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Viva la Vida| 男装彼女の素性について  作者: みやつゆ
第02章 士官学校時代前編
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第018話 選考会参加者発表日 * 学校〈リュカ〉

リュカ目線。

地獄のカリキュラムに『王宮』からの脱落者は多数出たようで入学当初よりも同学年の人数が随分減ったように感じる。


シュライゼは一学年上なので自分たちよりももっと高度な授業なのだろうが、ユスランも、レイも弱音を吐くこともなく難易度の上がる授業が自然な成り行きのようにこなしているようだ。

そう、自分の周りだけは全く変わり映えしない顔ぶれが揃っている。


それは嬉しいことなのだが、何故だかわからないが、これからの自分たちを考えると不安に駆られる瞬間がある。


他人は他人なのに、こういう感情を今まで持ったことがないから、不安になる理由がわからない。

とにかく複雑な気持ちだ。



今日は、そういった意味での節目の日だった。



ざわざわという周りの声より自分の心臓の音を感じる。

ここに立つと、これほど緊張するとは思っていなかった。

集まった掲示板の前で、ひしめく人の隙間から手元の番号とを見比べながら、自分の番号を探す。

目で追う数字が近くなると力が入った。


雑音が掻き消えて、一つの数字の羅列が浮かび上がった。


……あった。


数字の横には自分の名前がはっきりと書かれている。


力が抜けた瞬間、ロクシアの温かい手が髪の毛をかき混ぜて『よくやったな』と言われた気がした。


奇跡的にも選抜に残った。

自分はまだ上を目指してやれるらしい。


実際にパレードに参加できるかどうかは、今後の選考に委ねられるが、一先ずは…。



…本当によかった…。


フッと脱力して二三歩後ろによろめいてしまった。

ようやく、『筆記』から解放されると思うと、涙が出そうな気分だった。

勉強は本当に毎日毎日死にもの狂いだった。

睡眠時間を削り自分で課した訓練の合間もひたすら歴史から戦術から頭に叩き込んだ。


自分は知らないことが多すぎたのだ。


皆はこの学校に入学するまで、色々な勉強をしてきたのだと改めて痛感した。

やはり、自分以外の生徒と自分が立っていた位置はスタート時点から随分離されていたのだ。

得意の努力と根気でも縮めることは容易ではなかった。ユスランが居てくれなかったら、恐らく選考には入っていなかったと言える。


今年は数年ぶりに軍事パレードが開催されるということで、全学年こぞって浮足立っていた。

国の要職に就くための大きな武器となる、このパレード参加は、この国の全士官学生全ての憧れでもあり、皆がその参加を目指して頑張ってきたと言っても過言ではない。

自分もその存在を知ってから、ずっとそのために精進してきたのだ。

今日はその選考会に参加できる、数十名の名前が発表される日であった。

授業が終わり、日が傾きかけた中、学校入り口前の掲示板周りは異様なにぎわいを見せているが、その表情は意気消沈している者から、眉を寄せる者、盛り上がっている者達様々で、共通していることと言えば、今までのように浮かれているだけの者はいなくなったと言える。


とりあえず自分は残ったものの、これからはより一層周りとの差を意識するようになるのだろう。


最終選ばれるためには、他人を考える余裕もなくなる。

当然、ユスランも残っていることだろうが、面倒見のいい彼も『家』からの圧力を考えると、今までのようにはいかないと思う。

それは定めだ。遊びでないのは、最も、自分だけではない。それぞれの事情の上で、皆これに挑んでいるのだから。

気を引き締めろ。

ここに名前があるだけでも、全学年含めての上位成績者ということになるため全校生の注目の的だと言うが、そんなことに甘んじることは出来ない。

実力を証明して、ロクシアが自分の元に戻ってくるように。最終は自立して、ロクシアやミネアに恩を返せるように。

自分はそれを掴んでこそ、入学した目的を達成したと言えるのだから。


自分は誰にも負けない。

軍事パレードへの参加はただの通過点でしかないのだ。


横から見知らぬ男が声をかけてきた。

「リュカさんはさすがですね!大きな声では言えないですけど、オレ、応援してますから!」

入学当時のイザコザが大きな原因で面と向かって話しかけられることはあまりなかったが、最近ではシュライゼらと一緒にいるからか声をかけられやすくなっている気がする。

満面の笑みで話しかけてきたので、とりあえず「ありがとう」とだけ返しておいた。


確かに大きな声では言えまい。

まだまだ知らないマナーもたくさんあって、低俗な問題児という評価には変わりがないし、応援するなら表立たない方が身のためだろう。

「リュカさんなら絶対通るって思ってました」

「努力はしたからな」

毎日毎日の積み重ねの成果だから誰にも文句を言わせない自信はある。


当然のことだが、掲示板の名前にはユスランとシュライゼ、そしてレイの名前も見つけた。

やはり変わり映えしないな。


微妙な気分で眺めていたら、突然割って入ってきた。

「意外だって思ってんでしょ?あたし、こう見えても強いんだから」

レイ、か。すぐそばに立っていることに多少驚いた。

「レイさんもおめでとうございます!」

周りの者は最近変わり者の彼に親しみを感じているようで、よく声を掛けられている。

「ありがと。選ばれて当然だけどね」

声をかけてきた男もにこやかに一礼すると去って行った。

頭一つ分くらい高い位置を見上げると、今日は髪の毛を下ろしているのか面倒そうに払った。


「噂で聞いた。強いことは知っている」

自然体で的確。見た目どおり卒のない戦い方らしい。一度手合せしたいと思っている一人でもあるのは確かだ。

今回選考会参加者に選定されたため、これからは一般生徒とは別のカリキュラムとなり、組織的な部隊演習よりも近距離戦が増えると聞いた。

恐らく敵との直接対決に備えた実戦的なものとなっているのだろう。

ならば、近いうちに彼との対戦が実現もするかもしれない。

彼らが実際どれほど強いのか、知っておきたい。噂通りか、そうでないのか。


「なによ?」

無意識にずっと見ていたようだ。

機嫌が悪そうに見下ろすレイに「なんでもない」と返すと、ふっと目を逸らして小さく一言「まぁ、よかったんじゃない」と言われた。

自分をずっと目の敵にしていたはずなのに、最近そうでもないと思える瞬間もある。

「レイもな」

初めはただのうるさい男だと思っていたが、あまり嫌いでもなかった。

社交的で、シュライゼと似たようなおしゃべり好きの部類であり、一方的に話が展開されるので自分としては楽とも言える。


それに、最近は目立った嫌がらせがないのも、極力、3人の内の誰かと行動していることが大きいのではないかと思えた。

……一方で、その3人の信者とも思えるような輩からは刺さるような視線を感じることもあるが、仕方がない。

自分以外の3人は文句のつけようがないから。


ユスランは非の打ちどころのない人間性を持ち、文武両道。

その上、家柄もついてくるため将来出世を目指すものからすると、かかわりを持っておきたいと思うのだろう。

ただ歩いているだけで人が付いてくる。その理由は家柄のせいだと彼は思いこんでいるが、全くの勘違いだ。

それに、シュライゼやレイも『王宮住まい』であり、それなりの人脈を持っているように見える。

どちらも社交的だからか。話術でも、見た目でも、人を惹きつける魅力がある。


それに比べて、自分はコミュニケーション能力に欠け、更に頭もよくない。

常識にも乏しく、何故か『王宮』には住んではいるものの、びっくりするほど財力もコネもない。

レイに初対面で言われた言葉は、あながち間違っていないのだ。

ただ、最近は一人で歩いていると声をかけられることは増えたが。


「相当頑張りましたね」


貼り出して暫くしたころに現れたユスランだったが、取り巻きが多いため近寄ってくるとすぐにわかる。

ただ、自分と話をするときは、その取り巻きも散っていく。理由はなんとなくわかっているが、露骨すぎるのだ。

「うん。それもこれも、本当に、ユスランのお蔭だ」

心からそう思う。時間を割いてまで教えてくれるライバルなど普通いるだろうか。

それが、彼の余裕なのか。本当に頭が上がらない。

「それに借りた本も返さないとな」

「いえ、いいんです。全てあなたに差し上げます。使ってもらえる人のところに居る方が本も喜ぶでしょうから」

「本当か!…結構あるのだが」

ユスランは大量の本も貸してくれていたのだ。

それを全部もらっていいなんて、そんな有難い話はない。

「ええ、どうぞ」

「本当に、礼の返しようがないな」

「私も出来ることしかしてませんので」

ライバルは減った方が得だと思うが、ユスランは例外なく困った人には手を貸す。

自分に置き換えて考えることなど絶対できない。

「礼には及びませんよ」

紳士的に微笑む彼は、心を温かにしてくれる。


いつも思うのだ。自分が知っている人間たちと彼は作りが違う気がすると。

他人に優しく、自分へは厳しい。社交的で、誰からも好かれる。そんな人間がいるとは思ってなかったが、まさに目の前にいるのだ。

家は関係ない。彼の友人であることが誇らしいと思える。

彼に人が集まるのは、家柄だけの理由では決してないのだ。


ロクシアの恩に報いるため、上を目指す障害になる者は全て薙ぎ払う気でいるが、極力、彼とは戦いたくない。

それが、本音だ。



すると何処から出てきたのかシュライゼが「じゃ、今日はとりあえず勉強や自主練を休んで選考会参加を祝してパーッとやりますか?」と提案してきた。

いきなりで驚きを隠せなかったが、

「いいわね!それにこれから行事が立て続けにあって忙しくなるんだから、やりましょ!

 もうすぐ合同舞踏会もあるらしいじゃない?その前に待望の外出許可があるわね!」

と、隣のレイも大はしゃぎで乗っかった。


たまには、こういうのもいいか。


「舞踏会、そんな季節か。そういや、リュカ。正装とか持ってんの??」

唐突にシュライゼが訊ねてきた。

「いや、大丈夫だ。舞踏会には参加しないつもりだ」

「参加しないの??選考会受かったのに?」

レイは身を乗り出してきた。

「え?」

「舞踏会不参加は、軍事パレード選考も落選ですよ」

そんなルールがあったのか……。

服がないから参加せずにメイリンにだけ会えればいいと思っていたのだが。

「あら、そんなことも知らなかったの?当ったり前じゃない。

 華々しい会合で如何に振る舞えるかというのも査定の一つなのよ」

「………」


全く、くだらない学校だ。そんなことは早く言ってほしい。


眉間に皺を寄せた自分に、ユスランは苦笑いした。

「……大丈夫ですよ。シュライゼより筋は悪くないと思いますから、私が簡単な作法を教えます」

「俺よりってなんだ」

「ええ!?またリュカだけズルいわ!勉強を見てもらったり作法教えてもらったり!!ユスラン様を独占するんだから!」

レイがまた騒ぎ立てたので観念したのかユスランは「レイさんもよろしければ……」と空気に流されると、「ホントに!?いいんですか?!!」と白々しく返した。



いろんな意味で、憂鬱だ。

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