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Viva la Vida| 男装彼女の素性について  作者: みやつゆ
第04章 変革の足音編
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第033話 少年の軌跡 * レイモンド村〈レヴィストロース〉

『第028話 オジサンの旅』の続きになります。

レヴィストロース目線。

ようやくレイモンド村についたが、イメージしていた『村』とは一味違うようだ。


見張り櫓もしっかりと機能しており、一斉に構えられた弓に、同行した警備長が慌てて両手をあげながら大声で訪問した事情を説明した。

「俺が何者か」など、こんな辺境の地でわかると思ったが、想像通りだ。説明したところで警戒体制が解かれていないのは見て取れる。

国境だからなのか、こんな僻地でも常時統制のとれた警備をしていることが意外だった。

ため息をつきつつ、リーは俺の前についた。別に庇ってもらわなくてもオジサンはまだまだ現役だよ、と茶化してやりたくなったがここは甘えておこう。


しばらくして大きな門が開くと、顔のつくりが笑ったように見える、線の細くて若い男が出迎えた。

人数、不審な点がないかを判断しているのか。細い目でどこを確認されているのかわからなかったが、一拍置いた後軽い会釈をした。

見かけだけなのか、農村地帯には珍しく腰には剣が携えられている。

櫓の上の見張り番と、更には扉の両脇に数名、万が一を想定した体制が瞬時に取れる統率感もあるのか。

面白い村だ。

ただただののんびりした田舎旅。という雰囲気でもなくなったが、俺的にはこういった感じの方が興味深くて旅っぽいと思う。


代表格らしきその若者が先に自分を紹介しようとしたが、警戒心を解くためにすぐさま馬から降りてこちらから挨拶をした。

「突然すまない。私はレヴィストロースと言う。王都から参った」

男はじっと細い目で見つめるとまた一拍置いて、「それはお疲れの事でしょう」ととりあえず敵ではないと判断したのか自然な表情で招き入れてくれた。



若い男の後に続いて、ゾロゾロと男3人で馬を引きながら村の中を進んだ。

警備兵、俺、インテリメガネ。確かに異様な組み合わせだな。

余所者自体が珍しいのか子供たちは指を指してコソコソ言っているが、大人はひどく冷たい視線で見つめてきた。内輪意識の強い、閉鎖的な村らしい。


ただ、子供が遊ぶ声や、楽しげな音楽が色々な場所から聞こえてくる。ここに暮らす村人にとっては楽園に違いない。

激しい落差のある難所を越えて、まさかこのような高所にこれほどの肥沃な大地が拓けているとは予想もしていなかった。

リーも俺と同じことを考えていたのか、「いい村ですね」と男に声を掛けると満足そうな笑顔で、「先祖代々からこの土地を護ってますから」と答えた。

「国境なのに戦火に焼かれることもなかったのか」との俺の質問には更に嬉しそうな声で対応する。

「昔はあったようですが、このような辺境の地なので今はありません。

 暫く前も賊が流入してきましたが、小さな英雄に救われましてね」

「英雄?」リーも面白そうなキーワードに前のめりになった。

「ええ、少年です。彼がここを護ってくれて、そして敵が容易に侵入できないような危機管理体制も色々と考えてくれた。それを参考にして独自に構築したんですよ」

「少年が、ですか」

「…ええ」

男の柔らかな笑顔に深い親愛の情が滲み出ていた。

この村、もしくは彼にとっては特別な存在だということがわかる。

「彼は、英雄ですよ。本当に、みんなにそう呼ばれている」

『英雄』というフレーズにリーは若干眉を寄せたが、気にしているのはお前達周りだけだ。俺はハッキリ言って当時からその呼ばれ方には辟易とした。

それよりも、ここには面白い少年がいるようだ。

思わぬ拾いものかもしれない。一度声を掛けてみるか。

「その小さな『英雄』には会えぬのか?」

その問いに男は急に顔を曇らせる。

「すみません、今は。

 街に出ていまして。もう何か月も前に。士官学校へ勉強しに行ったんですよ」


それは、もしかすると。

俺は思わず確認していた。

「それはリュカのことか。リュカ・フェリクス・グレイ」

警備長とリーは同じタイミングで俺を見た。

そして、若者はそれよりも驚いた様子で振り返った。


「あなたも、リュカを知ってるんですか??」


あなたも?




大きな広場の真ん中に建てられた集会場へ案内された。

風習がまるで違うため何処を歩いていいのかわからず躊躇ったが、男は「靴はそのままでどうぞ」と告げたので遠慮なく、一段上がった床を歩いた。

丸く並べられた座布団に座るのだろう。とりあえずリーが先に俺の分の座布団を

手際よく叩き、座るよう誘導してくれた。ホント気が利く男だ。


薫り高いお茶を出され、その後、村長と呼ばれる男が出てきた。

リーがまず茶の毒見をして目配せした。別に少々の毒でも俺は大丈夫なんだが。このあたりが彼の真面目なところだ。

村長は案内役の男と似通った顔だったため問うと、彼は息子だと言う。


「こう次々と、よその土地から来客があるのは本当に珍しいことなんですよ」

穏やかな表情の村長は少し警戒したように切り出した。

「今日はわざわざ王都より、どういったご用件で参られたのか」

机の上に固く組んだ指からは若干緊張が感じられた。

「単純に国境の村を見てみたかった、本当にそれだけだ」

村長の険しい顔は解けない、それもそうだろう。

偽りのない返答だが、彼にとっては答えにはなっていない。

「最近来られた他の来客とはどのような所用だったのですか?」

横からリーは意識せず訊ねた。表情からも裏はないように思える。

それもあってか、村長は眉を寄せながらも正直に返答した。

「租税の徴収を本格的に行うと来高確認に来た役人と、後はよくわからない旅人が一人」

出来高確認?何か引っかかるな。そんなもの今の時期に行うことか。

それに、

「旅人ですか」とリーが復唱すると、先程案内をしてくれた息子が返した。

「リュカの知り合いと言う者です。……まさかリュカに知り合いがいたとは思えなくて驚きましたけど……」

一人旅などいかがわしすぎる。間違いなく偵察だろうな。わざわざこのような場所まで来る理由がない。

こんな僻地まで追って偵察されるくらい目立っているということだろう…。


恐らく『悪い意味で』、だろうが。


リーが心配そうに顔を見つめていたので特に平静を装った。

「あなたも、リュカの知り合いなんですよね?」

真っ直ぐした視線で息子は尋ねてきたので、正直に(?)返した。


「知り合いではない。私の学校の生徒だ」


リーも警備長も驚いたように見た。

ええ?!っと心の声が聞こえてきそうに見えたが、矜持にかけて踏みとどまったようだ。

それもそうだろう。

まさか生徒の出身地を把握して、足をわざわざ運ぶなどハッキリ言って異常だ。

リーからは辺り一帯を焦土にするような瞳で見られた。これほど露骨な反応をされるとさすがに傷つく。


「リュカの学校…ってことは、ブラントクイント士官学校の……」

「あぁ、そうだ」

間違ってはいまい。正式には学長だが。

「そうでしたか!それは大変申し訳ございません」

緊張感があった場が、一瞬で和やかになった。始めからこういう方向で話を持って行った方がすんなり村見学ができたようだ。

……いや、俺に対するリーの蔑む目を見る限り、これが正しかったのかどうかはわからんな。

村長は自分の肩を揉んで、ため息をついた。

「いやぁ。これが家庭訪問というアレですか。田舎ではそういう風習はないんですよ。って言ってもちゃんとした学校もないんですがね。

 そう先に言ってくだされば、ハハハ!」


いきなり軽くなったな、おい。

それにアレの解釈は間違いだがな。どこからそんな微妙な情報を得たのか。

まぁ、いい。余計な訂正は不要だろう。

隣のリーは無言のまま平静を装おうとしているのが愉快だ。警備長は理解を超えて、なんのことやらとの顔だが。


「こんな遠くまで先生が来てくださってるんだ。ジョイ、宴の用意を」

と言い終わるかどうかのところで

「いえ、お構いなく。私どもはこれから所用がありますので、すぐにお暇します」

とリーが素早く切り返した。

彼も察しがいい。多少引っかかりがあるだろうが、本当に目的のない旅だと気付いたようだ。

ガッカリした様子の村長は「それでしたら、村で取れた野菜や果実を用意させましょう」とジョイと呼ばれたその息子に告げた。


折角来たのだ。少し興味があったので村長に訊ねた。

「先程、ジョイ君に伺ったんだが、リュカはこの村を護った英雄と呼ばれているそうだな」

「はい。この村に来た頃は正直皆警戒していましたけどね、彼は本当に身を呈してこの村を護ってくれた。

 ……彼の行動が村の未来を変えたといっていい……」

相当悲惨な状況だったのか、村長の笑顔が無残に引らせた。

「あの子がいなければ、あの時、村の危機にも関わらず皆、戦いを知らない者ばかりで立ち上がることなど出来なかった。

 あれほどまでに、余所者と言うだけで忌み嫌われていたのに、まさか彼が先陣切って迷いなく村のために戦ってくれるなど……。

 正直、彼の心の強さには驚きました。

 普通では出来ない。それに、あんな小さな体で驚くべき強さだった…。

 私は一生、あの日のことは忘れられないと思う」


なるほどな。余所者のリュカ少年がこの村に馴染む切っ掛けとなったのだろう。

正直解せん部分もあるが、新たな発見だな。

心の強さを持った子か。

苦境の中でも、感情に流されず正しい道を選び、忠実に実行出来る強さを持つ者。

それに、賊を撃退できる程の剣の使い手で、さらに警備の指南もするとは。

ふつふつとわき起こる感情に、自然と眉根が寄っていたようだ。

リーがじっと眉間を見ているように感じ、平静を装う。


「先生、学校でもリュカは優秀なんでしょう?」

「そうだな」

否定でも肯定でもない絶妙の返しだろう。とリーを見たが、適当なことを言うなという目で見返してきたので無視だ。

「あぁ、こうしてるより、折角ですから!」

と立ち上がって突然村長の家に招待してくれることとなった。


集会場から更に奥の山側へ進むと、そこにだけ大きな屋敷が広がる。

村では一番大きい屋敷のようだ。うまく維持手入れをしているのだろう。建物の風合いが長い歴史を感じさせた。

敷地内へ足を踏み入れると離れが幾つかあり、一番奥のこじんまりした離れに通された。


ここは?と問うと、リュカが親同然としている老婆、村長の母親の住まいだそうだ。『折角だから彼女と話をしてはどうか』ということだった。

特にそこまで本格的にリュカの話を聞きに来たわけではないが、まぁいいか。


老婆に対して、何人もで押しかけるのは無礼かと思い、リーと警備長は入口で待たせた。


ノックに呼びかけだけで応じたため村長が扉を開けると、老婆は入口に背を向けたまませっせと何かを作っていた。

カラフルな色の布で至る所に繊細な刺繍が施されたこれを、昔見たことがある。


ゆっくりと老婆が振り返った時、村長はリュカの先生だと紹介してくれた。

年はいっているようだが、小奇麗な美人。昔は相当美しかっただろう。

目が細められると、心まで読まれそうな気になるのは何故か。

この老婆は一種独特の雰囲気がある。


席を勧められると、そこに腰を落ち着けた。

老婆は村長に「ハミエル。大きな男が二人もいると威圧感があるから、あなたは出ていってもらえる?」一言。

「お母さん、先生を前に失礼なこと言わないでよ…」と切り返すと、老婆が苛立ちを込めた深く長いため息をついたので、すぐに村長は「すみませんが私はこれで…」とこちらに言い残し素直に退出した。


村長もこの母親には頭が上がらない。そんな感じだ。

この堂々とした老婆と本当に血がつながっているのかは謎だな。



開いた窓からは、村の子供たちの楽しげな声が聞こえてくる。

その緩い時間を止めるかのように老婆は言った。


「あなたは軍人ね。私の一番嫌いな人種だわ」

手を止めることなく、作業を続ける。器用な手つきでクルクルと布を回し刺繍を施す。

案外、バッサリ斬りつけてくれるな。


「リュカは元気にやっているの?」

「あ、あぁ」突然の質問に動揺とまではいかないが単純な返答を返すと、老婆は

「知らないのね」と短く切って捨てた。

一瞬あげた顔は冷たく、単に見ただけだった。

「………。」

このように他人に、切れ味のいい刃物で切りつけるかのような言われ方をされる機会など今は全くといってないので、とても新鮮で、逆に小気味よく感じた。

今では『これ見よがしにネチネチ言われる』か『陰でネチネチ言われるか』のどちらかだ。


ふっと視線を逸らして老婆がつぶやく。

「どうせ、あの旅人同様にあなたもリュカに対する偵察なのかしら?」

驚いた。彼女はわかっていたのか。

恐らく、あの様子で疑わしく思っているのはこの老婆だけだろう。


「そうね、もしかしたら、あなたがリュカを学校に招待したのかしら?」


なんだ、この老婆は。

何を言い出すかと思った。


当然表情を揺るがすことはないが、内心動揺した。

面白い婆さんだ。

興味を引かれて、老婆に初めて視線を向き合わせた。

すると、ようやくそれを察したのか手を止めてこちらを見た。


「あなたはリュカが何者か。

 いいえ、ロクシアが何者か、知っているの?」


間を遊ぶということを知らないのか。訊きたいことを端的についてくる。

しかもまるで俺がリュカを学校に引き入れ、『ロクシア』を知っていると確信しているような訊き方だな。

表情には、まだシッカリとした意志が見て取れた。

このような年齢の者には珍しい。眼光に灯る光が鋭く、俺でさえも怯むほどだった。

この老婆は何者だ。

凄みのある目。リュカを子供のように思っているのは本当なのだろう。


ただ、こんな顔をする女に俺はひどく弱い。

煙に巻くようなことが出来なくなるからだ。


「『ロクシア』という男は、少しだけ知っている」


窓の外には国境の壁が連なって見える。

俺はそれをぼんやり眺めながら、あまり出さない本音を吐露した。


「俺がこの世で一番嫌いな男ということだけな」


「そう……。私と同じね」


老婆の顔が少し綻んだが、それは別に俺に気を許したという訳でもないようだ。

冷たい刃のような瞳でもう一度こちらを見た。


「でも、同じくらいあなたの事が嫌いだわ……。

 その手で、何人、殺してきたの?

 リュカを、これ以上、巻き込まないで、頂戴。あの子は……」


というと、話の半ばでゴホゴホと咳き込みだした。

慌てて俺は席を立ち、彼女の背中を叩いたり、摩ったりした。


拒否されるかと思ったが、本当に苦しいのだろう。

表情ではまったくわからなかったが、かなり痩せこけいて儚い。

委ねられた体にまるで質量を感じなかった。

周りに水差しがあったので、それを飲ませると状態が安定した。


また、彼女は机に向かい、静かに作業を進めた。

何事もなかったかのように。


俺は言った。

「エシュルグレの民族衣装だな」


彼女は初めて口の端だけで笑って見せた。

「……あなた、よく知ってるわね」

「あぁ、昔。それを着て踊る踊り子を初めて見たとき、妖精かと思ったほど美しかったのを覚えている」

「そう。……もう、その国もないけれど」

いたたまれない気持ちになったが、彼女は別に世間話のように告げただけでそのことに特別な感情を持っていないかのようだった。


ただ、一言、


「今は時間が欲しい。あの子を、優しく抱きしめてあげる時間が欲しいわ」


とつぶやいたことが印象的だった。


あの子は誰をさすのか、もう俺にはわかっていた。



ただ、変な違和感がある。

細かい風習など知らないが、


何故、この民族衣装なのか、と。

次回から『士官学校時代後編』の予定です。

この話の続編は『第041話 危険すぎる仮説』です。

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