第034話 日常の終わり * 学校〈リュカ〉
リュカ目線。
非日常のような日常は、自分の中で違和感がなかったと言えば嘘になる。
けれどそれを真剣に紐解こうとするよりも、前を向いて、今成すべきこと、つまりロクシアが求めるような自分になるため、もしくはロクシアに作られた自分を試すために生きていこうと心に誓った。
綺麗ごとにだけ目を向けているのは楽だが、そこに自分は存在しない。
泥にまみれてもロクシアと二人三脚で生きてきた。
無愛想な彼がたまに笑い、その広い背中で自分を導き、彼の地へ到達することを夢見ていた。
まだ、あの旅の途中だ。
けれど、ただ甘え、身を委ねるだけの存在に成り下がるつもりはない。
ロクシアを支えることの出来る人間になるため、昔なら想像もできないようなこの貴重な時間を最大限活かし、誰よりも前に進まなければならない。
それに、こんなに眩しいほどの学生生活が『永遠に続く』なんて思っていない。
世の中の儚さなど知っている。多分、この学校に住まう誰よりも。
ハッキリ言って、卑怯な手を使い、賤しい自分を亡き者にしようとする連中や、金にモノを言わせ、生かされていることに気づきもしない連中ばかりにはうんざりだったし、人を蔑み序列をつけることで均衡を保っている世間の縮図みたいなこの場所が、自分の居場所でないことくらい、世間知らずと称された自分にもわかっていた。
けれども、ただ一つだけ、気がまぎれる場所があった。
虚しい現実を忘れることが出来る、唯一の空間。
素で居させてくれる場所が、『彼ら』の居る場所だった。
他愛もない話を周りでしているだけで楽しくて、ずっと聞いていたくなった。
ある時は、馬鹿げた軽口に乗っかる自分がいたりした。
自分はこんな人間だったか、と冷静に振り返るときもあるほど、その場所だけが素で居られる救いの場所だった。
今では驚くことに楽しいことを思い出そうとすると、真っ先に思い浮かぶのは、レイモンド村ではなく『彼ら』のことになっていた。
馬鹿げたことを言いだし笑いを誘うシュライゼ。
ツンケンしているように見せて、時折優しいレイ。
そして、いつも紳士的に手を差しのべてくれるユスラン。
彼らが居なければ、自分は閉鎖的な学校の中で笑うこともなかっただろう。
ただの知り合いでは、もはやなくなっていたということだ。
満たされた者達に囲まれた、一見煌びやかな学校生活。
でも、本来の自分は彼らからは程遠いものなのだ。
目的のためなら、恐らく邪魔者を排除するために殺しも厭わない、冷酷な判断も下せる。
それが、自分。
リュカだ。
今までは、客観的に自分を分析することに、抵抗などなかった。
偽っても自分は自分であることに違いないのだから。
それなのに、
血と泥に塗れた自分と、優秀な彼ら。
元々立っている位置が違うことなど、わかりきっていることなのに、どうしてか。
今は何故か心が痛む。
柔らかな空気感が時折、自分にはひどくまぶしく見えて。
そこに存在している自分が、別の誰かでないかと思ってしまうときすらある。
いくら追いかけても、彼らの横に立つことさえできないのだろう。
自分は、冷酷で根無し草のリュカ。
彼らは本当の自分を知らないから、笑ってくれているのかもしれない。
一人だった自分にはなかった感情だった。
答えがあるわけでもない、不毛な考えを繰り返して、繰り返して、知らぬ間に自分は深い眠りの中にいたはずだった。
いつもの日常。でも、過去を思うと、あるはずのない日常だった。
『永遠には続かない』とわかっていても、『当然明日もあるもの』と、どこかで思っていなかったか。
まさか、それが今日で終わるなど、思ってもみなかった。




