第013話 宙を舞う * 学校〈リュカ〉
リュカ目線。
「…もう、ダメだ……」
「ダメだと言うならやめてしまえ!」
怒号や罵声が飛び交うのは裏山山頂の崖の上。屈強な教官たちが鞭を使い、学生を容赦なく打った。
重い装備を抱えたまま舗装されていない道をわざと通り、山頂まで向かう。
その後、半分木々が生えず禿山になった崖から、自分で安全を確保しながら降りて学校に向かうという訓練だ。
棄権した者は評価が下がり、最悪退学だ。
耐えきれずに自傷する者もいるが、そんなのは恐らくすぐにばれるだろう。
皆一様に、満身創痍と言った状況。肌が露出している部分に木の枝が刺さる者もいるが、自分にとってはあまり訓練とも思えないものだった。
周りを見ると、肩で息をして立っていられないという状態の者もいる。
特に王宮暮らしの者にとってはキツイようだが、隣のユスランはさすがだ。
他の者に手を貸しながら進んでいるので、恐らく倍の労力がかかっているだろう。
手を貸していることが教官に見つかると、ユスランまで罰則を食う可能性があるのに、彼は何故そうまでするのか理解が出来ない。
そんな情けは不要だと思う。
教官の言うとおりやる気がないならやめてしまえばいいのだ。
「先に降りる」
皆に合わせる必要もないだろう。
装備を背負いなおすユスランとは軽くうなずき「はい。また学校で」と簡単な挨拶で別れ、先に学校へ向かうこととした。
装備の確認もよし。
万が一のためにミネアの短剣は寮に置いてきたため、落とす心配もない。
ガッチリと縄を硬く縛り安全を確保しながら崖を滑り降りた。
滑落すると自分の重みと背負った装備で骨折は免れないだろう。下手をすると命も危険にさらされるな。
足元からカラカラ音を立てて落ちる、あまり頑丈でなく地盤の石を丁寧に見定めて、次の空間に降り立つ。
上からは恐る恐る意を決したような生徒がゆっくりと降りてきているが、随分距離がありそうだ。
少し風があり、砂ぼこりでだいぶ視界が霞んでいる。
また一番乗りか。
次の位置取りを考え、縄にぶら下がっている時だった。
急にガクっと縄が下がって、それが切れかかったことを悟った。
まずい。
と感じると同時ぐらいに見上げたが、時はすでに遅し。
それはいとも簡単に切れた。
「うぁっ!!」
体が宙を舞い、完全に切れた縄が上から迫ってきた。
反射的に受け身の体制で壁面を滑り落ちる。
踏ん張ろうとした片足が若干変な方向にもっていかれて激痛が走った。
上から悲鳴が聞こえたが、どれくらいの距離だろう、そのまま真っ逆さまに急降下した。
岩に当たっては命とりであることだけはわかっている。
咄嗟に腰に下げた長剣を引き抜いて、思いっきり崖に突き立てた。
刺され!!
ガガガと剣の身を削る音が暫く続いたが、運よく、ガッチリ止まった。
息が上がったまま、胸元に握りしめた剣を離すまいと落ち着くまで重力を感じていた。
真っ逆さまに落ちていった装備はどうしようもない。
こうしている訳にもいかないので、カラカラと石の欠片が落ちていく先をバランスを取りながら見ると、もうしばらく下方に落ちたところに突き立てたような岩場があるじゃないか。
今更ながらゾクリと背筋が凍る。
真っ逆さまに落ちた石が岩場に激突し、四方に弾け飛んだのを見ると、何とも言えない気分になって唾をのみこんだ。
悪趣味だな。
一先ず命拾いはしたようだ。
宙を浮く中、慎重に腕の力を使い、出来る限り足を延ばした。
足場を感覚で探ると、「あ……」降り立てそうな出っ張りに足が届いた。何度か蹴って、強度を確認したが大丈夫そうだ。
「……はぁ」
装備もなく軽くなったたので、すぐ降り立つことが出来た。
剣は頑張っても引き抜くことはできなかったが、仕方がない。
「…まったく…」
独り言も言いたくなる。
上を見上げると相当変な方角に落ちたようだ。皆がいる場所さえここからではもう見えない。
早く、学校に帰らねば。
さっきから、ため息しかでないな。
体に括り付けた縄の切れ端を使って降りるしかないか。
長めに残った縄がせめてもの救いだ。
それにしてもあれほど頑丈に括った縄が切れるものか。
断面を指で摘み確認すると、想像通りの『切り口』をしていた。
これくらいで、怖気づいていたら埒があかん。
風の音を暫く聞いた後、深呼吸をして、無駄なことを考えている暇はないと割り切り、学校へ戻る方法だけを考えることにした。




