第21話<最弱のレッテルは剥がれない>
「お、ここか」
俺は今、イノリと魔導具店の前に立っている。
「シンジ。あらかじめ言っときますけど、お金はあるんです。ケチケチしてはいけませんよ!」
イノリが俺に威圧をかけてくるが、そんなの知らない。
親から無駄遣いをしないように厳しくしつけられてきたからな。文句があるなら、俺の親に言ってくれ。
すると、イノリのポケットから小さな紙切れが落ちた。
俺は拾い上げ、何か書いてあるので見ると。
「ちょっとシンジ。それはみちゃダメなやつです!返して下さいよ!」
イノリが取り返しに来るが、俺は頭を押さえつけ、読み上げることに。
「え〜と、なになに。魔導具店で購入する物。魔ドリが有り金の半額で買えるだけ⁉︎回復薬は余った有り金で買えるだけ⁉︎」
こいつ、まさか俺達の多額の財産をこの店で使い切ろうとしてやがるのか。
「おい、イノリちゃん?まさか本気で買おうとしてたわけじゃないよね〜?」
「し、し、してませんよ〜」
イノリはそう言って、全然違う方を見ながら、カッスカスの口笛を鳴らし始めた。
「なるほどなるほど、本気で買おうとしてたわけだな」
俺は面白いので、イノリを揺さぶることにした。
「な、私はう、嘘なんか付いてま・・・あー、めんどくさいです。そうですよ。本気で有り金全て使って、魔導具を買おうとしてましたよ。え〜そうですよ。何か悪いことでもしましたか〜?」
早い!開き直るの早すぎ、イノリ。
「悪いも何も、やろうとしてたことがえげつないからな」
「何がえげつないんですか〜?魔ドリを買っていいかって聞いたら、シンジはオッケーしてくれたじゃないですか〜」
イノリがドヤ顔を見せてくるが、それがどうしたと言ってやりたい。
ちなみに、魔ドリとは飲めば魔力が回復すると言う、この世界においては冒険のお供らしい。質の良い魔ドリになればなるほど、魔力の回復する量が増えるが、お値段も高くなってしまということだ。
「イノリやハルは魔法中心の戦闘だから、魔ドリを買うのはオッケーした。したけれども、買おうとしている数がおかしいだろ。ここで金を使い切ったら、これからどうやって生活していくんだ?」
「それは、またギルドでクエストを受けて・・・」
「は〜い、残念でしたー。プロクリ村にはギルドなんてものはありませ〜ん。さて、どうやって生活するつもりなんだ?」
イノリが睨んでくる。
鬱陶しいだろな。演じてる俺でも鬱陶しいと思うくらいだもの。
イノリは顔を俯きながら。
「参り・・・ました」
「分かりゃあ良いんだよ。とっとと、魔導具店に入ろうぜ」
俺は魔導具店のドアを開けて、客を歓迎するかのような鈴の音が鳴り響く中、イノリと入店した。
「はーい、いらっしゃいませー」
レジにいる男が、会計をしながら言ってきた。
この店の店主だろう。
客は一人で、今会計をしている。
「へー、すげー。そこら中に、色んな魔導具が置いてある」
俺は店を見回して、ちょっとした感動を感じていると。
「そりゃあ、魔導具店ですもん。あれ、シンジって魔導具店は初めてでしたか〜?」
「ん、初めてだぞ。日本に無かったし」
イノリは、首を傾げながら、
「に・・・ほ・・ん?」
「あー、気にすんな。それよりイノリは初めてじゃないのか?」
「もちろん、何度も来てますよ。まあ、この町の魔導具店は初めてですけどね〜」
そう言って、イノリは目の前に置いてあった、ぬいぐるみを手に取って、ニヤニヤし始めた。
買わないからな。そのぬいぐるみ、可愛いけど。買わないからな。
すると、会計をしていた客が、店を出ていった。
「ありがとうございましたー」
店の店主はそう言ってから、こちらに目を向ける。
俺は店主と目が会った。
すると店主が驚いた顔をして。
「まさか、シンジさんですよねー!横にいらっしゃる方がイノリさんで・・・あれ、ハルさんはいませんね」
「ハルなら、今ギルドで報告書を出してると思います」
報告書とは、冒険者が現在いる町などから旅立つ時に、ギルドに提出する書類らしい。
めんどくさいのは、ハルに任せております。
「報告書を出しに行ってるんですね。いやー、でも三人お揃いになってる時にお会いしたかったですねー。いや、高望みするのはいけない。今あなた方にお会い出来ていることに、感謝しなければ」
店主の目が輝いている。
これも、魔王軍の幹部を倒した効果なのか?
俺は、頬をかきながら。
「あのー、魔導具を売ってもらえませんか?」
「はっ、すみません。今は、売り手と買い手の関係ですもんね」
店主が、申し訳なさそうな顔をしていると、イノリが割り込んできて。
「私達、BIGスリーに、いや今はBIGツーに会えたことに感謝してるなら、何かサービスでもして下さいよ〜。実際、今まではありえなかった、王都にいた凄腕冒険者達がこの町に来始めてるらしいじゃないですか〜。ということは、この魔導具店はこの町一の魔導具店となるので、売上も倍増すると思うんですけど〜。ほら、英雄にサービスして下さいよ」
へぇー、これも魔王軍の幹部を倒した効果なのかー。俺ってこの町にかなり貢献してるよな。
「サービスならさせていただきますとも!なんてったって、この町が誇れる英雄ですからね!魔ドリ十本で一万ルビー‼︎」
「買いま〜す♪」
イノリが、叫びながら手を上げている。
俺には魔ドリなんて関係のない話なのだが、良いよなー魔法使えるなんて。
俺は唐突に思い出す。ゲンさんが俺に眠っている力のことを。
「なあ、裏魔力用の魔ドリはないのか?」
あったら買おう。いつ使うか分からんが、買おう。
「すみません。裏魔力用の魔ドリは、ありません。いや、裏魔力の所持者がそもそも希少過ぎるからと言った方がいいでしょうか。まあ、王都でも売ってないと思いますよ」
「そうですか。ありがとうございます」
俺が礼を言っていると、イノリは次は何を買おうかと悩んでいたので。
「すみません。魔ドリ十本で会計お願いします」
「え〜、ちょっと待って下さいよ。いいのがあるかもしれないですから」
イノリが会計を邪魔してくるので、俺は再びイノリの頭を押さえて。
「衝動に駆られてるぞ。そん時に買ったら無駄遣いによくなるパターンだからな」
そう言って俺は一万ルビーを出して、会計を済ませる。
「ありがとうございましたー」
店主は笑顔でお辞儀をしてくる。
「はい、どうもー」
俺はそう言って、イノリを引っ張りながら店を出た。
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俺とイノリは正門に今到着する。
「ハルは、まだ来てないみたいだな」
辺りを見回してもハルの姿は無い。
そして昨日、俺はここで死闘をしていたのかという記憶が戻ってくる。建物や地面に血が大量に飛び散っていたはずだが、今はもう綺麗さっぱり何事も無かったかのようになっている。
「お待たせーー!」
ハルが走りながらやって来る。
「お疲れ様で〜す♪」
イノリがそれをいつもの、ゆるふわスマイルで出迎える。
「お疲れさん」
俺はそう言って、正門にいる騎士の肩を叩く。
最弱の町と言われていても、流石に見張りの騎士は存在する。
騎士は振り返り。
「どうされましたかな?」
騎士は老人であったようだ。
「この町ってどこに行けば、馬車に乗れるんですか?」
「はて。この町に馬車がないことをお忘れですかな?なんて言ったって、この町は最弱の町と言われていますからな。わっははははー」
騎士の笑い声が高らかに聞こえる。
流石です。最弱の町。
「え、これから、プロクリ村まで歩いて行くのか」
時刻はまだ昼過ぎ。だか、到着するのは明日の昼過ぎであろう。
俺は心に誓う。脱最弱の町を。




