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Viva la Vida| 男装彼女の素性について  作者: みやつゆ
第06章 それぞれの戦い編
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第055話 商人ヴィル * 果実酒の街リンツ〈ヴィクトル〉

ヴィクトル目線。

着いたのはさほど大きくない街リンツ。

ここは各方面へ抜ける分岐の街だが、宿屋より何故か点在しているのは殆ど飲み屋だった。

酒で有名な場所なのだろうか。

確かに、街の奥の小高い山に広がるのは、果実酒で有名な果物の農園。たまたま読んだ本に載っていたのを思い出した。

恐らく酒を求めて遠くからわざわざくるところなのだろう。


酒というものはあまり好んで飲まないが、有名ならば世間を知るためだと思い、店内が薄暗い一軒の居酒屋に入った。

名の知れた店なのだろうか、意外にも夕方だと言うのにもう人で溢れており、私は一人だったため店主の目の前の一列に並ぶ一人用の席に通された。

相席の円卓で知らない者同士で飲み明かす気分はサラサラないので都合がいい。

要領を得なかったが、フードを深くかぶる隣の男が頼んだものと同じものを所望すると、値段を言われたのでその場で支払いを済ませた。

すごく街に馴染んでいるようではないか。

それだけのことなのにドキドキとして、何か特別な存在になれたかのような優越感を感じた。

滑らせるように用意された酒を一口飲むと、果実のうまみの中から結構な濃度のアルコールが後から襲ってきてゴホゴホと咳き込んだ。

隣の男はチラッとこちらを見ると、「兄ちゃん大丈夫か?」と水を差しだしてきたので、「す、すみません…」とそれを受け取り会釈をした。


その後、1、2秒。フードの男は停止しているように見えた。


その間が不自然に感じて、フードの男を見返すと、中の瞳とばっちり目が合ってしまった。


合ってしまったというのは、凝視していることに気付いたからだ。


まさか、私の顔を知る者に出くわすなど思ってもいないが、そのまさかだったようだ。

焦って「…ええっと…」と返すと、男によってグイッと私は手を掴まれ、いきなり店外に強引に引きずられた。


「な、何するんですか!」


声を張り上げると、男は焦ったように私の口元を抑えられ耳元で言った。

「大声を出すな」と。


もしかして、誘拐?!


私は離れようと暴れたが、男は屈強な力でねじ伏せて、更に簡単に恥ずかしげもなく私を横抱きにして走り去った。


予想外だ。

男に横抱きにされ誘拐されるなどありえない。

屈辱と言うか、恥ずかしいと言うか、子供と言われる年齢ではないのに簡単に抱えられてしまうなど。

更に酔った男どもは何かの余興と勘違いしているようで、「お熱いね!」など頭に来るような言葉を投げつけてくる。


熱いもなにも、私は男だ!


「下ろしてください!」

周りの冷やかしに私はフードの男にもう一度声をかけたが、

「黙っていろ」

ピシャリと言い捨てるその歯切れの良さに必死さが伝わってきたので、とりあえず今はおとなしく抱きかかえられておいた。


何処か聞いたことのある声だったが、頭の中が混乱してすぐに結びつかなかった。




街から少し外れた林の中で、肩で息をする男は乱暴に私を下ろしてから、そのフードを取った。


その顔を見た瞬間、私は言葉を失った。



な、なんで。こんなとこに……??



「レ、レヴィストロース……!なぜ…」

「驚いたのはこっちの方です。護衛もつけずこんなところで一体何をしているんです、ヴィクトル王子」



まずい。失敗だ。まださほど王都から離れていないのに。


「私は、帰りません」

「何を仰っているのです。まだ酔ってもいないでしょう。皆が心配します」


心配するから行かないなどという選択肢は、はなから存在しないのだ。

私は生まれて初めてレヴィストロースの意見に反対した。


「……いえ、というか、人違いです!私はヴィクトルという王子ではない」

「はい?」

「商人です」

そう言って、木片をレヴィストロースに見せた。


彼はそれを受けとってしげしげと見つめ言った。

「…このようなものをどちらで?」

眉を寄せる彼は神妙になって訊ねたが、それを言ってしまうとこの機会を与えてくれたクリューエに迷惑がかかる。

「私のです」と言ってから引ったくり、鞄にしまいこんだ。


肩で深くため息をついて、額を指で押さえた状態で、しばらく木にもたれかかった彼はひどく疲れた様子だった。

何故出会ってしまったのかといった表情だ。


「レヴィストロース。言っておきますが、力技で無理やり私を城へ連れ返すことなど考えない方がいいでしょう。

 どうなるかわかっていますね?」


目的を達するためには、私自身強くなるらしい。

レヴィストロースに今まで反抗することも、このような脅しともとれる口を叩いたことなどないのに、言葉がすらすら浮かんでくる。

それに多少意外だったのか、殆ど感情をあらわさない彼も、若干こちらに目配せをした。


「不本意ですが、『あなたが私を誘拐した』という構図になってしまう」


言い終わると、レヴィストロースはクククと笑いだして、段々面白くなってきたのか、しばらくその場にしゃがみこんで腹を抱えていた。

真剣に言っているのに、これほど笑われるとは思いもしなかった。


「それはご勘弁頂きたい…クク…。こちらも色々と手一杯な状態で、要らぬ濡れ衣など掛けられては困りますからね…」


破顔して笑うレヴィストロースを初めて見た。

私はぼおっとそれを眺めていた。

「あ、失礼いたしました王子」また咳払いして立ち上がり、無表情になりかけたとき自然と口に出ていた。

「レヴィストロースも、笑うんだな。いいんだ、笑っていてほしい」

自身で考えても子供のような言葉だったと思う。一瞬二人の間に沈黙がおきた。


昔よく、無表情な彼はその大きな手で私の頭を撫でた。

その時、私は誇らしい気持ちになったのを覚えている。

テオドールでなくて、レヴィストロースが父親であればと何度思ったかわからない。

彼に子供がいないためか、どちらかというと関わり合いを拒む傾向にあったが、私はその慣れない不器用な愛情表現が好きだった。


何故、この時そう感じたのかはわからない。

彼はもしかすると、籠から私を逃がしてくれるのかもしれないと思った。

そう。私を見逃してくれるかもしれないと。


「レヴィストロース。冗談でなく、私を見なかったことにしてくれないだろうか」


木にもたれながら見上げた顔はやはり無表情だった。

私は精一杯この気持ちを伝えるしかない。


「知らないことが多すぎるのは、ひどく人を不安にするものなんだ。

 軍部の方針に対して私は納得していない。陛下がどう言おうが、公爵がどう言おうが、それが正しいのか間違っているのか、私にはわからないのだ。

 本当に国境に戦を仕掛けんとする敵国が虎視眈々と目を光らせているのか。そうでないならただの侵略。

 そんな浅ましくも血塗られた玉座に座るなど、嫌なのだ」


今の感情を正直に話したら、レヴィストロースは賛同してくれるものだと思っていたが、

そう簡単にはいかなかった。

彼は、温度のない目で私を見つめながら返す。


「…王子。それは一方的な見方です」


想像した答えと違う答えに、動揺して感情的になってしまった。

「レヴィストロースは、戦に反対ではないのか!」

ただ、彼は全く動じることはない。

もたれたままで淡々と返す。


「反対ですとも。ただ、王とは国のため最良の方法を選択せねばならないのです。それが個人のあなたの感情を滅するような判断でも」



私の感情を滅するような判断でも……。

父上の落ちくぼんだ瞳を思い出した。

『王位に就き、色々な物を手中に収めることが出来る。

 なのに、私には、何一つない。』


レヴィストロースは、私が、現実を見ても、それを活かせないと言うのか!


「あなたの言葉を今でも覚えているんです!私は、今でも。

 『戦などするものではない』と言ったではありませんか!

 フィリア様も同じことを仰られていた!私は戦いなど望まない!」


目を細めたレヴィストロースは小さくため息をついた。


「私は逃げるために国を出たのではない!籠の中の鳥だと言われないために出たんだ!

 自分の責任で、国を動かしたいんだ!」


熱くなりすぎたか。言い切った後に、冷静になった。

レヴィストロースに私は何を言っているのだろう…。

彼は、何かを決めたようにもたれるように立っていた木から背を伸ばして自立し、私の持っていた鞄を取った。


「レヴィ…」


「…ですが、脇を固める者達は最良の策を出し合い、王に献上するのが責務です。

 選び取れる知恵がそもそも乏しければ、正しく国を導くなど出来るはずもありませんね。

 仕方ありません。気が変わりました」


彼は、冷たい微笑を向けて私に言った。このような顔は見たことがなかった。

媚び諂うような優しいものでも、感情のないものではない。


何か彼の中で、私の存在が引き上げられたのか、それとも引き下げられたのか、どう判断されているのかわからないが、見方が変わったということだけは伝わった。



「あなたのお名前は?」


一拍おいて、とりあえず答えた。


「ヴィ…ヴィルです。商人の」

クスッと笑って返す。

「ヴィル様。私は少々高いですよ?なんせ国を束ねていたことがありますから。

 そうですね。報酬は出世払いにしておきましょう。

 どちらまで護衛をすればよろしいか?」


え?!

一緒に行ってくれるということか?!

こんなに心強いことはない。


が、それで二人で外出していることがバレたら、本当にレヴィストロースの立場が危うくなる。


「けれど、レヴィストロース…」


「ヴィル様?無駄なこと考えてる時間、あるんですか?出世する気がないなら置いていきますけど」


スタスタ歩いていくレヴィストロースの後を必死に追いかけた。


「え?!あ、いや、出世します!」


私は何を言っているのか。


とりあえず、護衛の猛者を獲得して、私は国境へ向かうことになった。




旅はまだ始まったばかり。


ヴィクトル目線での旅の続きは、『第060話 生きて帰る』となります。

次は『第056話 オジサンの独り言』。

レヴィストロース目線でのこの日の夜の話になります。

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