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Viva la Vida| 男装彼女の素性について  作者: みやつゆ
第02章 士官学校時代前編
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第016話 軍事会議 * ハルネスヴァーレーン〈ヴィクトル〉

ヴィクトル(名前はまだ出てきていません)目線。

忙しなく動く人波の中に、時が止まったような空間がある。

階段の踊り場のその位置は、夕暮れ時には窓にはめ込まれた鮮やかな色を纏って、あの日、本当に存在していたのかもあやしく思えるほど幻想的な彼女が、私の心を捉える。


誰よりも気高く、明るく、美しく、何より暖かかった。


もう何も語ることはないあの方の若き日の肖像画が、自分のあわただしい日常に『何故お急ぎになるの』と問いかけられているようで小さく微笑んだ。


目線の先を追うこともない従者が声をかけた。

「……どうされました?」

「何でもない」

目をそらすと分刻みで進む現実が待っている。その場で今日の出席者と報告書に目を通し無言で従者に手渡した。

各会議体に参加することになって「まだ日が浅い」というのは、大きく国の方向性を左右する決議の前では言い訳もなるまい。

このままではいいとも思っていないが、正直、自身の「身の置き所」をいまいち掴めずにいるのが、今の弱い自分だ。


もう一度、気高く微笑む肖像画に向き合ってから、重いマントを翻して階段を颯爽と降りた。

肖像画の中の女性は、当然私の背中を目で追うことなどないのに気配だけでも暫く感じていたかった。

『皆が望む者になろうとしなくていい』

強気の発言を好む者が多いのは承知だが、あえて突き上げる感情を押し殺すことも必要と思うようになった。本当に、大切な判断は何なのか。

彼女が残した言葉に従って生きている訳ではないが、影響は受けていることは否めない。私が認める数少ない人間の一人であることは事実だった。



念をおすように、もう一度言い切った。

「以上です」

呆気にとられた顔が見て取れる。

見回す中には前回までの強硬路線はどこに行ったという不満げな顔が多い。だが、冷静なまま誰かが口を挟むのを待った。

「……僭越ながらこの状態では…いつ攻め入られんとも……」

その声を待って会場内はざわつき始めたが、静かにその弱々しい反論に耳を傾けて出席者を見回した。

『若造が』と裏では口を揃えて言っているのだろうが、この場で発言する虚けはいないと見える。


今日、この場に王はいない。

となれば私の言葉に異論を唱える者もないだろう。


王の目指す路線とは異なる動きをとることに昨日も苦しんだが、寝ずに出した結論だ。

正しいことなど自分にはわからないが、どうしても今の状況がいいとも思えなかったのだ。

こんな茶番は、もはやただの延命でしかないのはわかっている。


端から端まで全ての顔を眺める。

苛立ちを隠せない強硬派7割、一旦は胸をなでおろした様子でこのまま会議の終息を待つ聖職者を含む穏健派3割といったところか。

自然と会場の隅に目をやると、身を弁えたようにひっそりと口を開くことなく佇む男は、今日も無理を承知で足を運んでくれていたようだ。


わざわざ申し訳ないな。


短い白髪を無造作にターバンで束ね、無精髭にも白髪が混じっているが未だに鍛えぬいているだろう体つきが年を感じさせない。

彼はかつて英雄と讃えられていたレヴィストロース・マクスエル。

もし私の時代が来たならば彼を重用したいと考えているが、その声に応えてくれるか、彼には『迷惑被る』と言われそうだが、今はこういう形で伝える他方法はない。


数年前から突然王との折り合いが悪くなり、将軍職も剥奪され今は相談役というよくわからないポジションと、更に士官学校の学校長という一線から退いた職に就いている。

さすがの彼だ。

そのような職でも目に見える成果を出しているようで、近年その学校の貢献度は飛躍的に上がっているそうだ。


私の視線に気づいたのか、ふとこちらを見てしばし目が合ったが、今回の下した結論に対して何も表情に表すことはない。


いいのか。悪いのか。彼の評価を欲しいのか。弱い自分に目を向けているようで、見ていることが出来なくなった。


信頼のおける臣下が居ないというのは、ひどく孤独で心細いものだ。


今日の結論で浮上している穏健派の者がすり寄って来ようと、それを純粋に喜ぶほど私も馬鹿ではない。

すると、隣に控えたシェーンシュテット公が口を開いた。


「では、レヴィストロース・マクスエル。お前は昨今の情勢をどう見る?」


突然の出来事に、逆に会場中が冷えた。

息をのむ音が聞こえてきそうなほどの緊張感である。話を個人に振るなど通例無いことで、更にふれてはならない男をあえて舞台に引き上げたことが一番の原因だ。

まさか公爵が口を開くと思ってもみなかった。私の誤算だ。

彼をこの場に召集すること即ち、こういう状況も想定されることなど容易に想像がつくもの。

今更ながら、浅はかな自分の我儘に付き合わせてしまった不覚に心痛んだが、レヴィストロースは一瞬こちらに目配せしたように思えたが、気のせいだったのか音もなく頭を下げた。


「私めに発言の機会をお与え下さるなど恐悦至極に存じます」


公爵にみじんも悪戯心がなかったのか。それとも私の反抗的な結論への戒めか。

私の立場と言えど、シェーンシュテット公は王と肩を並べるほどの実力者である。

国家における影響力を鑑みると、私など『若造』呼ばわりされても仕方がないと思える一人だ。


会場中から突き刺すような視線がレヴィストロースに対して無言の圧力をかけているようだが、よく通る低い声は、このような状態でも震えることはかった。

「誠に恐れながら一線を退いた身である上、軍部の方針に口を挟むなど」

と言った瞬間に、待っていたと言わんばかり、強行派は口火を切ったように攻撃を加えた。

「では、お主は何故この場にいるのだ!」

「そうだ!公爵様が発言をお許しになられているのに発言しないとは、とんだ高飛車な男だな」

「閑職で呆けられたか!かつての英雄殿は!」

自分に向けられているようで、心が痛い。


表向きは色々な派閥からの意見を徴収する王の旨意であるとの体裁だが、強引に彼の参加を希望し王にかけあったのは私であり、私の判断がこの結果を招いたのだ。

レヴィストロース自身、恐らく表に立つことを望んではいないのに。


私の責任だ。


何か口を開こうとした瞬間、いつかこうなることは予想済みだったのか、レヴィストロースは真っ直ぐと顔を上げて公爵のみを静かに見据えた。

隣の公爵を見ると、薄笑みを浮かべて見つめ返した。

罵声を制することもなく、どう切り抜けるのか?という悪趣味な遊戯を楽しんでいるかのようだ。

皆が好奇の目を向けていたが、レヴィストロースはそのヤジがいったん引くのを待ってから、一言だけ付け加えた。


「王より拝命された任を『閑職』と評することだけは今すぐ撤回して頂きたい。以上です」


ヤジを飛ばした者に対して『任命責任の追求ではないか』と言い返したことに、強行派はもちろん、会場はまた元の静けさを取り戻した。

公爵は皮肉げに笑った。食えない奴だと言わんばかりの表情に、私は確信を持った。


経緯はわからないが、公爵自身もレヴィストロースが気に食わないのだ。


本題には触れる気配もなく、話は済んだと言わんばかりに優雅に跪拝を行った。

早く終わらないかと思ったところで、パチンと隣で手を叩く音が聞こえ私も我に返ったが、「では、解散」と公爵が無表情に会議を終結させた。

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