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第六十七話 戦わずして敗北するか、戦って可能性を見いだすか

長いタイトルで申し訳ありません。

「先遣の偵察部隊と連絡が取れません!」


 司令部付きの通信兵が司馬懿の元へ報告を上げてきた。


「何だと! 無線機の故障などでは無いのか?」


「はい! どの無線機を使っても交信が取れないので、向こう側に問題があるかと……」


 司馬懿は報告を受け、すぐに閣僚を呼び緊急会議を開いた。


「偵察隊は現在、本隊と敵の交戦区域に入ったものと思われます。そこから急に通信が途絶しました。現在、前線部隊が現場に急行していますが、確認が終了するまではしばらく掛かる模様です」


 司馬懿の報告を受け、真一がう~んと唸りながら、地図を見つめる。


「偵察隊と連絡が途絶したと言うことは敵の攻撃により偵察隊が全滅したと考えるのが一番だが、そのような範囲攻撃を持つ敵はそうたくさんはいないはずだ。と考えるとそれ以外の可能性を考えた方が良いな」


 しかし、守が反対の意見を述べる。


「いや、相手はあの諸葛孔明だ。あり得ないと思われる攻撃の仕方でこちらの意志の裏を突くのでは無いか?」


「司馬懿、どう考える?」


 幸一は司馬懿に尋ねる。

 何せ司馬懿は十年もの間に渡り、司馬懿と頭脳戦を繰り広げた人間だ。諸葛亮の思考などをこの中で最も理解している人間であることは明白であった。


「率直に申し上げて、孔明はそれほど恐れるほどの人間ではありません」


 司馬懿は断固たる口調で言う。


「あやつは自分の勢力の現状を良く理解した上で攻守を切り替えつつ行います。自分の勢力が優勢であれば劣勢のように見せ、油断を誘い大勝利を得るようにしますし、逆に劣勢であれば勢力を用いて敵を分断するなり何なりして勝利を得るようにします。それでも駄目なとき奴は始めて撤退を始めます。それでも撤退を悟られぬように撤退するのが奴の流儀です」


「つまりは?」


 真一は司馬懿の言いたいことがイマイチ読めず、結論を急かす。


「孔明は自分の見せたい形をこちらに提示してくるのです。つまり、現在こちらが敵の強力な部隊がいると考えているならば、それと逆の現象が起きている可能性が高い」


「ならば、偵察隊は全滅したわけではないのだな!」


 グデーリアンが嬉しそうな声で言う。


「必ずとは言えません。何せ奴は天才。時たま逆のことをしてきます。それ故、あくまでも一つの可能性として捉えておいてください」


「……分かった」


 真一が少し気落ちしたように言う。


「グデーリアン殿、第一独立師団の第一、二,三大隊の戦車師団を前面に配置。慎重に進行しつつ常に相互間における通信を密にするよう命じてください。なお、何か異常が確認されればその瞬間、撤退を行い司令部にその旨を報告するようにとの連絡もお忘れなく」


「了解!」


 グデーリアンは通信兵を呼び出し、すぐに各車両に伝達を行う。


「とりあえずはこれで様子を見ながら敵へ向かいます。最悪の場合は通信が途絶し、判断を各車長にゆだねることになるかもしれないことを御覚悟ください」


 司馬懿はグデーリアン達に告げた。その声には何の感情も感じられなかった。




「ここらへんだな。偵察隊が消息を絶ったのは……」


 ミハエルは指揮下の戦車と共に交戦区域まで残り二分と行ったところまで到着した。


「ここから先は何が起こってもおかしくはない。各車警戒を強めつつ、前進せよ!」


 そう言って全車に前進を命じた。

 この時、ミハエルの周囲には四〇両近い四号戦車が単横陣になって前進をしている。この理由は敵の魔法が貫通する可能性のある後部や側面を守るためだ。


「交戦区域と思われる地点に突入します!」


 通信兵が地図を見ながらそういった瞬間の出来事であった。

 先ほどまで通信が行われていた無線機が急に動かなくなったのだ。


「無線機、動きません!」


「やはりか! 良し、一旦撤退!」


 そう言ってミハエルの戦車が後退を始める。

 そして、ある地点を越えた瞬間から無線機が再び動き出す。


「司令部に打電! 五〇六地点より北方方面において無線による連絡が不可能になり、交信は困難!」


「五〇六地点より北方方面において無線による連絡が不可能になり、交信は困難、送ります!」


 通信兵が復唱を行い、打電を始める。


「それにしてもこの通信障害は何が原因だ?」


「敵が張ったものは間違いありません。ミンシュタイン殿は無線の大切さを重々承知ですし、自ら危険になるような無線妨害を行うようなことはないと思います」


 砲手がミハエルに向け言う。


「しかし、敵がやるにしてもどうやってこのような事を……」


 謎は深まるばかりであった。




「やはり無線妨害による通信の途絶でしたか……」


 司馬懿は予想されていた通りの出来事が起きており、それほどの驚きはなかったが、問題はこれにどう対処するかである。


「グデーリアン殿、このような場合どうすれば良いのです?」


「ふ~む。もともと我が軍は通信を頻繁に行いながら交戦を行うよう訓練されていますから、あまりこのような事態を考えておらんのです。しかし、手はあります」


 そう言ってグデーリアンは地図の一点を指さした。


「ここバラーの町にはおそらく友軍がいるはず。ですからここを最終目標として、攻撃を行うのです。今のうち、ある程度指示を出しておきます。その指示を最小限にし、後は兵に臨機応変に対処させればよろしいかと」


「それでは何か起きたとどうするのです? 最悪の場合、各個撃破されますよ」


「部下達は長い間、強力なソ連軍と対戦を行ってきた一騎当千のものばかり。多少の事であれば対処できます。それこそ彼らが対処できないような事態が起きれば、我々の負けです。どちらにせよ我が軍に道があるとすれば二つ。このまま戦わずして敗北を待つか、戦って少しでも可能性を高めるかのどちらかです」


「分かりました。行きましょう」


 司馬懿は第一独立師団全軍に攻撃開始命令を発令した。

 今年度の投稿はこれで終了となります。皆様、良いお年を!

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