第11話<預言者に導かれし仲間>
真っ暗だった室内に朝日が窓から差し込み、朝を告げる。
俺は、机に突っ伏していた頭を上げて、椅子から立ち上がり、大きなあくびをかく。
香ばしい焼き音と匂いが、俺の嗅覚を刺激する。
音のする方を見ると、カウンターでゲンさんが、朝ご飯を作っている。
ああ、そうか。昨日、俺の膝の上で寝てしまった少女を流石にそのままに出来ないので、ゲンさんに店の二階の空き部屋を借りて、そこで寝かすことになったのだ。ちなみにハルもそこで寝ている。
「おう起きたか、シンジ君」
ゲンさんは、フサフサの白髪を生やしながら、こちらに気づき、朝ご飯を皿に盛り付けていく。
「おはよう、ゲンさん。なんか悪いね、わざわざ朝ご飯まで作ってもらって」
ゲンさんは、料理をこちらに運んできた。
「気にするな。気にするな。はい、どうぞ」
ゲンさんは俺の前の机に料理と水の入ったコップを置く。
「あんがと、ゲンさん」
「シンジ君〜、別に名前にさん付けしなくてもいいんだよ」
「いやいや、四十歳も歳の差離れてるし、俺の世界では年上の人には、敬意を表すのが当たり前だからな〜」
「そうかい。ま、こっちも君付けで呼んでるからな。仲良くしようぜ」
ゲンさんは、カウンターに戻って行き、椅子に腰をかけて、本の続きを読み始めた。
俺は、ゲンさんが作った朝ご飯を食べるために、さっきまで座っていた椅子に座る。
すると、階段を駆け足で降りてくる足音が聞こえてくる。
俺は、料理を食べながらそちらを見ると、茶髪で茶色い瞳をした昨日の少女が勢いよく降りてきた。
「ちょっと、待ってってばー」
そう言いながら、後からハルも勢いよく降りてきた。
俺はフッと笑い、水を飲んで。
「はてさて、どうなることやら」
そう言って俺の異世界生活、三日目が始まりを告げた。
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「それでは、自己紹介を始めて下さい!」
ハルの掛け声とともに、質問タイムが始まった。
長方形の机を挟んで、俺とハルが隣りに座り、向かいの席の真ん中に少女が座っている。
茶髪の少女は、背筋を伸ばして。
「私は、イノリです。十四歳です」
「なるほど、名前はイノリで中坊ね」
中学二年ってところか。うん、大丈夫だ。ナニがとは言わないよ。
「中坊が何なのか知りませんけど、馬鹿にされた気になりました」
イノリは、俺を見ながら顔を、膨らます。
何それ可愛いな。流行ってんのかな。あと、あざとい。あざとすぎるよ。
「まあまあ、シンジは変な事言う人だから気にしないで続けて」
変な事言う人ってなんだよ。少しハートブレイクされましたよ。ええ、はい。
「分かりました。私は、魔法使いです。主に、魔法弾使いってやつですね」
イノリは、手を伸ばしながらそう言った。
魔法弾?何それ。名前がかっこいいじゃねーかよ、おい。当たったら、飛ばされそうだな。
「へぇー、魔法弾使いかー」
横でハルが、関心している。
「なんだ?そんなに魔法弾とやらは、かっこいいのか?」
「いや、魔法弾を使いこなせる人って少ないんだよ。大抵の人は魔法弾を使うと、暴発して自滅するオチだから」
かっこいい分、代償も大きいのか。めっちゃかっこいいじゃねーか。
「わ、私は暴発なんてさせませんよ。ちゃんとした、魔法弾使いです」
イノリは、手を横に振っている。暴発しないということを主張しているのであろう。
「ま、いいんじゃないか?」
「え、何が?」
ハルは、キョトンとしている。
「はぁ、パーティーメンバーだよ。二人だけじゃしんどいし、人数が多い方が楽しいだろうし」
やっぱりなにごとも、仲間集めって大切だよね。
「そうだね。パーティーメンバーは多いに越した事はないし、賑やかになるもんね」
俺は、イノリの方に向く。
「うちの、パーティーに入らないか?」
「喜んで入りますよ。ええ、この時を待っていたのですから」
イノリは、前のめりになりながら、微笑んでいた。
さて、これでパーティーメンバーが三人になりましたか。
いい感じですなー。
俺は、ずっと抱いていた、疑問を思い出した。
「なぁ、イノリ。聞きたい事があるんだけど」
「はい、なんでしょう」
イノリは、こちらを見る。つられて、ハルもこちらを見てくる。
「昨日のことなんだが、イノリが俺のことを探しているように見えたんだが、なんだったんだ?」
「ああ、それですか。それはですね、丁度四日前のことなんですが」
四日前といえば、俺がこの異世界に召喚される前日だよな。
「道を歩いていると突然、赤いフードを被った男達に囲まれて、慌てていたら、次の日から奇妙な格好をして、何やら首に青くて細長い物を巻いている男が現れると言ってきたんですよ」
俺は、自分がしているネクタイに目を落とす、確かに青色だ。
ハルは、こちらを見てくる。
そういえば、俺の服装が変だとか言われたな。つまり、赤いフードを被った男達が指しているのは、俺であろう。
「そして、赤いフードの男達が私に、その男のパーティーに加わり、一緒に魔王軍の幹部達を倒していく未来が見えるとかなんとか言ってきて。まぁ、結論を言うと幸せが待っているって言ってきたんですよね〜」
へえー、赤いフード達は俺が召喚されるのを知っていて、その先を預言しているみたいな感じだな。
それにしても。
「なんか、占いみたいな感じな話しだな」
「占いじゃないですよー。なんか現実味がありません?」
「ま、そう言われたら何も言い返せないな。続きを、話してくれ」
ハルは、身を乗り出してその話の続きを早く聞きたそうだ。
「私は、幸せになるって言う話だったので半信半疑で、その次の日からその男の人を探すことにしたんですよ」
次の日といえば、俺が召喚された日か。
「すると、ビンゴで。町に変な服装をして、首に青色の細長い物を巻いている男が現れたって、噂になっているのを聞きつけて、私はもう赤いフード達の言っていることを信じないといけないなと思ったわけですよ。
なんてったって、幸せが待っているのですから」
イノリは小さく微笑み、こちらを見てきた。
「それから、私はあなた方の情報を聞き周り続けて、昨日に至ったわけですよ〜」
そうかい。だから昨日、見つけたみたいなことを言っていたのか。
「俺が聞きたいのはこれだけだ。ハルは、なんか聞いときたい事とかないのか?」
「うん、私は今の話でお腹いっぱい」
ハルは、お腹をさすりながら言ってきた。
なんとも、分かりやすい返事をありがとう。
すると、イノリが手を挙げる。
「あの〜、なんて呼べばいいですか?」
そっか、こっちの自己紹介はしてなかったな。
「俺は、シンジだ。呼び捨てで、全然いいぞ」
「私は、ハルでーす。呼び捨てしてくれていいからね」
「そうですか、分かりました」
イノリは顔を一瞬伏せて、すぐにまた顔を上げて。
「これからよろしくお願いしますね。ハル。シンジ」
イノリは、少し微笑みながら言ってきた。
こうして、魔法弾使いのあざとい仲間が三人目として、うちのパーティーに加入した。
ニコニコしながらゲンさんが、俺の肩を、叩きながら。
「プニリン討伐クエストに行かなくて、大丈夫なのかい?」
あ。やば。完全に忘れてた。
俺は、勢いよく立ち上がり。
「クエスト行くぞ。ハル。イノリ」
「「おおーー!!」」
二人の元気な返事と共に、俺は店から飛び出した。




