序章
「魔術師」
その力は私利私欲を満たすものではない
その力は他者を賊害するものではない
その力は創造の糧として行使するものである
「審判」が下り朽ちる時、いにしえの契約により全ては無に還る
過ちは繰り返すなかれ
子々孫々にこれを教えよ
◆ ◆ ◆
幼い日、彼に教えられた古の詩をふと思い出した。
そうか。
もしかして、お前が。
《楽しいゲームだったろう?》
漸く気づいたのかという風に聞こえた。
半覚醒の頭では整理がつかない。
それに、もう反応する力も残されてはいないようだ。
《悪趣味だって?長く生きたもんでね。
さぁ、時間だ》
簡単に告げるものだな。
本当の最期の瞬間とはこれほども自然に訪れるのか。
ただ、脳内では全てを受け入れている。
あらがう気力もないからか。
溶けるように、意識が混濁してきた。
《最期の言葉くらいは聞いてやってもいい》
最期の言葉か。
言葉などすぐに思い浮かばない。
幻覚か。
二人の女性のイメージがよぎる。
よく知っている一人の女性が陶器のように白い手を伸ばしてきた。
これは自身の思い描く夢なんだろう。
幻覚でもいい。ようやくその手を掴むことが出来る。
この瞬間をどれほど待ちわびただろう。
当然、手の感触などはない。
あの頃は、夢でも満足だった。
なのに、今は、もう一人の子を無意識に思い出している。
見たいけど、見たくない。辛くて、見れない。
恐らく泣いていると思うから。
彼女が笑ってくれたら、俺は死んでもいいと思った。
なのに、お前が言った通り、人間と言うのは欲深いものだ。
まだ、生きたいと願うなんて。
お前が言う、次のゲーム。もう、決めてるんだろう。
《どうだろうな。どうであれ、お前には選択権や拒否権はない。私が決める問題だ。》
知ってる。
だが、俺にもわかる。
彼女の未来が見たい。
……あぁ、もう、お前は俺なのか。
俺はお前なのか。
どうやら、時間らしいな。
彼女が笑ってくれたから、俺は生きててよかったと思えた。
だから、お前にも感謝している。
《ふふ、さようなら。人間。
お前もなかなか、楽しかったよ》