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俺は異世界に召喚された  作者: 達海らおと
第1章〜出来過ぎた一週間〜
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第16話<また会う時までの別れ>

俺は店のドアを引き、店内に入る。店内に客はおらず、いつもと違って、明かりが薄暗くほとんどの椅子や机が片付けられていた。


「お、シンジ君か。ちゃんとお金は稼げたかい?」


声の主は微笑みながら、意地悪そうに言ってきた。


俺はカウンターに座って。


「心配無用だよ。十四万二千ルビーを稼がせて貰ったよ。駆け出しでこれはなかなか凄いんじゃない?」


俺は、ドヤ顔を見せつける。


「駆け出しで、十四万は凄いよ。コーラドライでいいかい?」


「よろしく、ゲンさん」


ゲンさんは後ろの棚を開けて、コーラドライの入った瓶を三本、俺の前に置いた。

ゲンさんは、俺の向かいに座って。


「今日は、金を取らねーよ」


ゲンさんは、俺にグラスを渡してきた。

俺は、グラスを受取りながら。


「え、なんでなんで。なんかあるの?」


「今日はな、いや今日でこの店を閉めることになったんだよ」


ゲンさんは、俺のグラスにコーラドライを注ぎ、自分のグラスにも注いでいる。


「え、赤字とかそんなことなのか?」


「いや、明日から俺は王都に引っ越すことになってんだ。で、王都でまた小さな店を始めるよ」


「へぇー、そうか。それじゃあ今日は、俺のこれからと、ゲンさんのこれからと引っ越し祝いということで」


俺はグラスを上げる。ゲンさんはフッと微笑みを浮かべながらグラスを上げて。


「「乾杯」」


グラスとグラスのぶつかり合う音が、美しく店の中で鳴り響いた。



************


俺とゲンさんは、話しながらコーラドライを口に運んでいく。


「ゲンさんは、昔はかなり有名な冒険者だったんだー。知らなかったなー」


「まあ、昔のことだからな〜」


今、ゲンさんの過去についての話をしているところである。

ゲンさんの話によると、ゲンさんは魔王を倒す勇者候補だったらしい。


「でもなんでだろうな。俺、ゲンさんのそういう話、今初めて知ったんだけどなー。ハルに聞いたら知ってるのかな」


「多分皆、俺という冒険者の存在を知らないって言うと思うぜ」


なんで、ゲンさんはそういうのだろうか。勇者候補だったら、そりゃあ皆が知ってる程有名なもんだと思うのだが。


「なんかあったのか?」


俺は、ゲンさんの様子を伺いながら尋ねた。すると、ゲンさんは遠いところを見るような目をして。


「魔王の幹部に、記憶を食べるおっかない奴がいるんだ。そいつに、俺に関する全てのことを食べられたのさ」


俺は、コーラドライの入っているグラスをカウンターの上に置いて。


「それってどういうことなんだ」


「まあ、簡単に言うぞ。周りの人達の頭の中にある、ゲンという情報が全て消されるってことだよ。たとえ、親かった人達でも皆、俺に関する全ての記憶が消されちまうんだ」


ゲンさんは、俯きながらグラスに入ったコーラドライを飲み干し、注いで入れ直す。


「まあ、そいつを倒せば元通りに戻るんだが、俺は心が折れちまったんだよ。

シンジ君も多分そいつ闘う時がくるかもしれないし、気をつけるんだぞ」


「了解」


俺はコーラドライの入ったグラスを再び、手に持ち飲み干した。


すると、ゲンさんが。


「話は変わるが、シンジ君は何者なんだ?」


「へ?」


俺は、呆気に取られる。


ゲンさんは、俺がこの世界の人間じゃないってことを見破ったのか?いやでも、召喚士じゃあるまいし、何よりそう思わせる情報がなさすぎるはずだ。


「どうして、そう思ったの?」


「いや、いつ聞こうかなとずっと思ってたんだがな、初めて会ったときに普通の人と違う感じがして、サーチをかけさせてもらったんだがな」


この世界の人は、サーチが大好きだなー。


俺は苦笑いをしながら聞いている。


「魔力がゼロってことにかなり驚かされたんだけど、ここから先が俺の読み通りだったんだな」


気になった俺はそれが何なのか、ゲンさんに尋ねる。


「え、何が?」


ここから先って、何があるんだろ。てか魔力ゼロ以上に驚くことがあるんだな。


「シンジ君、なんで君は裏魔力の所有者なんだい?」


「え、裏魔力?なんですかそれ」


初めて聞いた単語に、俺は驚く。


裏魔力?なんだそれ。今まで、俺をサーチしてきた人らは誰もそんなことを口に、しなかったよな。


ゲンさんは、腕を組みながら。


「まだ、裏魔力の力が目覚めていないのか。シンジ君、裏魔力って単語は初めて聞いたかい?」


「はい、初めてなんですけど」


すると、ゲンさんは頷き。


「裏魔力は普通の魔力と全然違うものなんだ。簡単に言うと、普通の人は魔力を持っているが、裏魔力を持っていない。これは当たり前のことなんだ。しかし、ごく稀に裏魔力を持っている人がいる。

裏魔力は、普通の魔力と違ってかなり強力なんだ。それに、裏魔力を持っている人しか使えない魔法もある程にね」


それって俺は選ばれし人間ってことなのか⁉︎チート能力、待ってました!


「ま、詳しいことはそのうち知ることになると思うよ」


「え〜、もったいぶらないでよ。ゲンさん」


するとゲンさんは、微笑み。


「悪いな。俺も明日の準備が残ってるんだ」


「そうか、それは悪いことをしたな」


俺は席を立つ。

ゲンさんは、俺を見上げながら。


「代金はいらねーからな。ま、王都でまた会おうや」


「また、その時まで」


俺とゲンさんは笑い合いながら、別れを交わした。



俺は、店の外に出て。


「また、会える時まで」


そう呟き、宿屋へと足を動かした。




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