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Viva la Vida| 男装彼女の素性について  作者: みやつゆ
第03章 外出許可 海辺の街旅行編(シュリダンテ編)
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第024話 自由旅行 * 海辺の街ルフラン〈リュカ〉

リュカ目線。

喫茶を出た瞬間、男は片手で手慣れたように箱馬車を捕まえた。自分がもしこのような高級な馬車を止めようとしても、恐らく止まってはくれなかっただろう。

見た目黒ずくめにも関わらず、長身であることも作用しているのか男の堂々とした一挙一動は周りの目を惹くものがある。

急停止した馬車は、ユスランの家の馬車に引けを取らないような立派な造りで、若干自分は萎縮しそうになったがお構いなしだ。

小声で「お前、ついてるな」と呟くとしばらく先導と交渉をした後、男は自分の前に向かい合うと軽く会釈した。

何の会釈かよくわからず眺めているとクスリと微笑し、すっと扉を開けた。

優雅な振る舞いに見とれていたが、「どうぞ」と言葉を添えた。


自分が入るために扉を開けてくれたということか。


要領を得ない自分は、女性として接してくれていることに目を丸くしたが、再度「中へどうぞ」と言われたことにハッとして、

「あ、ありがとう……」とぎこちなく返答し、遠慮なく乗った。


こういう対応に馴れていないから、どうすればいいのか検討がつかないのだ。

彼が入ってから扉の内側に這わされた滑りのいい手すりを引いて扉を閉めると、「気が利くな」とゆっくり腰を掛けた。


改めて向かい合うと、ただ座っているだけなのに見てしまうような存在感がある。

黒い衣服の中にあるのかもしれないが、装飾品は表からは全く見えない。

なのに、何故この男には格式高く、品があるように見えるのだろう。


そういえば。今、思い出したくないことを思い出したが、合同舞踏会にはこういったマナーが試されるのだろう。

彼の振る舞いはいい手本になるな。客観的に観察させて頂こう。


「……。」


と気持ちを切り替えたはずだったが、

二人きりの空間。長い脚を優雅に組む目の前の黒い男と視線が絡み合ったことに、少し焦りが生じた。


「緊張しているのか?」

柔らかに微笑む男は、そんなことはないのだろう。

「そうだな、高級な馬車だしな」

言い訳がバレたのかはわからないが、男はフフっと笑い返した。自分一人だけ変に意識しているようではないか。


女性として存在することが、これほど居心地が悪いものだったとは知らなかった。


分が悪いので話を変えるべく話しかけた。

「それよりも、どこへ向かってるんだ?」

「言ってなかったか。まずはお前の服選びだ」

「は?」

「俺の隣を歩くのだから、それなりの恰好をしてもらわないと困る」

いや、どちらかと言うとお前の恰好の方が妙だろう。

と言い返そうと前のめりになった時、男は自分の口に、形のいい人差し指を押し当ててきた。

「!」

「というのは半分言い訳だ。どっちかと言うと、見てみたいだけなんだ」

もう一度深く椅子に腰掛けると、恥ずかしげもなく言う。


「もっと可愛いお前の姿を見たい」


絶句……というのはこういう時に使うのか。頭が一瞬真っ白になった。

何だ、この男。

人間には口に出していい言葉と悪い言葉があるのを知っているのか。自分もよく間違うが。

恥ずかしいことを言っている自覚がこれっぽっちもないのか、男は平然とした顔で「楽しみだ」と続けた。


長い溜息をついたこと以外、暫く何の言葉も返せなかった。

完全に調子を狂わされる。

自分を誰だと思って……!

自分は……。


無性に苛立ったが、顔が赤くなっていることを悟られたくないため窓の外を見ることにした。

こんな会話が続くと、本当に自分が自分でなくなってしまいそうだ。


外の景色を楽しむまでもなく、ふと窓に映る自分の顔を見た。

いつもならそんな風に自分を見ることなどないが。


少し伸びた黒い髪。薄い唇。赤みのさした肌。

何故かいつにもまして女に見える。

だから、あの時屋台の主人も『嫁』なんて言ったのか?

これを恥ずかしいと思うのは、何故か。

女に見えることが恥ずかしいのか。


まったく、どうしようもないな。


「……それ以上変なことを口走るな。調子が狂うから」


沈黙の後、一呼吸おいて咳払いをしてから男は返した。

「なら……気を付けよう。

 だが、この馬車に乗った以上俺の言うことを聞いてもらう。もう遅いと思えよ。女」


優しげな声に導かれるように男を見ると、思わず微笑んでしまった。

彼は楽しそうだったからだ。

どう見られているのかとか、どう振る舞うべきかとか、自分の事ばかりを考えていたようだな。


忘れていた。折角の旅だ。自分の人生初めての自由な旅だ。

自由に楽しもう。


「そうだな。もう遅いな」


男は黙り込んだように何も返さなかったので、逆に自分は饒舌に続けた。

自然と独り言のように。


「だが、お前といたら何故か楽しいから、後悔はない」



しばらくはカラカラという車輪の音だけが響いていた。


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