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Viva la Vida| 男装彼女の素性について  作者: みやつゆ
第06章 それぞれの戦い編
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第048話 侍女たちのおしゃべり * ハルネスヴァーレーン〈セアラ〉

セアラ目線。

――――ハルネスヴァーレーン宮殿内。昼下がり。


最近の休憩スペースでの会話はあまり楽しくない話題が多い。国は出兵のための準備を秘かに進めてるとか噂もチラホラ聞く。

軍部でどんな話にまとまってるかなんて大それた情報は、わたくしたちの耳にまで広がることはないけれど、軍の動きが活発化しているのは宮中に居ても肌で感じる。


今年は、軍事パレードが開催されるって言うから、それを聞いた当初、侍女仲間は皆ウキウキしていたのに。

あの頃が懐かしくさえ感じるわ。

狙いは兵士じゃなくて、お飾りとして参列する将来性のある数名の士官学生。毎回、国を代表する学校から厳選された学生のみが参加し、屈強な軍人ばかりのパレードに花を添える。

歴代の参加者はどなたも一線で活躍されていることを思うと、表舞台への登竜門と言える。

わたしたち侍女は、空想で彼らを落とす方法を考えたり、どんな方が今回は参加されるのか予想したりして休憩時間を過ごした。

そうそう。今回は侍女期待大の、セブシェーン家末子、通称黒将軍のユスラン様が参加されるかもって噂だったしね。


けれど、今や、いつ事が起ころうとも知れない国情に、騎士と付き合ってる子なんかは特に、浮ついた夢見がちな話題よりも現実問題が気がかりだ。

だから最近は特に、楽しげな雰囲気にならない。

……わたくしだって、最近のヴィクトル王子を見てると本当に、胸が痛むもの。


重い空気を察したのか、ティーカップ片手に食後の軽食をつまみながら、向かいに座った情報通のシムアが口を開く。

「そうそう、ブラントクイント士官学校からの速報!やっぱり選考会までユスラン王子が残っているみたいよ。あたしの弟は駄目だったけれど」

「そうなの。弟くんは残念だったわね」隣の子が声を掛ける。

「相当難しいらしいもんね。

 それよりもさ、シムア。ユスラン王子ってどんな感じで学生生活過ごしてらっしゃるのか、弟くんから聞かないの??」

「それ気になる!」皆、同調した。

「ねぇ、シムア。どうなの?」

『ユスラン様ネタ』が話題上ると一気に場が盛り上がる。これは鉄則。


父親のジル・セブシェーンもシェーンシュテット公爵の右腕で、『寡黙で実直なダンディ護衛官』としてアッパークラスの侍女には、レヴィストロース様並みに負けず劣らず人気が高い。

彼の息子は数名居るんだけど、中でも末子が一番イケメンらしく、黒髪に黒い瞳、更にジル様のようなお硬いイメージではなく、優しく紳士的で口数少ない大人な人柄って噂。

わたくしは一度もお見かけしたことはないけど、『一見冷たい風貌なのに温和な紳士』というこのギャップに、社交場でお会いしたという侍女連中は皆こぞってファンになっている。


わたくしは、ユスラン王子より、本物のヴィクトル王子に本気だから…そんなミーハーな会話に乗る気もないけどね。

『ヴィクトル様も好き』とか言う子たちのような浅いものじゃないんだから。

お茶に口を付けながら話に耳を傾けた。


「知りたい?て言っても弟情報だけど、学校でのユスラン王子も想像通りみたいよ。大変な方には手を差し伸べたり、随所に余裕があらわれてるって言ってたわ。

 教官からも生徒からも信頼が厚くて、分け隔てなく皆に接してくれるから、高貴なセブシェーン家一族の人って印象ではまるでないみたい。

 弟も一度お話したって言ってたわ」

「まぁ、素敵!弟くん、羨ましい!」

「やっぱりいい男って、性格もいいのかしらぁ」

「そんなユスラン様と結婚したいわ。

 ユスラン様なら一応奇跡でも起こればなくもないかもだけど、セアラの本気だけは奇跡でも実らないわよね」

と言われると、皆こっちを見てクスクス笑った。

あ、またこういう風にわたくしに話題を振って笑いをとろうとする。

「そんなこと言われなくたってわかってるから!」

こうやってよく冷やかされる。わたくしの本気が実ったら本物のお姫様に昇格なんだもの。

そんなことはわかってるけど、夢見るだけなら自由でしょ?

「そういや……最近ホント、ヴィクトル王子って缶詰状態よね。本当に心配だわ。

 この間お夜食用意した時も笑顔で受け取って頂けたんだけど、手を付けることもなく相当夜中まで書類確認されてるみたいだったから」

「そうなのよね。あの方は本当に純粋で優しすぎる方だから」

「……王子向きじゃないわよね」

わたくしもそう思う。あの方は聖職者とか似合いそう。俗世に塗れない清らかで慈悲深いイメージが。

戦に身を置く覇王になるなんて、全くもってふさわしくないんだから!

「憂いを満ちた顔なんて、本当に中性的で…」

「そんな目で見ないでいただける?」思わず睨んでしまった。

「セアラったら本気すぎ!あなただけのものじゃないでしょ?みんなの王子様なんだから」と皆がケラケラと笑った。


みんなの王子様。


ヴィクトル様はその優しいお心が裏目に出て、王を継ぐ者としての評価はあまりよくないけれど、侍女仲間の中では絶大的な人気がある。

『誰もが一度は恋をする』といわれる程、王子様像を形にしたようなお方だ。それに見た目も中性的で、どこか儚げなところが魅力的なのよ。

あれほど大切に守られるのが似合う男性はそうそういないだろう。

光の中でお育ちになったのが見てとれる。


恥ずかしいけど、本気だもの。夢を見るのは勝手じゃない!


忘れもしないあの日。

ヴィクトル様は配膳で粗相をしたわたくしを全く叱りもせず動じずに、逆に侍女であるこのわたくしを『大丈夫?』と気遣ってくださった。

わたくしだけにではない。花壇に水を撒く侍女に優しく声を掛けられたり、宮殿で働く皆のことを静かに見守っておられる。

あの方は王族なのに、わたくしたちと全く違うお立場なのに、人として目を向けてくださる。

長く真っ直ぐな黒髪に、対照的な白い肌。優しく微笑まれる儚げな表情。


……はぁ、考えるだけで胸がいっぱいになってしまう。

お話したいけど、お立場が違いすぎる。


物思いに耽っていると侍女の一人が声を上げた。


「あぁ!忘れていたわ!今日夕方からクリューエ様来られるそうよ」

「ええッ!!」


クリューエ様が?!


皆一斉に片づけを行った。今から念入りに化粧をしに行くのだろう。


クリューエ様。謎の多い絵師。恐らく30代半ば位と思われるが正確な情報が全くない。


わたくしも昔に一度お見かけしたことがある。そこだけ光が差し込んだかのような眩い真っ直ぐな金髪に、女性かと見紛うような長い睫に琥珀色の瞳。

真っ白な肌、華奢な体つき。女性でも嫉妬する程の美しさだった。誰もが目で追いたくなるほどの色気があり、造られた人ではないのかとの噂まで存在する。

裏には相当な庇護者付いているという説もあるほど身に着けているものは派手ではないが、どれも一級品ばかり。


纏う全てが神々しく彼を引き立てるように、一流の者でない限りおいそれと会話することさえ出来ないくらいの気品に満ちている。

わたくしにはわからないけれど、見かけだけではなく、やはり絵も鬼才と呼ばれる程の腕前らしい。


けれど、皆言うことは一緒。


美術品として鑑賞する分にはいいけど、お話しするのには気が引ける。そして何考えているかわからないような色のない表情に、絶対馴染むことなど出来ないと。

確かに誰かと親しげに話している様子など見たためしがない。何方と仲がいいのかもよくわからないと聞く。

本当に謎の多い人。それ故に人の興味を煽るのかもしれない。


「用件ってなんなのかしら」

「ヴィクトル様の肖像画をお描きになるそうよ」


ええ!?ウソ!見てみたい!すごく気になる!


クリューエ様の隣に控えるヴィクトル王子なんて…それ自体が絵になるに間違いないじゃない!

想像するだけで、何日も寝ずに働けそう…!

嬉々としていると、隣から釘を刺された。

「だめよセアラ。クリューエ様は気難しい方だから筆頭侍女が担当することになるわ」

「見るだけでもダメなの?」

「考えてみなさいよ。皆見たいのは一緒。ワラワラと人が集まるの目に見えてるし、すぐさま規制が敷かれると思うわ」


そっか。そうよね。ガッカリ。

でも出来上がりはどこかに飾ることになるだろうから、楽しみに待とう。


さて、休憩が終わったので、軽食のお皿を片づけて各自仕事に戻った。


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