獣との出会い
道行く先に一際賑わう場所があった。
もしかしたら集会所まで近いのかもしれない。
商店街を抜けると、その先には大広間が広がっており人々でごった返していた。
至る所から歓声が聞こえてくる。
お祭りでもやっているのかな?
騒ぎの元を見てみたかったが、この人混みじゃ、中心まで行けそうにない。
諦めて集会所を探すことにした。
中心から外れ、ギルドの看板はないかと探す。
不思議な事に会話も文字も日本語で支障はなかったから助かった。
辺りを見渡していると何処からともなく、誰かを怒鳴りつけるような声が聞こえてきた。
『……ッ!!…が!!』
「なに…?」
声がする方へ歩いて行くといかにも怪しげな店が現れた。
その店の横に細い路地裏の様なところがある。
中を覗くと信じられない光景が広がっていた。
大小様々な大きさの檻がある、あの奴隷商人が馬で引っ張っていた檻と同じ物の様だ。
狭い路地裏で適当に放置された檻の中に入っているのは、その時に見た光景。
一見人間にしか見えないが、動物の耳や尻尾が生えた彼らが、檻の中に鎖で繋がれている。
その檻の一つの前で、小太りの男が怒鳴っていた。
時折鞭で中にいる獣人を叩いている様だ。
『この、売れ残りがッ!!獣風情が反抗的な目をしよって!!!!』
獣人は檻の中で大人しく鞭の餌食となっている。
鎖で身体を動けせないからだろう。
余りにも無残な光景に、見ていられなくなったかんなは小太りの男の前に飛び出した。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
『ッ!おお、これはこれは…失礼致しましたお客様!』
男はかんなの姿を目に留めると、素早い動きで鞭を仕舞い先ほどまでの痴態はまるでなかったかの様に冷静さを取り戻した。
「あの、この人、何かしたんですか…?」
『んん?ああ、いえいえ只の躾でしてね?
売れ残りの分際で主人に逆らってばっかりいるもんで…お見苦しい所をお見せ致しました。』
「躾って…」
中にいる獣人を見てみる。
痩せ細り身体中傷だらけの姿は、きっと今つけられた傷だけではないんだろう。
長年酷使されてきたのを、この傷跡が物語っていた。
年の功は余りにも汚れすぎて判断がつかないが、30ぐらいだろう。
真っ黒に汚れた顔から唯一確認出来る瞳は、ギラギラと血走っている。
『お客様、もしやもしやその身包み、魔術師の方でしょうか?』
「まだ見習いですが」
『あぁ、見習いの方ですね!
さぁさぁ、こんな所ではなく、店内に行きましょう!
ここは売れ残りしかいませんからね、中でしたらまだまだ綺麗な上物が揃っておりますよ!』
小太りの男はどうやら奴隷商人らしい。
グイグイと腰を抱き店の中に案内しようとしてくる。
「あ、あの、さっきの人は!?」
『んん?さっきの獣人ですかな?
あいつはあの通り見た目も悪く反抗的でね、今回で始末しようと思っていた所なんですよ』
「始末ってまさか…殺すんですか…?」
『ええ、その通りです』
そんな…ひどい…
その獣人は弱ってはいるがまだまだ生きている。
売れないからとはいえ、そんなあっさり殺すだなんて…
非道な行いに怒りが湧いてくる。
しかし、助ける手段は…
ふと、ある考えが頭を横切った。
「あの、この人、いくらですか?」
『え?』
かんなの問いに店主は変な声を上げた。
『まさか…お客様、この獣人をお買い上げで?』
「はい…お金は無いですけど…」
そう、かんなは獣人を購入しようと考えた。
だがしかし、あいにく金銭は持ち合わせていない。
相場はわからないが、もしかしたらこの無駄に豪華装飾がついたローブを売り払えば、買えるかもしれない。
とにかく、このまま彼を見過ごすことなどできなかった。
『お客様…残念ですがこいつは全く使い物になりませんし、ましてや魔術師様になるやもしれない方には到底お売り出来る代物ではございません。』
「それでも構いません、買ってから返品もしません。
」
『…』
かんなの言葉に店主は何かを考えこむように黙った。
そして考えがまとまったのか口を開いた。
『ではお客様、こうしませんか?
この獣人はお客様に無償で差し上げます、元々値段をつけるほどの価値もございませんからね。
お客様には、魔術師様になられてからも、今後この店をご贔屓にしていただく…
この条件でしたら、ご契約させていただいても構いません。』
「本当ですか!」
良かった、条件つきとはいえタダにしてくれるみたいだ。
その条件も別にこちらが困ることでもない、今後奴隷商人のところになんか来ないんだから。
「ぜひお願いします。」
こうして、私は1人の獣人と出会った。