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Viva la Vida| 男装彼女の素性について  作者: みやつゆ
第06章 それぞれの戦い編
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第047話 あいつとのこと * 果実酒の街リンツ〈レヴィストロース〉

レヴィストロース目線。

――――果実酒の街リンツ


行きつけの酒屋で安い酒を煽っていた。都からちょっと離れたあまり大きくない街だが、ここの酒は天下一品だ。

「お客さん、もう店閉めますよ」

肩を揺すられてようやく意識が戻った。飲み過ぎたか。酒屋で爆睡するなど何年振りだろう。

「…悪いな…」

とりあえず机に大きい札だけを置いてよろよろと店を出た。今どれくらいの時間かはわからんが、相当な夜中なのだろう。

数少ない宿屋の明かりも消えている。とりあえず自分の馬を見つけたが、このままの状態で自分の屋敷に戻るのは危険だという判断は出来た。

足元もふらついて酩酊状態なのが自分でもわかるほどだったからだ。


おっと。

その辺に足を躓かせて、顔面から派手にこけた。

痛てぇ……。

けど、土の温度が気持ちいい。

地面に頬擦りしているフードを被った酔っぱらいの中年など、はっきり言って見れたもんじゃないだろうが、こんな夜中、これほど怪しげな奴に声をかけようとする輩などいないだろう。

俺はその体制のまま、しばらく微睡まどろみの中で地面の感触を味わっていた。


そういや、こんなことを繰り返していた時期があったな。土の匂いが、懐かしさを感じる。


あれから俺は無駄に年だけ食って進歩していないというのか。

人生の大事な局面を読み違えるという才能はあるのやもしれん。……まず間違いない。

つまり、どうしようもないオジサンってこった。


ぼんやりとあの瞬間を思い出す。

俺を見上げたリュカは、明確な意思を透き通るような青い瞳に宿していた。

現実となって、自分の前に現れるなど、思ってもみなかった。


真っ直ぐに、俺に向けられたあの瞳。


大袈裟に言っている訳ではない。本当に、あの瞬間、時が止まるかと思った。

俺としたことが、いつもの無表情を取り繕うことに必死で、何も彼女に返す言葉がなかった。

一言口にしてしまったら、いつもの俺でいられなくなる確信があったからだ。



紛れもないあの子は……。



クソッ!!



目の前にある雑草を毟る。

すると、タイミングよく上から声が降ってきた。


「こんな夜中に草むしりですか?」


「………。」

見なくてもわかる。うるさいメガネ野郎か。俺を見つけ出す名人だな。

「こんなところで寝ないでください。お願いします」

フードを掴まれて首が締まる。恐らくわざとだろう。息苦しさにむせ返っていると、その上嫌がらせかのようにランプを顔に近づけた。目がくらむような眩しさにひどい頭痛を感じ身をよじった。

「はぁ…。世間がこんな英雄を見たら嘆き悲しみますよ。泥まみれじゃないですか」

「うっせー」

「……っ!酒臭いですね。まったく…」

どうやって俺を見つけたのか見当もつかんが、きまってこいつはグダグダの俺を拾いにくる。

そんな命令を押し付けた覚えはないが。

「最近はこういった飲み方しなかったのに、どうかされたんですか?

 国境から帰ってからずっとこんな感じじゃないですか」

半分肩を預けた状態でとりあえず抱き起された。

「このまま連れて帰れ」

「無理です。失礼ながら華奢な姫ならまだしも、ガタイのいい中年は運べません。

 近くの宿をすでに手配しております。そちらで酔いを醒ましてください」

「中年じゃなきゃいいのか?あぁ??!」

「…絡まないでください」

半身を持ち上げられ、腰に挿した剣を杖替わりに立ち上がった。


揺られながら立ち上がり、上半身をよじって見上げると、雲一つない闇夜に星がきれいに輝いていた。

この光景には既視感があった。

随分俺も酔っているようだ。

突然ひらめいたように、この景色と混濁する記憶の中の思い出を、無意識に思い描いて言葉にしていた。

誰に聞かせるわけでもないただの戯言だ。


「……あいつと初めて会った夜も、こんなだったかなぁ。雲一つない、夜空に、無数の星が光ってた……」


隣のリーは、馬をひき俺を支えながら黙々と歩いた。

酔っぱらいの戯言を聞いているのか聞いていないのか、何も問われないことをいいことに俺は心のまま口にする。


こいつよりも若かったかな。

あいつも、俺も。


「……確か、そんなメデタイ夜が、一瞬でテンヤワンヤ。

 わあぁっつって、松明の灯りが、突然地平線埋めて波のように押し寄せてきやがった。

 人間、許容範囲外のこと起こると面白れぇよな。魔法か?とか意味不明なこと皆考えるんだよな。

 俺も正直、迫ってくる揺れと地鳴音に、マジかって動揺したわ」



遠い昔。あいつと初めて相見えた夜のことだ。


一足早く勝利の美酒に酔いしれた我が国の陣営に、まさか夜陰を駆けてきた敵国の兵が見る見るうちに地平線を覆っていたのだ。

混乱を極めた俺の部隊は、即座に臨戦態勢に入ったが、何の事はない。

それらは殆ど火を纏うただの家畜だった。それによく見ると本体の旗じゃない。敵国の小隊の旗だ。

捨て身の陽動作戦だったのは明白だが、数騎で先導してやってくるなどまず自殺行為だ。


俺はその報告を受けた後、小隊の隊長と思しきあいつと、余興と称して自ら剣を交えることとした。

少なからず、俺の動揺を誘ったという点では評価してやりたかったからだ。

同い年くらいのあいつはズタボロの体だったが、まさかこれほどの力が残っていたのかと心の内で驚愕したほど、剣は確かだった。

信念だけで突き動かされているような瞳に、どんな感情が残されていたのか、俺は未だに知ることはない。


俺はあの時、生まれて初めて斬り殺すべき敵個人のことを考えた。


同じ命を持っているとは意識的に考えないようにしていたのだが、気迫の宿る瞳と高貴な風格に、それまでの俺には考えられない結論を、彼は初めて下させたのだ。

覇道を貫くこの俺に、「斬って捨てずに情けをかける」という選択をさせたのだ。

虫の息だった彼は、放置しても死ぬだろうと、その時は単なる気まぐれのつもりだったが。


誤算だった。必然かのように、彼は生き延びたのだ。


「……逆の立場だったら俺はあいつに負けていたかもしれん。そしたら、俺は英雄と呼ばれずに済んだかもな。ハハ…」


あんな男は出会ったことがない。

そう、今までの人生でたった一人だけだ。

その手に何を掴むでもなく、その命さえ投げ出して自分の正義を貫こうとする、俺から言わせればただの阿呆だ。

あんな奴のことだ。その辺で、プライドを保つために自害したかと思いきや、数年後、場所を変えてまさかの再会を果たす。


「あいつは、敵だ。鬼畜だ。何度思ったかな、あの時殺しておけばよかったと…確実に息の根を止めておくべきだったと」

「一体あいつって誰なんです?」

「しらねぇよ!胡散臭い不審者だ」

「……はぁ」


無愛想で、昔臭くて、クソ真面目で、義理堅い『ロックス』という名の男。


ただ、人目を惹く高貴な風格を纏っていた。

初めて剣を携え相見えた時、ボロボロの体だったが、あれが人の上に立つ者なのかと、俺は逆に自分の素行と周りの反応を振り返る切っ掛けとなったほど、彼の背に光を纏って見えた。

彼こそが『英雄』という呼び方にふさわしい。

口に出さずしてそう思った。


それは、所謂、憧れだったのかもしれない。


あの時の死に損ないは名前も名乗らなかった。

当然だ。俺様の華麗なる戦歴からは程遠い、敵国の名も無き、たかが一小隊長の男。


俺が、そんな取るに足らん奴をずっと印象深く覚えていたのは、その強さと見た目や風格だけではない。

後で知る、あいつの『馬鹿馬鹿しい功績』だった。

こっち側で気付いた奴がどれほどいたかは知らんが、劣勢になっている局面で相当数の人間を逃がしていた。

後に侵攻したあの街の規模と、死体の数を見ると全く割に合わなかったからだ。

誰の発案か、あいつしかいないだろうと俺は瞬時に思った。

俺にはあんな戦い方は出来ない。そもそもしようとも思わん。


それからだ。


何年か後、女だったら運命の出会いというところだろうが、何の因果か、そいつに偶然出会うことになる。

再び会った時には、その時のことを全く匂わさない素振りで、執事の真似事などをしていた。

本当に別人かと思ったが、剣を抜かせると、やっぱりあの死にぞこない本人じゃねぇか。



あんな道化は見たことねぇ。底しれん男。


笑いが込み上げてきた。


そして、自分のバカさ加減にも呆れるわ。


やっぱり、あいつはとんでもない奴だ。


三度目は『ロクシア』などと言う名前で俺の前に現れやがった。



そして、彼女、リュカのこと……。


こんな傑作あるか!


一人笑い転げる俺に、リーは「夜中なんですから静かにしてください」と冷静に言った。

まぁ、そうだろう。

大体あいつの言葉を額面通り真に受けるのが間違っていたのだ。



面倒だが、仕方がないな。


あの麗しき瞳の少女を護りきらなければならない。



これは誰にも譲れねぇ。俺の失態だ。

ロックスのためじゃない。


俺と、生涯たった一人、俺が愛した女のためだ。



ロクシアとレヴィストロースの出会い編でした。

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