第41話<王都へ>
宿屋での俺の部屋にある時計が十一時をそろそろ刺そうとしている。
遅めの朝ご飯を食べた俺は、部屋の布団を片付けて、袖の部分を折ったカッターシャツの第二ボタンのところから開けて着る。いつもはズボンも履いて、着替え完了・・・なのだが、何故か俺は最近ずっとつけていなかったネクタイを手に取り、付けようか迷っていた。
「・・・・・・・・・・・ん〜、やっぱいいか」
結局付けないことにした、ネクタイは小さなカバンの中にねじ込んだ。
このネクタイをもう付けることもないだろうな〜。ハルやイノリに渡してもいいんだけどな〜。あの二人なら可愛く髪の毛をネクタイで纏めて、リボン風とか♡言って使ってくれそうだしな。・・・いや、言ってくれないか。逆に俺が疑われそうで怖いな。
俺は腰に刀を差し、小さなカバンを肩に掛けて部屋全体を見渡す。
しばらくの間だけど、お世話になったなー。いざ出て行くとなると、この部屋であったいろんな事を思い出・・・いや、なんもないや。寝てた記憶しかない。
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俺は今までの分の宿屋の料金を払い、村の出入り口の前に立っている。村に初めて来た時と違い、荒れ果てた家などが既に取り壊されていた。
「あらー、綺麗サッパリだなー」
俺は呑気にそんな事を呟きながら歩いていると。
「シンジ、おっそいよー」
ハルが俺に向かってブンブン手を振っていた。
いや、そこまで距離離れてないのに、何でそんなに大きく振るんだ。あと俺、時間通りだと思うんだけど・・・そういえば、イノリの姿がないな。
「シンジ〜、早く乗り込んじゃってくださ〜い」
声のする方を見ると、イノリが車に乗り込んでいた。
車といっても、エンジンが搭載されているわけではないようだ。車輪が四つ付いていて、屋根と窓と扉が付いているまでは同じだが、前方の部分に馬車でお馴染みの様な部品が備わっている。
「ほー、この村に来た時と違って、歩かなくて済むのか」
でも、ちょっと待てよ。この村に馬なんているのであろうか。それに、前方部分にある、馬車でお馴染みの矯正装置か知らんけど、明らかに馬のサイズじゃない。もっと、大っきいサイズなんだけど。
俺が腕を組んで考えながら、立っていると。
「シンジ、そこちょっとどいてー」
ハルが杖を地面に突き刺さして言ってきた。
「はいよ」
俺はどいて、車に乗り込もうとした時。
「『召喚』っ!」
ハルが突き刺した杖の青い宝玉のようなところから白い光が出てきて、なんともカッコいい白を基調とした一角獣のような、ユニコーンのような、ドラゴンのうな、大きめで四足歩行のモンスターが現れた。
「「「「「「おぉーーーー」」」」」」
俺やイノリや村長やピーターや見送りに来ていたその場にいた全員の人々から、歓声が上がる。
「え、えへっ、えへへーーーー」
ハルはにやけながら、喜んでいる。
「ハル、やっとお前、召喚士になってくれたんだな・・・」
ああ、シンジは涙が出そうだよ。
「やっとってなんだし!やっとって!」
ハルが頬を膨らませているが、そんなのはさて置き。
「にしても、カッコいいなー。俺も創造して、裏魔力を上手い事したらできんのかね〜」
「シンジ・・・裏魔力が使えるようになったからって、人の役割を奪うのは良くないと思いますよ。はい、思います」
イノリが俺を見ながら、真顔で言ってきた。
「魔法弾も俺が頑張ったら、余裕でイノリを追い越すことが出来んのかな〜?」
俺がイノリにニヤニヤしながら言うと。
イノリが急に飛び出して、俺の胸倉をつかみながら。
「わぁーー‼︎本当に止めて下さいよー!シンジはやりかねませんから、本当にお願いします!ここで誓って下さい!お願いします‼︎」
「分かったから、やらねーよ。やらねーから。俺の体をブンブンするのは止めろ」
なんとか、イノリが興奮しているのを抑えた俺に、ピーターが駆け寄って来て。
「相変わらず楽しそうなパーティーだな」
「まあ、そうだけど。俺としては、もう少し静かになってもらった方がいいかなー」
「ははっ、そうか。シンジらしいな。今を思う存分楽しめよ」
「楽しんでるよ。楽し過ぎて、毎日しんどい」
俺は皮肉を込めて言ってみるが、正直言ってハルとイノリといて素直に楽しいと思えている。
俺はピーターの方を向き、お辞儀をして。
「今日まで、ご指導して下さってありがとうございました!」
「え、いきなりどうしたんだよ」
ピーターは戸惑いの顔をみせる。
俺は少し笑って。
「やりたいようにやっただけだよ。ピーターには素直に感謝してるし」
ピーターは戸惑いながら、俺を車の方に向けて背中を押しながら。
「さ、さっさ。ハルちゃんも、モンスターと車の連結を済まして、車に乗り込んだし、シンジも早く乗れ乗れ」
「はいはい」
俺はそう言って車に乗り込むと、ハルとイノリが隣りに座っており、俺は二人の向かいの席に座る。
へぇー、なんか部屋みたいな感じだな。
「なあ、ハル。これって、操縦士とかいらない感じなのか?モンスターが一人で王都まで連れてってくれて、気付いたら王都、到着ー!みたんな感じだよな?」
「そうだよ。私の相棒は、知能が優れてるから、誰に似たんだろうね〜」
ハルが自分を指で差しながら言っているが。
「少なくとも、ハルじゃないな」
「それに、同意見で〜す♪」
「二人共、ひどくないっ⁉︎」
いや、だって、ハルは絶対ありえないだろ。
すると、ハルが召喚したモンスターが歩き出し、車も動き始めた。
村を見ると全員が手を振りながら、別れの挨拶などを叫んだりしながら、手を振ってくれている。
村長とピーターは無駄にカッコつけて無言で手を振っている。
俺とハルとイノリは、窓から顔と手を出して、手を振り返す。
村が見えなくなるまで手を振り続けた俺は、席に座って外の景色を、眺めている。
ハルとイノリは、王都に行ったら何をしよかなどといったことを楽しそうに喋り合っている。
王都までの道のりは長い。流石にハルの相棒を夜通し走らせることは出来ないので、安全なとこを探してそこでとりあえず一泊して、次の日の昼過ぎに到着するかどうからしい。
歩きで行くとなると、少なくとも三日以上は普通にかかるらしいので、ハルの相棒のありがたさがとても感じられる。
しかし、安心は出来ない。安全なところが無かった場合は、草原で一泊するわけだから、モンスターに襲われる可能性が無いとはいえないので、俺はそれに備えて念のために眠りにつくことにした。




