声が裏返ってしまう。
「ありがとうね・・・シンジがいなかったら、私はこんなに毎日が充実していると、思えていなかったと思う。ありがとう。・・・だからね、たまには私を頼ってね」
「・・・・・ハル」
俺はハルルートも全然ありだと思い始めた。
度胸のある奴はこのままハルを押し倒すのだろうが、俺にはそんなことをする度胸が無いので、ずっとおどおどするしかなかった。
ハルは静かに寝息を立て始めたので、俺はハルをゆっくりと岩にもたれさせた。
それから時間が経ち・・・・・・・
イノリルートやハルルートのことを考えていたら、気付けば朝になっていた。




