火事
世界を救ってほしい、突然難題を押し付けられ、更に森に取り残され途方に暮れるかんな。
ふと、サルージャに言われた言葉を思い出した。
かんなのもう一つの力。
一体どんな能力なんだろうか。
とりあえず森を散策してみることにした。
一応貰った服は着替えて、鞄がないので手には着ていた服を持って出発した。
まずはここが何処か把握せねば。
鳥さんとかリスさんとか、優しい動物がいてくれたら道案内してくれるかも…。
そういえば森の割にはさっきから一匹も動物が見当たらない。
これもサルちゃんがいってたことと関係があるんだろうか。
森を彷徨い始めて半日が経った。
結局森を抜けるどころか、人も動物も出くわすことはなかった。
唯一川で魚を発見したが、あいにくかんなは魚と喋ったことはなかったので諦めた。
歩き疲れて足がフラフラだ。
休憩しよう。
川のほとりの岩に寝そべってみる。
すると疲労からか急に睡魔に襲われ、かんなはそのまま眠ってしまった。
何やら周囲が騒がしい
甲高い声、悲鳴、大きな動物が移動する音、怒鳴り声
そんな騒音で悠長に寝ていられるわけもく、一気にかんなは夢の世界から現実に引き戻された。
「な、なに…?」
周囲の眩しさに一瞬まだ昼間かと思ったが、空はすっかり暗くなっている。
森には所々で小さな明かりがついていた。
いや違う、明かりじゃない、これは炎だ!
「うそ!火事!!逃げなきゃ!!!!」
急いで立ち上がると何処かに逃げ道は無いかと探す。
出来るだけ火の手が上がっていない様な場所に走った。
森に入るも、何処を見ても炎がかんなを襲ってくる。
必死に逃げ場はないかと探すも、走るのに精一杯だ。
やばい…どうしよう…!!
先程の水場に戻りたくても炎で倒された木々が行く手を阻んでいる。
逃げられない!!
『うわ!こんなとこにも人間!!』
かんなの耳に、何処からかハッキリした叫び声が聞こえてきた。
「誰か、誰かいるんですか??」
『ほっとけ!!奴らの仲間だ!!』
『早く逃げないと!』
「お願いします!!
助けてください!!!!お願いします!!!!」
『でも、様子が変だぞ!』
『なんか変だ、あいつ!』
話している声は聞こえるが、姿を確認することが出来ない。
「お願いします、私を助けてください!!」
最後の力を振り絞って助けを求める。
姿は確認出来ないが、向こうでは何かを相談する様な話し声が聞こえてきた。
『あいつの周りのあれってもしかして…』
『水の精霊様のご加護だ、そうに違いない!!』
『でもあいつは人間だぞ!』
『けど水の精霊様が護ってらっしゃる!!僕らの味方だ!!』
話し声が止まると炎の中から何かがかんなの前に降り立った。
この子は…リス?
小さいこの子は一見リスにも見えるが、リス特有の特徴的な尻尾が明らかにでかすぎる。
人間の顔ほどの大きさだ。
『早く!着いてきて!!』
リスみたいな生き物はひらりとまだ火がついていない木に飛び移ると、倒れた木々の上を一気に飛び越える。
「まって!火が…」
『大丈夫だよ、精霊様が護ってくださってるから、熱くないよ!!』
精霊様?
『早く来ないと、置いてっちゃうよ!』
そう急かすと森の中を器用に掻い潜っていく。
このままじゃ置いてかれてしまう。
意を決して炎が燃え盛る木を飛び越えた。
熱い……くない!
それより、炎が触れる前に、避けていくような感覚がする。
『精霊様が護ってくれてるから、熱くないでしょ!
さぁ、この調子で森を抜けるよ!』
「わかった、けどちょっと待ってよー!」
『早く早く!!』
急いで後をついていく。
かんなたちが動き出すと、周囲から影の様なものが一斉に飛び立った。
よく見ると、その影もリスの様な動物の仲間みたいだ。
かんなを護る様に、影の軍団は森を進んでいく。
「どこまでいくの??」
『水の精霊様のとこさ!!火の精霊様を説得してもらわないと!!』
「さっきから精霊様って、一体誰なの??」
『何言ってるんだよ、この森を護ってくれる神様じゃないか!
君を包んでくれているのも、水の精霊様だよ!』
至る所から返事が返ってくる。
今自分の身に起きている不思議な力も、その精霊様のおかげみたいだ。
サルちゃんみたいな神様なのかな?
しばらく走ると、さっき眠りについていた水場に戻ってきていた。
先頭を走っていたリスもどきは水場に寄ると話しかけはじめた。
『水の精霊様!火の精霊様が怒っておられます!
このままじゃ森は全滅してしまいます!!』
一瞬沈黙が走ると、口々にリスもどきたちは騒ぎはじめた。
『また人間の仕業か!』
『やっぱり奴らは野蛮な一族だ!』
「え、待って、精霊様は何か言ったの?」
『どうすればいいのでしょうか?』
かんなの質問は無視された。
『…この者が?やはり人間なのですか?』
『いや、しかし…』
『わかりました、ではこの者に全て任せます。
やい、 人間!水の精霊様がお前に力を授けたと言っている!この炎を止ませてくれ!』
「ええええ!!」
『何でもいいから、何か念じて!!
そう精霊様が仰ってる!!』
念じるって…呪文ってこと?炎を止ませる呪文みたいな??
「えーと、呪文呪文呪文…
呪文何て中二病な単語、生まれてこの方一度も言ったことがない。
ヤケクソでセンスの悪い言葉を叫んでみた。
「あ、雨よふれーーー!!!!………みたいな…?」