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Viva la Vida| 男装彼女の素性について  作者: みやつゆ
第04章 変革の足音編
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第028話 オジサンの旅 * 国境付近〈レヴィストロース〉

『第017話 元英雄』の続きになります(リー目線)。

レヴィストロース目線。

山肌に目をやると強固な国境の壁が無機質に聳えている。もう数十年前の戦火の跡は見当たらないなと物思いに耽っていたころ横から声を掛けられた。

「ようやく着きましたね」

並走するリーが手綱を引くと軽く土埃が舞い、靄の中から現れる建付けの悪い見晴らし台に若干の懐かしさを感じた。

「どうされました?」

「何でもない」

見晴らし台の足元には警備兵が仮眠や休憩するであろう石造りの小屋が鎮座しているが、これも嵐が来る前に崩れ去りそうなくらいに脆い。

こんなところで寝起きしていた頃を思い出す。あれは何十年前になるのか。


馬から降りると、砦しかないような辺境地に、突然現れた元英雄を前にして緊張した面持ちで警備兵は近寄ってきた。

ただ、ぐるりと見渡して引き連れる従者が少なすぎることに違和感を感じているのは彼らの表情から窺い知れた。

確かに護衛の一人もいないというのは不自然か。


「このようなところまで…お疲れ様です。将…、レヴィストロース様」


将軍と昔の肩書を滑らせそうになったのだろう。慌てて口を噤んだが、青ざめながら目をシパシパさせている。この世の終わりが来たような顔だ。

どれほど恐ろしい存在と認識されているのか。

確かに噂だけが全てのような世の中だ、無理もないがな。込み上げる笑いは表情に出すことはない。

「突然すまないな」

周りの警備兵も固まっていたが、その言葉一つで目を輝かせた。

すかさず二番手と思しき若い兵が資料を手に報告した。

「こ、交代の人数、配備陣形にも変わりはないように思います!」

目線を手元に移すと、緊張しているのだろう手が震えている。

あまり長居するものではないか。

「そうか。ただ好戦的な連中だ。家族のためにも引き続き心して任につくように」

「はっ!!」

警備兵は力強く深々と暫く頭を下げていた。

はて、好戦的なのはどっちなんだか。

自分が発した言葉だったが、釈然としないことを言ってしまったと後悔したが、顔を上げた彼らの満足げな表情に訂正するのをやめた。


警備隊長とリーとで周囲を馬で走らせた。

ピリピリとした状態に変わりはないが、このあたりは一先ず問題はなさそうだ。

ただ、気になるのは。

「警備の人員が増えたように感じるが」

「はい。仰る通りでございまして、若干数増員されております」

理由は聞かされていないだろう。恐らく足を運ばなければわからなかったほどだ。何を考えているのやら。

「それが何か」

「いや、そんな気がしただけだ」

この周辺を嗅ぎ回ってもそれ以上何が出てくるわけでもなさそうだな。

後ろに控えるリーに小声で訊ねた。

「まだ日程はあるか」

「日程?あ、はい。問題ありません」


馬を小屋の前に括り付けると、警備隊長は「狭くてお見苦しいところですが……」と中に招き入れてくれた。

急いで片づけたのだろう。隙間に押し込もうとした服やら何やらが天井と棚の間にひしめいており、今にも飛び出してきそうだ。

奥に入るほど、カビと汗臭い臭気が鼻をつく。

自分は慣れているが、隣を見るとリーの眉が若干つりあがっている。あやうく吹き出しかけたが、全身全霊で堪えた。

チッ、油断ならんな。


任務外の視察など想定されていない小屋の中は、住居スペースと簡易的な事務室、最低限に設けられたような警備隊室のみだ。

どこも同じようなのだな。懐かしげに見ていると、警備隊長は一番質のいい椅子を勧めてきた。とはいっても勢いつけて座ると一瞬で壊れそうな代物だが。

「建付けが悪く申し訳ございませんが」

「構わない」

若い警備兵が出した薄いお茶をすすりながら、このあたりの状況を確認しつつ一息ついた。

王側の考えがはっきりと見えるような動きはやはりないようだ。


ふと掲げられた壁の薄汚れた地図に目をやった。近隣のものだろうか。

標高が高い山が近くにあるらしく、その中腹あたりに見知った地名が書いてあった。

「あの地図に書かれた『レイモンド村』というのはこのあたりか?」

警備隊長ははじかれたように地図を見上げた。

「……はい。まぁ、そうです。この辺りでは国境に一番近い村にはなります」


レイモンド村。

特に目指していたわけではないが、これも縁か。


「警備に支障がなければ案内してほしいんだが」

驚いたように隊長は目を丸くしたのと同時に、リーやその他の警備隊員も不思議に思ったようだった。

予定にはない突然の提案だったし、無理もないだろう。

「申し訳ございません…近くと言いましても、かなりの険しい道のりで、朝から出立しても夕方頃になるかと思います。それに、何もない村ですし……」

「僻地の村というのも見てみたいのだ。無理にとは言わんが」

慌てて言葉を訂正した。

「い、いえ!とんでもございません!それでしたら是非ともご案内いたします!」



「雑魚寝で構わないと言ったんだけどな」

「……レヴィ様はご自身のお立場をまるで理解されてない……」

警備隊長の部屋を強引に譲られてしまった。隊長の部屋とは言っても狭く、ただ個室というだけのようだ。

雨漏りもしそうなほどの建付けの悪さで、窓もなく、簡単なベッドと椅子と机と箱を連ねた上に布を乗せただけの自称ソファー?のみ。

昼間もランプをつけなければ文字すら読めぬほどの暗さだろう。学生寮の方がよほどマシと思える。

それに迷惑をかけるつもりはなかったのだが、まさかレイモンド村がここで一晩費やさねばならぬほどの難所とは。

僻地とは聞いていたが、軽い思いつきで行けるところではなかったのだろう。妙な提案をしたことを少し後悔した。


「失礼ながら、何故突然そのような無理難題を仰るのです。

 あの時間から引き返せばこんな窮屈な思いをせず町の中流宿で安眠できましたよ。

 ……私は平気ですが」

あんな顔をしておきながら、平気とはな。思い出すとまた笑いが込み上げてくるが、今は本気で怒りそうだ。

ブツブツ言うリーはいつもより機嫌が悪い。


それもそうだろう。『思いつき』の行動にもだが、汚い空間が特に耐えられないのだろう。


ベッドに寝そべったままで、よくできた部下の動きを静観していた。

右や左によく動く。几帳面な彼は積まれて片づけたつもりの本を揃え棚に整理して入れ、引き出しに出しっぱなしの筆記具などをしまい、いいというのにベッドのシーツを外にはたきに行く始末。

警備兵にかち合ってしまわないか、こちらが心配したほどだ。

見た目もすましたインテリメガネだから、まさか家事一般が侍女以上に出来ることなど信じられないギャップだろう。


部下を家政婦に仕立て上げた覚えはないのだが。


「俺は寝るとこなんざ気にしねぇんだがな」

「私が気にします!全く、あなた様が雑魚寝なんてありえませんよ!!」

「そうキャンキャン吠えるな。

 でも、お前は日程に余裕があるって言ってただろ。旅には冒険が付きもんだ。ツンケンすんなよ。楽しく行こうぜ」

リーは眉を寄せながら狭い空間の片隅で予定を書きなおしている。クソが付くほど真面目な野郎だ。

「その冒険に、何か意味でもあるのですか?」

「冒険に理由なんかねぇだろ。さぁ早く寝ろよ。オジサンは、疲れたからもう寝る~」


何か聞き出したそうな顔でこちらを見たが無視した。

ただの気まぐれに、意味もなにもない。

いちいち俺の考えの裏に、理由を求めるな。


『レイモンド村』

あの少年の数少ない記述には、そう書いていた。


「レヴィストロース様。武装する必要性があるような地域なら今からでも」

リーはボソッとつぶやいた。

心配性だな。オジサンも、お前一人くらいは護れる自信はあるぞ。

「いや、その必要はねぇ。ホント、遊びで行くだけだから。俺、お前、警備長で大丈夫。なんかあってもオジサンを助けてくれるだろ?」

「……はぁ。そう言うと思いました」


確かにこんな時期に『僻地の村への見学』も不自然な気はするが、一度見てみたかった。


ただそれだけの理由だった。

この話の続きは『第033話 少年の軌跡』となります。

次のお話は『第029話 あの日のこと』リュカの旅の回想です。

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