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第六十八話 リットン達の逃避行

明けましておめでとうございます! 今年も宜しくお願い致します!

「前進の命令が出た! 行くぞ!」


 ミハエルはそう叫び、前進を開始した。

 今まで後退を続けていた戦車隊が一気に前進を開始していく。数十両もの戦車が一斉に攻撃を始める絵面は、壮観な光景であった。


「これほどの戦車隊が進撃するんだ。敵さんもすぐに気付くだろう」


 ミハエルは砲手に向け言った。


「警戒を強めておきます」


「それが良いだろう」


 ミハエル達は警戒をさらに強めて進軍する。そのミハエル車の前に燃えさかる何かが見えてきた。


「あれは……」


 それはかつては良く見慣れたもので広い戦場の至る所にあった代物だ。こちらの世界に来てからはあまり見かけなくなったが。


「偵察隊のものだな」


 ミハエルがぶすりと言った。

 この世界に来てからはあまり見なくなっていた光景であったが、魔国進行作戦時からこのような戦車を見る機会が増え出している。敵もかなり強力な抵抗を見せ始めている証拠であった。

 ミハエルはどこか祖国の戦争と似た雰囲気を感じ始めていたが、気のせいだと考えないようにした。


「偵察隊は全部で三両いるはずだ。残りの二両を探そう」


 そう言って操縦手に前進を命じた後、通信手に一両が撃破された状態で発見されたことを報告した。






「見つけた! あれが敵の本隊だ!」


 リットンは不意に叫んだ。

 彼らはさらに前進を続け、ミハエル達がいる地点から五㎞ほど離れた地点で止まっていた。


 彼らが発見したのは正しく今、敵が味方の陣地を攻撃しているところであった。

 

「それにしても凄まじい激戦だな。黒煙で前線の様子がろくに分からん」


 敵味方が戦っている前線は敵の攻撃魔法とジーマン軍の砲撃が集中し、土煙やら黒煙やらが凄い勢いで吹き上がっていて、とても確認できる状態ではなかった。


「だが、味方はどうにか持ちこたえているようだが、かなり苦戦しているな」


 リットンは持ち前の情報処理能力を持ってして味方の状況を正確に読み解いた。

 敵が攻撃を繰り返しているのに対し、ジーマン軍は攻撃を行えていない。つまりは敵の攻撃を押し返せるだけの戦力が無いことになる。このままではじり貧の戦いになり下手をすれば、敗北することは明白であった。


「すぐに司令部に報告をしないとな。一旦、ここから離れるぞ!」


 操縦手に後退をするよう命じる。

 しかし、ここまで入り込んだ戦車に気付かないほど敵も優しくはなかった。


「敵兵、およそ五十! こちらに向かってきます! 本車、六時方向!」


 慌ててそちらを見ると敵兵の集団がこちらに向けて走ってくるのが見える。


「くっそ! 後退していては間に合わん! 戦車前進!」


 リットンは戦車のエンジンを破壊されまいとすぐに戦車を前進させる。

 逃げようとするリットン車の周囲には敵兵から発射された魔法が数多くの土柱を上げる。


「下手くそな兵士だ!」


 魔法の轟音に負けぬよう捨て台詞を吐いて、一気に戦車はエンジンを吹かし、スピードを上げていく。


「このままでは面倒だ! 砲手、砲塔を後ろに旋回! 狙いはどこでも構わん! 撃て!」


 そう言って砲塔を後方に旋回させる。


ドン!


 轟音が響き、車内に硝薬の煙が充満する。


 砲弾は敵の遙か手前に命中。しかし、驚いたのか敵の走る速さは若干、衰える。


「このまま引き離すぞ!」


 そう言って、リットン達は逃げ切ろうとするが一向に距離が離れる気配がない。


「操縦手! 何をやっている! エンジンを目一杯にして早く引き離せ!」


「すでにエンジンは全力です! これ以上、やったら壊れてしまいます!」


「何だと!」


 確かにこの辺りは舗装されている道ではないため、速力低下はやむを得ない。

 しかし、四号戦車は荒れ地でも時速一六㎞は出る。これは一般人が走る速さと大して変わらない。理論上は可能ではあるが、彼らは兵士で鎧や武器なども装着しており、さらに足場の悪い場所での走りだ。あまりにも速すぎる。


「これ以上出しようがないなら仕方が無い! この速さのままどうにか師団に合流するぞ!」


 しかし、その逃避行は長くは続かなかった。


 後方から追いかけてきていた敵兵の周囲に突然、幾つもの土柱が上がった。それも機関銃のような細いものではなく、明らかに迫撃砲サイズの大きさの土柱だ。

 敵はその攻撃に驚き、すぐに反転、その場から逃げ出した。

 リットン車の前方からは多くのエンジンを吹かす音が聞こえ、やがて敵を追い払ったものの小隊があらわになった。


「前方に味方戦車隊です!」


「ここまで前進してきていたのか!」


 装填手の言葉にリットンは驚く。


「一号車はどうなったんだ?」


 通信手がぼそりと呟く。


「先ほどの報告をするから聞いてくる」


 リットンはそう言ってキューポラから車外へと出て行った。

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