第056話 オジサンの独り言 * 果実酒の街リンツ〈レヴィストロース〉
レヴィストロース目線。
胸元に忍ばせた酒をチビチビ飲みがなら深いため息をついた。
……はぁ、俺ってやっぱり呪われているんじゃないのか。
飲み屋で隣の席にたまたま座った男が、『家出中の王子様でした』って、普通あるか?
それに、リュカを守る布陣を整える必要があるこのタイミングで、転がり込んでくるとは少々間が良すぎるだろう。
レイにはリュカ護衛の任務がいかに重要かは伝わってるだろうし、あいつが妙に甘い気がするところを見るとせいぜい頑張ってくれそうだから、今は任せておいても問題はないか。
だが、あのクソ真面目なインテ・リーには何て説明したらいいのか。
ふん。
王子を拾ったので、ちょっと一緒に旅行行ってきます。
……これはないな。
王子がダダこねるので、一緒に旅行付き合うことになりまして。
……いや、対してかわんねぇな。
国の未来を語らいに、ちょっとした旅に出かけてくるわ。
……青春真っ只中じゃねぇか。オジサン、恥ずかしげもなく言い切れたら逆にすげぇわ。
これは、マリーアに頼むしかないか。何とかしてくれるだろ。
ちらりと寝台を見ると、安宿なのに、王子はぐっすりとお休みになっている。
規則正しい寝息が聞こえる。思っているよりも骨がありそうだが、どうだろうな。
『レヴィストロースも、笑うんだな。いいんだ、笑っていてほしい』
………。
フン、馬鹿馬鹿しい。
おお、早く知らせておかねぇと。
ランプに火をともして手早く手紙を書くと、呼んでおいた伝令鳥の足にそれを括り付けた。
夜目も利く最速のセスナと名づけた肉食獣。手懐けるまで何度噛まれたか。そういえば指を食いちぎられそうにもなったな。
「頼んだぜ」
言葉はわからないだろうが、そういうと一度瞼を閉じる。
凶暴だがこの仕草だけは可愛いと思う。
えらいえらいと頭を摩ろうとすると、案の定鋭い嘴で威嚇してきやがった。
チッ、やっぱかわいくねぇ。
あぁ、もしかして、リーは俺の居場所を把握するのに、セスナを利用してたのかもな。
そうなるとちょっと厄介か。
とりあえず、屋敷に戻らせる前に、『俺の元にはしばらく帰ってくるな』とセスナにおぼえこませて闇夜に解き放った。
暗がりに同化したセスナはあっという間に高度を上げて、一度旋回してから姿が見えなくなった。
肩をぐるりとまわして、フッとランプを消すと辺りはすぐに真っ暗になる。
ソファとは言い難いごつごつした椅子の寄せ集めに寝転がり目を閉じ、今日の色々を思い返していた。
『あなたの言葉を今でも覚えているんです!私は、今でも。
『戦などするものではない』と言ったではありませんか!』
ガキは嫌いなんだよ。昔から。
変に幻想を抱くものなのだ。英雄だなんだと、俺は出来た人間じゃない。
本当は、甘ったれたガキなど、どうにでもなればいいと思っている。
だが、こいつも、そしてリュカも、甘いところあるが、頼り切ろうとはしない。
そういう奴なら俺も助けてやってもいいとは思う。
別にそれが自分の仕事でなくても、好き嫌いで判断するのは俺の勝手だからな。
まぁ、意に沿わん奴だったら、途中で捨ててもよかろう。
こいつが自力で王都に帰れるはずもないのだ。
こっちは今の国家や王子に何の情もねぇし、いざとなれば冷酷にさえなれる。
それをこの坊ちゃんは知ってるのかな。
真っ直ぐな瞳を持ち続けて大人になる奴など、俺が知る限りゼロ%だ。
それほど、社会を乗り切って生きていくのは大変だと言うことなんだ。
けれど、限りなくそんな純粋さを持ち合わせていた奴をまた思い出した。
最近は、あいつの事をやたらと思い出すな。
真っ直ぐしか捉えることのできない堂々とした眼差し。
ああいう奴、軍にもいないな……。まぁ、俺が今まで出会った中でそんなバカげた奴は、あいつ、ロックスだけだ。
あぁ、やめだ、やめ!貴重な俺の時間に入り込んでくるな!
寝返りうとうとして落ちそうになる。
マジ、寝台で寝たいわ。こんなところでばかり寝る羽目になるなど、オジサンもたねぇから。なんなら土の上の方がましだな。
それに、坊ちゃん一人の足で一月で国境付近から帰ってくるなど、無茶な計画を立てるものだ。
ホント、籠の中の鳥だ。
慣れた馬車ならまだしも、逆に馬車など使おうものなら、すぐ宮殿へ一報入り即検挙だってことも知らんのだろう。
見つからないように着く方法って意外と大変なんだがな。
机上でなんでも済ませれると思ったら大きな間違いだってことは教える必要があるか。
ああ、無駄にテンションあがってきた。
だが、何故突然無謀な計画を思いついたのか、そんなことを実行するような男ではなかったはずだが、何か切っ掛けがあったのだろうか。
別に、詮索する気もないがな。
俺も少し国境の様子には気になる点が多いからちょうどいいか。
それに、少しこの坊ちゃんの意気込みは、どの程度のものかを確認しておきたいところだな。




