第16話<また会う時までの別れ>
俺は店のドアを引き、店内に入る。店内に客はおらず、いつもと違って、明かりが薄暗くほとんどの椅子や机が片付けられていた。
「お、シンジ君か。ちゃんとお金は稼げたかい?」
声の主は微笑みながら、意地悪そうに言ってきた。
俺はカウンターに座って。
「心配無用だよ。十四万二千ルビーを稼がせて貰ったよ。駆け出しでこれはなかなか凄いんじゃない?」
俺は、ドヤ顔を見せつける。
「駆け出しで、十四万は凄いよ。コーラドライでいいかい?」
「よろしく、ゲンさん」
ゲンさんは後ろの棚を開けて、コーラドライの入った瓶を三本、俺の前に置いた。
ゲンさんは、俺の向かいに座って。
「今日は、金を取らねーよ」
ゲンさんは、俺にグラスを渡してきた。
俺は、グラスを受取りながら。
「え、なんでなんで。なんかあるの?」
「今日はな、いや今日でこの店を閉めることになったんだよ」
ゲンさんは、俺のグラスにコーラドライを注ぎ、自分のグラスにも注いでいる。
「え、赤字とかそんなことなのか?」
「いや、明日から俺は王都に引っ越すことになってんだ。で、王都でまた小さな店を始めるよ」
「へぇー、そうか。それじゃあ今日は、俺のこれからと、ゲンさんのこれからと引っ越し祝いということで」
俺はグラスを上げる。ゲンさんはフッと微笑みを浮かべながらグラスを上げて。
「「乾杯」」
グラスとグラスのぶつかり合う音が、美しく店の中で鳴り響いた。
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俺とゲンさんは、話しながらコーラドライを口に運んでいく。
「ゲンさんは、昔はかなり有名な冒険者だったんだー。知らなかったなー」
「まあ、昔のことだからな〜」
今、ゲンさんの過去についての話をしているところである。
ゲンさんの話によると、ゲンさんは魔王を倒す勇者候補だったらしい。
「でもなんでだろうな。俺、ゲンさんのそういう話、今初めて知ったんだけどなー。ハルに聞いたら知ってるのかな」
「多分皆、俺という冒険者の存在を知らないって言うと思うぜ」
なんで、ゲンさんはそういうのだろうか。勇者候補だったら、そりゃあ皆が知ってる程有名なもんだと思うのだが。
「なんかあったのか?」
俺は、ゲンさんの様子を伺いながら尋ねた。すると、ゲンさんは遠いところを見るような目をして。
「魔王の幹部に、記憶を食べるおっかない奴がいるんだ。そいつに、俺に関する全てのことを食べられたのさ」
俺は、コーラドライの入っているグラスをカウンターの上に置いて。
「それってどういうことなんだ」
「まあ、簡単に言うぞ。周りの人達の頭の中にある、ゲンという情報が全て消されるってことだよ。たとえ、親かった人達でも皆、俺に関する全ての記憶が消されちまうんだ」
ゲンさんは、俯きながらグラスに入ったコーラドライを飲み干し、注いで入れ直す。
「まあ、そいつを倒せば元通りに戻るんだが、俺は心が折れちまったんだよ。
シンジ君も多分そいつ闘う時がくるかもしれないし、気をつけるんだぞ」
「了解」
俺はコーラドライの入ったグラスを再び、手に持ち飲み干した。
すると、ゲンさんが。
「話は変わるが、シンジ君は何者なんだ?」
「へ?」
俺は、呆気に取られる。
ゲンさんは、俺がこの世界の人間じゃないってことを見破ったのか?いやでも、召喚士じゃあるまいし、何よりそう思わせる情報がなさすぎるはずだ。
「どうして、そう思ったの?」
「いや、いつ聞こうかなとずっと思ってたんだがな、初めて会ったときに普通の人と違う感じがして、サーチをかけさせてもらったんだがな」
この世界の人は、サーチが大好きだなー。
俺は苦笑いをしながら聞いている。
「魔力がゼロってことにかなり驚かされたんだけど、ここから先が俺の読み通りだったんだな」
気になった俺はそれが何なのか、ゲンさんに尋ねる。
「え、何が?」
ここから先って、何があるんだろ。てか魔力ゼロ以上に驚くことがあるんだな。
「シンジ君、なんで君は裏魔力の所有者なんだい?」
「え、裏魔力?なんですかそれ」
初めて聞いた単語に、俺は驚く。
裏魔力?なんだそれ。今まで、俺をサーチしてきた人らは誰もそんなことを口に、しなかったよな。
ゲンさんは、腕を組みながら。
「まだ、裏魔力の力が目覚めていないのか。シンジ君、裏魔力って単語は初めて聞いたかい?」
「はい、初めてなんですけど」
すると、ゲンさんは頷き。
「裏魔力は普通の魔力と全然違うものなんだ。簡単に言うと、普通の人は魔力を持っているが、裏魔力を持っていない。これは当たり前のことなんだ。しかし、ごく稀に裏魔力を持っている人がいる。
裏魔力は、普通の魔力と違ってかなり強力なんだ。それに、裏魔力を持っている人しか使えない魔法もある程にね」
それって俺は選ばれし人間ってことなのか⁉︎チート能力、待ってました!
「ま、詳しいことはそのうち知ることになると思うよ」
「え〜、もったいぶらないでよ。ゲンさん」
するとゲンさんは、微笑み。
「悪いな。俺も明日の準備が残ってるんだ」
「そうか、それは悪いことをしたな」
俺は席を立つ。
ゲンさんは、俺を見上げながら。
「代金はいらねーからな。ま、王都でまた会おうや」
「また、その時まで」
俺とゲンさんは笑い合いながら、別れを交わした。
俺は、店の外に出て。
「また、会える時まで」
そう呟き、宿屋へと足を動かした。




