若奥様は困惑中
今年もよろしくお願い致します。
夢を見た……そう…あのとき大きな木下で……
ああ、そうだ……私……。
私は……
「あのくそ馬鹿管理長め!」
私は勢いよく起き上がった。
とたんだれを頭づきしたようで額をなでる。
「痛。」
その人物が頭を抱えたので思わず見ると頭にピョコンと見慣れたリス耳が……。
「管理長! ちょっとどういうわけさ! 」
私はその人の胸ぐらを思い切りよく掴んだ。
「え、え、あの私はあなたと初対面かと……」
あの飄々とどこか人くった管理長なリス獣人とは似ても似つかぬ落ち着いた素朴な栗色の髪のリス獣人がおずおずと言った。
「あ、ごめん。」
ここ……私の職場じゃない?
しかもこの人は……
私は上を見た。
傘のように広がった大きな木の下にいるようだ。
周りは澄んだ泉……とりあえずは。
「神樹じゃない? 」
見慣れた大樹と違う木に戸惑う。
そうだ……私は……うちの世界の管理長にこの世界の至高の大樹の……
今ひとつ記憶がはっきりしない。
あのアホが間違えて雪に埋もれさしたせいかな……
「あ、あの……私はラタです、至高の大樹の管理人です。」
リス獣人がおずおず言った。
うちの一族の管理長とえらいちがいだな……
「ラタしゃま〜頑張れ〜。」
「モモン、だめよこういうのは自然にまかせないといけないわ。」
で……あそこのきのかげでキラキラと覗いているムササビと例の美女は何なんだろう?
見合いか? 見合いもなにも私、大型ワンコな夫が居るんだけどね。
「あなたはラタトスクの一族特有の2つの黒をお持ちですね。」
リスさんが私を見つめて聞いた。
この世界の男っていうのは大型ワンコだのリス系男子だの草食系が多いんかい。
「たしかに私は神樹……世界樹の管理人の一族だけど二つの黒なんてニホン人なら誰でも持ってるよ。」
私はリスさんを見つめ返した。
え〜ちがうの〜と騒いでるムササビがなんか捏ねくり回したいくらい可愛い。
「ニホン人?」
リスさんが小首をかしげた。
可愛い系男子……なんか嫌だ。
リスしっぽがフサフサなところはいいとしてもさ。
「私は元リス獣人だった一族の末裔なのでほとんどニホン人なんですよ。」
管理長の頭にあるリス耳とフワフワのしっぽになんど騙されたか。
あの謎年齢リスめ。
『ちょっと異世界までいって仕事してきてよ、お掃除得意でしょう?』
あのリスやろうがニコニコと私を泉に突き落とした瞬間まで思い出しちまった。
私はラタトスクの一族で主に神樹の環境整備をしている害虫駆除なんかも専門なんだよね。
あのクソリスがここに送り出したのって神樹……世界樹のためなんだろうけど。
それにしても……ここ甘い気持ち悪い香りがしてるな……
「あ、あの……至高の大樹の化身が二つの黒をもつ乙女を探しその……は、伴侶に……」
ポッっと神官服の上着の裾をにぎって赤くなる乙女系リスさん。
おい、私にはワンコの夫がいるんだよね。
木陰の二人出てきて説明しやがれ。
もっと押すの~ペロペロなの〜ってなんだよムササビ。
「あの、私には夫が。」
あんなのでも愛しい夫なんだよね。
元の世界に帰るとき持ち帰り可かな? それ以前に帰れるのかな。
「気にしません。」
リスさんが私の手を握った。
わーん小動物系乙女困るよ。
それにしても……ここ本当に気持ち悪い匂いがするよ。
ガサガサと音がして誰かがやってきた。
「ラタ様に人妻を押し付けるとはいい度胸だな、アーティンシア。」
戦士な格好をした目つきの悪い黒猫耳の男が黄色い瞳で私をにらみつけた。
「アルシス、至高の大樹のご意思に逆らう気なの。」
美女が木陰から出てきて猫耳に立ちふさがった。
そうなの〜とムササビがしりうまにのって猫耳に睨みつけられて美女の頭の後ろに隠れた。
「ふん、見つけるまでの間に北の蛮族にけがされたのだろう? 聖王ラタ様の聖妃様は清らかでなければならん。」
黒猫が鼻で笑った。
美女がけしきばむ……あなた自分がなにいってるのかわかってるのと叫ぶのにムササビがそうなの〜としりうまに乗る図ある意味ほのぼのとしてうけど……
クソ猫、そんなに清らかが良ければ掃除してやろうかい。
私は神樹の小枝を取り出した。
雪に埋まっていても首に下げてた綺麗なサンゴの枝みたいなネックレスで何かおもいださないかとなんど日に透かしてみたかわからない。
そう、これはこうに使うもんだよね。
私は小枝を変化させた。
私の仕事道具、つまり竹箒に。
「クソ猫、人をけなすのはいい加減にしてもらおうかい。」
私は竹箒をクソ猫の鼻面に突きつけた。
「本性をだしたなアバズレ! 」
クソ猫が爪を出して構えた。
「あんたこそ本性見えてるよ。」
私はクソ猫を睨みつけた。
私は確かにただの神樹管理人だけど黒猫ごときに遅れを取らないとおもう。
一触即発の状態にリスさんがオロオロする。
「喧嘩はやめて下さい。」
リスさんが両手を組んで言った。
あんたは乙女かい。
何も答えず一瞬、リスさんを見てジリジリとお互い動き出した。
パキっと小枝を踏んだ音を合図に竹箒をはらった。
クソ猫が爪でガードする。
出来る……次の動作で勝敗が決まる。
その時甘い気持ち悪い香りが強まった。
泉が泡立つ音がして青白い不気味なミミズのような目のない生き物がうねり出た。
「瘴気!? 」
私は竹箒をそちらに向けた。
クソ猫もくそっまた出やがったと瘴気のほうへ向う。
きちんと掃除もできてないんかい。
あんた至高の大樹の守護者なんじゃないんかい。
名乗られてないけどさ。
「ラタ様。」
美女が乙女リスさんを保護しようとうごいたのを横目にクソ猫と瘴気の固まりを叩きに走る。
竹箒に力をこめて払いのけたのをクソ猫切り刻む。
それをさらに竹箒で散らして浄化した。
「やるな。」
荒い息でクソ猫が笑った。
「あんたもね。」
さすが本職だよ。
私一人じゃどこまで対応できたか……
なんか喧嘩したあとの夕日みたいで嫌だな。
あの甘い嫌な香りは少しおさまったけど……まだある……そうだ、一瞬ここにあがったんだ……それをあの香りが……
「あら……下してしまったのね。」
美女が嫌な笑みを浮かべた。
アーティしゃま?とムササビが見上げた。
そういえば……この人から甘い気持ち悪い香りがしたんだ。
「せっかくまとめて始末して差し上げようと思いましたのに。」
美女がリスさんの額に指を突きつけた。
あ、といってリスさんが倒れた。
急展開だよ、ムササビがラタしゃま〜死んじゃ嫌です〜とリスさんにしがみついた。
「アーティンシア!! 」
クソ猫がいきりたった。
「アーティンシアっていうのがこの身体の主の名前だったわね。」
どこか妖艶に美女(仮)が微笑んだ。
あ~アレか……研修でみたあれね。
「よくもラタ様を!! 」
クソ猫が爪を出して美女にいどみかかった。
アレは……複雑なんだよな……本体さえ消せば……あ~メンド。
「クソ猫、それ倒しても多分また、増えるだけ。」
私は頬をポリポリかいた。
これを察知して至高の大樹がうちの世界の神樹に助けを求めたんだな……
「おほほほ、やれるものならやってごらんなさい。」
美女が手のひらを前に出して触れずにクソ猫を飛ばした。
その後ろでゆらりとリスさんが立ち上がった。
「ラタしゃま、良かったの〜」
ムササビが嬉しそうにリスさんにスリスリした。
「モモン、あなたも新しい世界に行きましょう。」
リスさんがムササビわしづかみにして口を開いた。
甘い気持ち悪い香りのする息をムササビに吹きかけるリスさん。
ムササビが気持ち悪いけど気持ちいいの〜といってトロンとなる。
ポンと音がしてムササビ耳としっぽでマントつきのミニワンピースの茶色の髪をポニーテールにした茶色の目の幼女がすわった目でこっちを見てた。
最終兵器で頑張るの〜という発言が全く変わってないので迫力ないけどね。
「本性があれなんかい。」
その横見りゃクソ猫も怪しい目で立ち上がってるし……
全く……異世界人に面倒なことさせんじゃないよ。
「あなたを足がかりにあちらの世界も我々の手に! 」
美女が叫んだ。
つまり……こういう世界樹を狙う瘴気の固まりにおかされはじめたので専門家がいるうちの世界から呼んだっていうことですか?
きちんと説明しやがれ管理長……嫁うんねんも含めて。
「瘴気なんかいくらでもはらえるんだけどさ。」
せめてもう二三人送らんかい管理長め。
ともかくコイツラを何とかしてアルスのところに戻らないとね。
それから、管理長をしめる。
うん、絶対にアルスと別れるつもりないから。
なんとかしてもらおう。
私は竹箒を構えた。
本当に面倒くさい。
誰かに攻撃させて散らしたほうが楽なんだけどな……本当は。
でも、頑張りますかね……
私の大事な大型ワンコな夫にまたあいたいからね。
駄文を読んでいただきありがとうございます。