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Viva la Vida| 男装彼女の素性について  作者: みやつゆ
第02章 士官学校時代前編
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第009話 メイリンと * 学校〈リュカ〉

リュカ目線。

「一体何するんです!離してください」ユスランはかなり苛立った様子でシュライゼの拘束をふり払った。

真っ暗な夜道を抜けてシュライゼに連れてこられたのは、部屋から見えた湖からさほどはなれていない場所だった。


拓けた敷地の遠くに小ぶりな建物が見えるが、手前には不釣り合いに大きな門と高い壁がその周囲を囲んでいる。

その前の茂みに隠れて、何故か3人仲良く守衛の動きを眺めている。


「シュライゼさん。わたし達は何をしてるんです?」

引きつった顔でユスランは尋ねると、視線を逸らさないまま片手間のように返した。

「シュライゼでいい」


あの建物は一体なんだろう。

ハッキリと見える訳ではないが、そびえ立つ大きな門を見るだけでもブラントクイント士官学校のそれと同じくらい堅牢な造りで、見た目からしても外からの侵入者をガッチリと阻むような威圧感がある。

一度隠れるようにして通用門をくぐったから、既に士官学校の敷地の外であることは確かだ。


自分は立ち上がって建物を確認しようと試みたが、すぐさまシュライゼにグイッと袖口を抑え込まれ尻餅をついた。

「バカ!バレるだろ!」

バレる?


声を潜めて話す様子に、ユスランは眉根を寄せて言った。

「この建物は、もしかして」

「察しは悪くないね」

え?なに。

わからないのは自分だけか。

尻についた砂ぼこりをはたいてとりあえず中腰に座りなおしたが、厳しい目つきに変わったユスランが声を殺しながらシュライゼの襟元を揺らして責め立てた。

「あなたはどういうつもりですか!私たちは入学初日なんですよ?!帰ります!」

立ち上がろうとするユスランの首をシュライゼは後ろから羽交い絞めにした。

「ハハッ!物静かな黒将軍ってのは、ただの噂か?

 俺だって特別な奴しか誘わないんだし光栄だろ?何事も経験経験」

「くっ、あ、あなたは!」

「コラコラ。大声出しちゃまずいっしょ?間違いなく見つかったら退学処分だから、そこんとこ注意してね」


………は?退学?

何言ってんだ。入学初日になぜそんな危険なことを。

自分とユスランは怒りに震えるも、シュライゼは楽しげにニンマリと笑う。

この男は……。正直、とてつもなく殴りたい衝動に駆られた。


「逆に教官にバレるようじゃ、所詮その程度ってこと。試練を乗り越えて大人になるってもんでしょ」

試されているのか?と一瞬思ったが、ユスランは小声で冷静に言った。

「あなたも簡単に騙されないでください。この能天気野郎に巻き込まれただけですから」

能天気野郎……。

「……ユスラン君、案外口悪いんだね」

「あなたがそうさせてるんでしょう」


今更後戻りすることで別のリスクが伴いそうだったので、ユスランも諦めたようにため息をついた。

とにかくシュライゼが、とてもよくないことをしでかそうとしていることだけは理解した。



しばらくすると、門の周辺には守衛の姿がなくなり、逆にこちらに向かって3つの明かりがせわしなく揺れ近づいてきた。

まるでここに隠れていることを知っているかのように。

ユスランは警戒した様子を見せたが、シュライゼは逆に立って手招きをした。

「遅いって。見つかったかと思った」


走ってきたのは、まさかの女性3人組だった。


「ホントお待たせー」

ユスランは小声で「やはり…そういうことですか」と長めにため息をついたが、逆にシュライゼは「お。どっちも期待以上!」とテンションを上げた。

長身で綺麗な黒髪を纏めた飾り気のない美女と、後に続く2人はどちらかというと今風のお洒落好きな女性。

年は自分と変わらないくらいか。それとも年上か。いずれも自分とは正反対の人種だ。


状況の分かってない自分に対して、シュライゼは「坊やには一応言っとくけど、持ち帰りは厳禁ってルールになってるから」と告げた。

持ち帰り?何を?

目を丸くしていると、シュライゼは「あ?…いや、いいわ」とお茶を濁した。何の話しだ。


「ごめーん!守衛にチップの量をいつもより大目にせびられちゃって。

 ってか、ほんとに黒将軍連れてきちゃったのね」

黒髪の美女は明かりをかざして上から下までしげしげとユスランを見ると、気をよくしたシュライゼは親指を立てて自慢げに返した。

「オレに不可能なことなんてないの」

「はいはい、そだね。さ、ここじゃまずいから早く行きましょ!」

「そこ流す?結構大変だったんだけど。言っとくけどメイリンちゃん、こいつの物静かって受け売りは幻想だから。暴れるわ、口は悪いわ…」

「入学式早々、拉致られて暴れない方がどうかしてますよ」

「はいはい、二人とも喧嘩しないの。早く早く!教官の見回り来たらマズいから」

そんな掛け合いをしながらメイリンと呼ばれた黒髪美女に強引に腕をとられたため、仕方なくユスランや自分もついて行くこととなった。



そういえば、今まで同じくらい年の女の子たちが楽しげに笑う声をあまり聞いたことがなかった。

ぼんやりキャッキャと騒ぐ声を耳に感じながら、離れたところで一人、水底に揺れる月を眺めていた。

湖はとても透明度が高く、月に照らされた部分はその奥に沈んだ木の根の影が薄ら見えるほどだ。

静かな夜も好きだが、騒がしいのも悪くないかもしれない。


背後から手持ちランプの仄かな明かりが照らされ、人の気配を感じたので首だけで振り返ると、例の黒髪の美女が立っていた。

身長は自分と同じくらいだから女性にしては高い方だろう。


「やぁ」と片手を上げて挨拶されたので、軽い会釈で返した。

自分はどう見ても田舎者だが、彼女は対照的に都会的で、体型の凹凸を意識した大人びた服装をしている。

何話していいのか言葉を探していたが「ご一緒していい?」とメイリンの方から話しかけてきた。返答の隙も与えず手持ちランプを置き、すぐに隣へ腰を下ろした。

外見は相当大人びて見えるが、ニコッと自分を見上げる表情を見ると、そうでもないのかと思う。


向こうに目をやるとシュライゼとユスランは後の二人とやり取りをしており、会話の内容までは聞こえてこないがすぐに終わるような雰囲気がなかった。

あまりこういう場になれていないから正直、早く帰りたいのだが。


「あの学校にはあなたみたいなかわいい男の子もいるのね。お名前は?」

そんなに童顔だと自覚していなかったが、口ぶりから多分相当年下だと思われているようだ。

メイリンは美しい笑みを浮かべて話しかけてきた。


夜の闇とマッチした漆黒の髪と瞳で、ランプの陰影がそう見せているだけかもしれないが、軽い口調とは裏腹にどことなく不思議な魅力がある。

『王宮』の中で働く侍女も美人が多かったが、そのレベルを超えた美しさだ。間違いなく自分が今まで出会った女性の中で一番かもしれない。

彼女の視線を受けて、自分が凝視していたことに気付くと、何かもやもやとした気分で目をそらした。


自分は男の中で男として育ったから、正直同世代の女性に変な緊張感を覚えるのかもしれない。

とりあえず「リュカ」とだけ答えるとメイリンは「かわいい~!」と身もだえはしゃぎだした。

「リュカ君って言うんだ。学内じゃ最年少なんじゃない?あなたみたいな美少年初めて見た!」

……なんだ?このはしゃぎっぷりが見た目と差があり過ぎて、どう接していいのか更にわからなくなった。

「シュライゼやユスラン様と一緒に来たってことは、あなたも『王宮』住まいなの?」

と大きな瞳で返してきたので、コクリとうなずくや否や、突然メイリンは「うっそぉ!すごーい!」とピョーンと立ち上がって抱きついてきた。


女って、こういうものなのか。それとも彼女の性格なのか。これは拷問か。


誰かに助けを求めたくても、今は彼女と二人きりだ。

更に手加減なく抱きつかれているので息苦しい。

あまりにも唐突に引き寄せられたため、体を硬直させたまま突き放すタイミングを失ってしまった。


「リュカ君、結構華奢なのね」

体が密着しているので、肩幅や腕まわりを悟られるのは当然だが、逆にメイリンの胸の大きさまでわかってしまう。

「………」

今日ほど自分から女であることを暴露したい心境に駆られたことはない。

「どうしたの?」

しかも、顔が近い。妖艶な笑みがランプの明かりに揺れる。

至近距離でじっと見つめられる居心地の悪さに目を逸らすと、

メイリンは「かわいい。緊張してるの?」と更に怪しげに微笑み、細い指が自分の頬を撫でてきたためドキッとした。

冷たくて繊細な指。

剣を持つ自分のゴツゴツした手とは雲泥の差だ。

「夜だからはっきりとしないけど、綺麗な色の瞳」

甘い声で吐息まで感じるほど距離に、身動きが取れない蜘蛛に囚われた餌の気分を味わう。

「とってもかわいいお人形さんみたい」

厚い唇が半開きになり、頬を撫でる指先が顎にスライドした時、とてつもなく妙な気配を感じたので反射的にメイリンを強く突き放した。


「……ちょっと待て」


恥ずかしさいっぱいに目を丸くした自分に対してメイリンは、

「この私の誘いを断るなんて、変わった子。キスくらいしてあげようと思ったのに。初めてだわ」と聞こえるか聞こえないかの音量で告げた。

キスくらい、してあげる?

冗談じゃない。

ガッカリした様子などさらさらなく、むしろ淡々と返されたため、完全にもてあそばれていることに気付いて少し苛立ちを感じた。

「驚きだわ。何の経験もなさそうな子初めて見たかも。純粋で、かわいい。本当にあなたみたいな子もあの学校にいるのね」

見定めるように目を細めるメイリンに嫌気がさして衣服を整えながら言った。

「もう、帰る」

その場から離れようとしたが、メイリンに腕をぐいっと掴まれた。

意外と力が強いことに驚く。

「ダーメ。あなたが帰ると困るのよ。報酬が入らなくなるからね」

「報酬?」

メイリンは微笑を浮かべて、もう一度座って、隣の場所をポンポンとたたいた。

「はい、座って。お願いだから」


無言で抵抗したが、結局またもや強引に引っ張っぱられて座らせられた。

「どうせ朝まで暇でしょ?可愛い美少年に、もういかがわしいことはしないから警戒しないで。お話しましょ」

ね。とウインクして見せたメイリンはとても美しく一人楽しそうだった。


変に騒いで教官に見つかるとまずいし、向こうの二人はなかなか話が終わらなさそうだし、とりあえず待機した方がいいのかもしれない。

シュライゼに文句を言いたい気持ちになったが、今更どうしようもない。最低機嫌が悪いことは伝わるような顔で従うことにした。

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