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第二十一話 籠城戦

「それで、援軍は来ぬと言うことか……」


 コットン国王は落胆した。


「誠に申し訳ありません!」


 カーゼルは勢いよく頭を下げた。


「やはり、我が軍も護衛に回すべきでした」


「今頃後悔しても遅い。次に気をつければよいのだ。我が国に次の機会があればだがな……」


ショックから立ち直れない国王にカーゼルは何も言えなかった。


「戦況は?」


「互角の戦いはしておりますが、そろそろ撤退も考えたほうがいいかと」


この時に実は一番奮戦していたのが李典隊の残された2千の騎馬隊であった。彼らは専ら、魔王軍の補給線に繰り返し奇襲を仕掛けており魔王軍は徐々に被害に悩まされるようになっていた。このおかげで、この城は魔王軍の総攻撃を受けずにいる。


「どうやってこの包囲網を突破するのだ!策があるなら言ってみろ!」


「……。」


「まぁ、いい。ところで護衛を行った勇者達の消息は掴めたか?」


「はっ。国境警備隊の方から勇者達と特徴が一致する人間が5人ジーマンの方に亡

命したとの情報が入りました」


「何と!越境を許したのか!」


 国王は頭を抱え込んでうめいた。


「しばらく一人にさせてくれ」


 そう言ってカーゼルを退出させた。

 カーゼルが部屋を離れていくのを確認した国王は指を鳴らした。

 すると部屋の影から這い出してきたように突然一人の男が姿を現す。


「いかがなさいましたか?」


「例の5人を知っているな?」


「はい、監視対象でしたので」


「奴らを消せ。まだ間に合う内に」


「分かりました」


 小さく返事をすると男は、すうっと消えた。


「とうとう、この時が来たか……」


 そう呟く国王の目には窓の外の空を流れる一筋の流れ星が写っていた。


 

 カーゼルが参謀本部に戻ると戦況を副官に尋ねた。


「戦況は?」


「我が軍は城の各所にて善戦しております。しかし、如何せん数が多すぎます。徐々に被害が拡大しつつあり、兵員の10%はやられました」


「そうか。勇者達は?」


「ただいま休憩を取らせております」


「分かった」


「しかし将軍、もはや全滅するには時間の問題かと…」


 副官が言った通り全滅は時間の問題だということはカーゼルにも分かっていた。


「分かっておる。ところで、あの李典隊の殲滅された理由は分かったか?」


 カーゼルがかねてから調査させていたことを聞いた。というのもカーゼルは演習で李典隊と戦ったことがあった。その時、魔法を使っていたにも関わらず、李典隊の3倍の兵力を使ってようやく互角の勝負をすることができた。カーゼルは無能どころか王国にその人ありとまで言われた戦上手である。そのような将軍相手に寡兵でも互角の勝負をできる部隊が簡単に殲滅されるとは考えずらかった。


「いえ、それが全くと言っていいほどしょうこがなくてですね……。ただ、気になる情報が一つ」


「何だ?」


「それが、近くの村に王国軍1万ほどの軍勢が駐留していたらしいんですよ」


「だからなんだ、援軍の一部が駐留していたのだろう」


「当時、援軍は村ではなく平野で駐留していたと言っています。なお、脱落した部隊などはないとのことです」


「つまり、存在しないはずの王国軍がそこにいたと言うことか……」


(その妙な王国軍が李典隊殲滅に関わっているのは間違いない。しかし、その戦いを知るものは一人もいないはず……)


 カーゼルはそこまで考えたとき、一つ忘れていたことを思い出した。


「そういえば、勇者達5人が亡命したはず。彼らならば何かを知っているはずだ!」


 そういうや否やカーゼルは、すぐに兵士を何人か呼び出して勇者たちから事情を聴いてくるよう伝えた。そして、彼はどうにかしてこの城から脱出できないか考えた。

しかし、周りは魔王軍だらけである。蟻一匹逃げ出す隙もないその包囲網をどうやって抜け出すか。それを考えたときカーゼルは一つの部隊に目を付けた。


「いやぁ、敵は全く城から出てくる気配がないねぇ」


 そういいながら、魔王軍の警備の兵士はあくびをした。何せ、開戦してから一度もコットン軍による襲撃を受けていないのだ。増援も撤退したとのことだし、気が緩むのは当然と言えた。


「それにしても今朝はやたら騎馬隊が動いてるねぇ、あんな後方にいた騎馬隊が出てくるとはそろそろ総攻撃でも始まるのかな」


 そんな呑気に構えている兵士は騎馬隊をのんびり見ていた。その騎馬隊の旗印が後方にいたものと違うことに、そのことを魔王軍の見張りは一人も気づかなかった。もし彼がもう少し気を引き締めていたら気づいていたであろう。


 その旗印には、こう記されていた。

 李と。


 魔王軍の攻撃の指揮官であるグレイは、朝食を取っていた。だいぶ、攻城戦に目途が立っていたためにリラックスした朝を迎えられるはずだったが…


「それにしても今朝はやたらと騒がしいな。そんな元気があるなら、前線に配備してやろうか」


 そうブツブツと文句を言ってると副官が天幕に駆け込んできた。


「敵の奇襲です!」


「何!正面から来たのに何故奇襲になる?」


「正面からではありません。後方からです、後方から敵が攻めてまいりました!」


「何だと!見張り員は何をやっている!寝ていたのかぁ?」


 そう怒鳴りながら、天幕を出ると陣地の中ですさまじい暴れ方をしている騎馬兵が1,500騎ほどいる。


「直ちに魔法兵に音響魔法を使うよう伝えろ。それから、槍兵と盾兵を奴らの前面に出し、袋のネズミにしろ」


 副官に伝え、グレイは戦況を見守った。


(ふん、敵も馬鹿だな。これほどの包囲網を突破できると思ったのか)


 グレイは敵の指揮官を嘲笑した。しかし彼らの本当の目的が攻撃ではないことをこの後、知ることになる。


「もう、戦い始めてから何日目になるんだ?」


 力のない言葉で呟いたのは佐藤だ。勇者たちは今のところ犠牲者は出ていないが、精神的な疲労と肉体的な疲労はとっくにピークに達していた。


もう駄目かもしれない。


誰もがそう考えていたとき、突然門が開く音がした。


「何考えているんだ!今の段階で開けたら敵が……」


 そう怒鳴ろうとして、中に入ってきたものの正体に気づいたとき、誰もが驚愕した。



「「「なぜ、李典隊が!」」」


 そこには李典隊の騎馬隊が500騎ほど到着していた。


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