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契約




『お客様は奴隷契約は初めての様ですね、中で詳しく説明させていただきます。』



そう言うと、獣人の彼は放置して中に案内された。




もうちょっと、我慢しててね。



『それでは、先にご登録致しますのでお名前をお聴きしてもよろしいでしょうか』



「カンナと申します。」



『カンナ様ですね、とても良い名前ですね!


では説明に移りますね、


奴隷契約とは、私たち奴隷商会が立会人となって、カンナ様と奴隷を主従契約させます。

これは商会の規約により必ずしなければなりません。

契約方法は、カンナ様にはこちらの指輪を左手の薬指に、奴隷にはこちらの首輪を装着していただくだけです。

これだけで契約は完了し、奴隷はお客様に危害を加えるどころかカンナ様のご命令無しでは何も出来ません。

奴隷を何処まで自由にさせるかは、カンナ様ご自身でご命令下さい。


何か質問はございますか?』



「あの、指輪は左手の薬指じゃないと駄目なんですか?」


『主従契約しているかどうかは、薬指の指輪で大体判断がつきます。

規約には無いですが、暗黙の了解として皆さん左手の薬指にしておられますね。』




左手の薬指の指輪が、まさか奴隷契約の証だなんて…

日本で産まれた身として受け入れずらいなぁ。



『他に質問はございますか?


左様でございますか。

また何か気になることがございましたら、なんなりとお申し付け下さい。



では早速ですが、契約の儀に参りましょう。




そう言って店主は席を外した。

きっと獣人の彼を連れてくるんだろう。


また手荒な真似をしないでくれたらいいけど…



やはり心配は的中した、ドアの向こうから店主の怒鳴り声と鞭打つ音が聞こえてきた。




『さっさと歩けッ!!死に損ないが!!』



店主は最後に彼にひと蹴り入れると、恭しくこちらに一礼をしまた大声で命令を下した。


『跪け、これからお前はこの魔術師見習い様の奴隷となるのだ!


カンナ様、この者はこんな美しく気高い方の奴隷になるなどさぞ光栄でしょう!!


ではこれより契約の儀を始めます。

カンナ様、まずはこちらの指輪をおつけ下さい。』



言われた通りに薬指に指輪をつける。

なんの変哲も無い、シルバーリングみたいだ。



『ではこちらの首輪を、奴隷に装着してください。

必ず指輪をはめた手が、最後に触れる形でつけてくださいね。


…おい!!さっさと跪かんか!!!!』



首輪を彼に装着しようとしたが、以外と身長が高くせめてしゃがんでくれないと届きそうになかった。

痩せ細ってはいるが、優に2メートルはありそうな体型だ、肉がついたらさぞ見栄えする身体になるだろう。


彼は店主が促すが一向に跪く気配はない、それどころか獣耳や尻尾が驚く程殺気立ち、こちらを見下ろす瞳も鋭く、冷酷だ。

誰が奴隷になんかなるかと、全身で表している。


焦れた店主は、再び鞭を手に取った。




「ま、待ってください!大丈夫ですから…」



慌てて店主を制すと、再び彼に向き直る。

緊張からふぅ、っと一息はくと、彼に話しかけた。



「私の名前は、カンナ。

貴方のお名前は?」


『カンナ様、奴隷に名前はございません。

名を付けるならカンナ様がおつけ下さい。 』


「え…でも貴方は、ここに来るまでには名前があったでしょう?」





『名などない、産まれてからずっとここで暮らしている。』



初めて彼は言葉を発した。

その重い内容に言葉を失う。



名前がない…この歳になるまでずっと…




もう一度彼をよく見る。

耳と尻尾の毛並みから察するに、彼は犬かそれにちかい獣人なんだろう。


ふと、昔家で飼っていた愛犬を思い出した。


カンナが幼い時に死んでしまったその子は、初めてカンナが声を聞いた動物だった。



「クリス…」


『クリス…?』




「決めたよ、貴方の名前は今日からクリスよ。


クリス、私は貴方と契約したい。

お願いします、私に力を貸して下さい。」


そう言って、彼、クリスに向かって頭を下げた。



『お、え、カンナ様!! 何をしてらっしゃるんですか!!!?奴隷に頭を垂れるなどと…』


「いいんです!私はクリスがほしいから!」



こんなお客様は見たことないと、店主は目を見張る。

それもそのはず、奴隷が地上至上下位のこの世界で、お願いしたのはカンナぐらいだろう。


しかし、クリスは反応を返さない。



「………私じゃ、ダメ、かな…」



微動だにせず、クリスも店主同様目を見張ってこちらを見ている。

驚きと戸惑いで、まだ状況が理解出来ない様だ。



『…お前は、俺が欲しいのか…?』



信じられないとばかりに微かに言葉を紡ぎ出す。


「ええ、だから、お願い。

この首輪をつけさせて。

じゃないと、私のものにならないから…」



哀願するように、言葉を返すと、クリスはやっと動き出した。

その身体は、首輪を持っているカンナに向けてゆっくりしゃがみこみ頭を差し出した。



『好きなようにしろ』



カンナは頷くと、クリスの首に丁寧に優しく首輪をはめた。




『ひ、ひとまずこれで奴隷契約は終了になります。』







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