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えならず部

作者: 蒼猫

ステキ見つけませんか?

 春です。

 入学です。

 そして、部活動勧誘です。

 私が、部活動勧誘のチラシが貼ってあった掲示板で目についたのがこれです。

「えならず部」というそうです。

 えならずって何て意味でしょうか?

 私、沢白自由さわしろみうは、なんとも心惹かれるのです。

 授業はお昼で終わったので、私は「えならず部」の部室を見学し扉の前で立っているのです。

 でも少し恐いのです。

 変な人がいたらどうしようとか、恐い先輩とかいないかなとか考えてしまいます。

 がんばれ私!

「あれ? 新入生? 見学しに来たの?」

 びっくりなのです!

 いきなり後ろから声をかけられました。

 後ろを見ると太陽の光でキラキラと輝いて黄金色に輝く髪の毛に白い肌に背が高く整った顔の美人さんがいたのです。

「は、はひ! あのここ、えならず部でいいですよへ」

 カミカミなのです。

 恥ずかしいのです。

「じゃあ入って、入って!」

 美人さんに誘導されるままに部室に入るとそこには、大きなリュックが出迎えてくれたのです。

「あの? これは?」

 指を指して私は美人さんに訊ねます。

「ああ、フウだ。おーいフウ! また、寝てるのー?」

 この大きなリュックさんが部長さんなのですか!?

 そう思った瞬間リュックから手が生えてきて立ちあがったのです。

「ああ、お早うアクアちゃん」

 リュックさんが喋っているのです!

「部長。新入生が来ているよ、挨拶。挨拶」

 リュックさんが振り返ると、リュックさんの半分位の大きさ、ショートヘアの可愛い人が現れたのです。

「初めまして。部長の水野風香です。どうぞよ、ろ、し、くー。わぷっ!」

 わわ! 部長さんがリュックの重さに耐えられずに一回転してこけたのです。

「へへ、またやっちゃった・・・・・・あっ」

 部長さんに指を指されました。

「ステキ見つけた!」

 へっ? ステキどこですか? どこですか?

 私は辺りをキョロキョロと見渡しました。

 その時カシャッという音が鳴りました。

 音のする方向を見ると部長さんが手にカメラを持っていたのです。

 すると部長さんが立ちあがって私に色々質問を始めたのです。

「ねぇねぇ名前は? 好きな食べ物は? 住んでいるところは?」

 ま、待って下さい。そんなにいっぺんに質問されても・・・・・・。

「ああ、えっと、えっと、あのその」

「フウ? なにやってんの?」

「ああ桜ちゃん! ステキで可愛い新入生! 新入生だよ!」

「とりあえず落ち着け。この子困ってるじゃない。えっと名前は・・・・・・」

「あの、沢白自由です!」

「沢白さんね」

 わー大人っぽいです。

 それにこの人も美人さんです。

 黒くて長いさらさらした髪に、モデルさんみたい体型でドキドキします。

「初めまして大空桜です。フウとは幼馴染です」

「は、はりめまして」

 また噛んじゃいました。

「で、私が神無月アクア。こんなナリだけど、日本人だよ」

「アクアちゃんは、ハーフなんだよ。ステキだよね~」

「は、はじめまして」

 今度はちゃんと言えました。

「ところでこの部活は何をする部活なんですか?」

 私がそういうと、部長さんが両手を上げて答えてくれました。

「この世のステキを探す部活だよ!」

「素敵ですか?」

 良く分からないです。

「そうこの世にはね、まだ僕達が知らないステキがいっぱいあるんだよ! それをいろんな手段を使って見つけて、記録していくのが僕達の使命なんだよ!」

 なんか後ろに炎が見えるのです。

 それにやっぱり良く分からないです。

「あの、具体的にどういう活動をしているんですか?」

 すると大空桜先輩が答えてくれました。

「そうだな~。実際に体験するのが一番分かりやすいかな? まだ全員揃って無いけど・・・・・・」

「あー、おとっちは、委員会の仕事で遅れるって聞いてたぞ」

「それなら書き起きしておけば大丈夫だな。場所は・・・・・・」

「ハイ! ハイ! ハイ! 桜展望台が良いです!」

「落ちつけフウ。まあ妥当かな」

 なんだか変な部活です。

 でも皆楽しそうでちょっとだけ興味が湧いてきました。

 私は三人の先輩について行って桜展望台なるとこに来ました。

 そこには、空を蔽うほどの桜が無数に咲いていて、とても綺麗です。

 でも綺麗ですけど、これが素敵なのか私には分からないのです。

 すると、部長さんが大きなリュックの中から何かを取り出そうとしています。

 なんですか? 木で出来た何かを組み立てています。

「あの? それなんですか?」

「これ? イーゼルだよ」

「いーぜる?」

「あれ? イーゼル知らないの?」

「はい」

 部長さんとの間に妙な空気が流れています。

 その時、大空桜先輩が後ろから話しかけてきました。

「イーゼル。絵を描く時の道具だよ。これに画板なんかを立てて描くと安定するんだ」

「えならず部って本当に何をする部活なんですか?」

「うーんそうだな・・・・・・とりあえずフウを後ろで見ていれば分かるよ。きっと」

「はあ・・・・・・」

 というわけで部長さんの後ろで部長さんのやっている事を観察してみる事にしてみたのです。

「見るの? じゃあハイ椅子」

 そう言って部長さんは、折りたたみ椅子を用意して下さいました。

 えならず部って美術部何でしょうか?

 でもそれなら掲示板に張り紙がありました。

 そう考えつつ部長さんの描いている絵を見ていく事にします。

 部長さんが鉛筆で絵を描き始めています。

 素人の私から見てもとても上手いです。

 まるで、その時間を四角い紙に収めている様なそんな絵です。

 何でしょうか?

 見ているとこっちまで温かい気持ちになります。

「あの?」

「うん? なーに、みうちゃん」

 はうっ!

 名前で呼ばれてしまいました。

 びっくりです。

「えならず部って美術部なんですか?」

「違うよ」

「えっと、じゃあどういう部活なんですか?」

 それを聞くと部長さんが少し考えた後、リュックの中から何か色々な物を取り出しました・

 透明で碧い石、透明なガラス瓶の中に入ったドライフラワー、写真、それに懐中時計。

 本当に色々な物が出てきます。

「これもステキな物達だし、今もステキは僕達の周りを漂っているんだよ」

 どういうことでしょうか?

「はい、これあげる」

 部長さんがくれたのは白い包装紙に包まれた空色の真丸い飴玉です。

「日にかざしてみて、みうちゃん!」

 言われるままに日にかざすと空色の飴玉が太陽の光でキラキラ光っています。

「そして口の中に放り込んでみて」

 言われたとおりに飴玉を放り込むと、口の中に爽やかな甘い味が広がっていきます。

「今僕達は、空を口に含んだんだよ」

「空ですか?」

「そっ。空。みうちゃんは、今この時間退屈?」

「良く分からないです」

 部長さんはそれを聞くといきなり寝そべりだしました。

「あはは、みうちゃんも一緒に寝そべってみなよ」

 また言われるままに寝そべってみました。

「目をつぶって耳を澄ましてみて」

「はい」

「聞こえる?」

 そう言われて周りの音を聴いていくと、そこには親子の声だったり、鳥の鳴き声だったり、そよ風が木々を抜ける音が私の耳の中に入ってきました。

「ステキだと思わない? 今僕達は今しか聞こえ無い、感じれ無いステキ達に囲まれているんだよ」

 なんとなく私は部長さんの顔を覗くとそこには満面笑顔の部長さんの顔がありました。

 素敵達に囲まれている・・・・・・。

 その時強い風が吹いて目を閉じてしまいました。

 風が収まり目を開けると、

「ステキです・・・・・・」

 目の前の風景に目を奪われました。

 舞い散る桜の無数の花びら達が太陽の日差しを受けてまるで桜色の空飛ぶ絨毯の様に私達の目の前を過ぎ去っていったのです。

 そしてその瞬間私は、理解しました。

 えならず部。

 ステキ探しませんか?

 それがどういう事なのかを。

「えならずだね、みうちゃん!」

「えならず?」

「なんとも言いようがないほどステキって意味だよ」

「えならず・・・・・・はい。えならずです」

 何でしょうかとても温かい気持ちが溢れて来て涙が・・・・・・。

「どうしたの? みうちゃん?」

「違うんです。別に悲しいわけじゃないんですけど涙が止まらないんです」

「それはきっとステキが溢れて来ているんだよ」

「ステキですか?」

 その時泣いている私の顔を笑顔で部長さんは写真に収めた。

「ステキ見つけた」

 恥ずかしいです。

 でも分かりました。

 えならず部。

 それは、本当に、本当に短い今。

 世界から見たら気付かないほどの短い時間。

 でも確かに存在している時間。

 その一瞬、一瞬をまるで機械時計を作る様な繊細さで拾い集めていくような仕事。

 この世の在りとあらゆるステキを見つける為の部。

 それが、えならず部。

 そして今この瞬間私の中で何かが動く音がしたのです。

 この部活で私はどんな経験をするのかは分かりません。

 でもそれはきっと、えならずだと思うのです。

「あの部長・・・・・・」

「フウで良いよ! みんなそう呼んでいるから!」

「は、はひ!」

 はうっ。

 フウ先輩の笑顔眩しいです。

 私は他の先輩さん達がどのように過ごしているのか気になって辺りを眺めて見たのです。

 大空桜先輩は、屋根のあるベンチで読書をしています。

 桜の花びらが舞っていて美人な大空桜先輩がもっと美人に感じてしまいました。

 神無月アクア先輩は、子供達とアグレッシブに遊んでいます。

 時々、太陽の光でアクア先輩の髪がキラキラ金色に輝いて、まるで絵画で天使とマリア様が戯れる様なそんな風景がそこにありました。

「ステキ見つけた!」

 そう言ってフウ先輩は、今度は絵を描き始めした。

「今度はみうちゃんが、ステキを探す番だよ」

 私に微笑みながらフウ先輩はそう言いました。

 私に見つける事が出来るのでしょうか?

 フウ先輩みたいに。

 私はフウ先輩と離れて、桜展望台を散策し始めました。

 でも私には、フウ先輩みたいにステキを上手く見つける事が出来ません。

 一生懸命探してもステキってなかなか見つからないんでしょうか?

 でもきっと見つかると信じて探してみるのです。

 それに、フウ先輩が言った様にここにはステキが溢れている様な気がするから。

 それからしばらく探し回ってみましたが探す事が出来ませんでした。

 どこかに隠れているのかと思って木の影や、地面を眺めて見ます。

 でも蟻さんの大行列がただひたすら並んで仕事をしているだけでした。

 その中に一匹仕事をしない蟻さんがいました。

 こんな話が思い出されます。

 実は蟻さんの2割は働かない蟻さんでその2割が何の役割を持っているかは謎なんだそうです。

 働き蟻なのに働かないってなんか矛盾している気がします。

 もしかしたらこの蟻さんはステキを探しているのかもしれないです。

 それ以外ならこの蟻さんはなにをしているのでしょうか?

 なにか監督をしている、お偉い蟻さんなのでしょうか?

 それとも私みたいに、ただどんくさいだけの蟻さん何でしょうか?

 私は蟻さんを元の場所に戻していったんフウ先輩の所へ帰りました。

 そこには、他の先輩達が集まっていました。

 桜先輩が話しかけてくださいました。

「どうだった? 沢白さん」

「はいこの部活の意味はわかりました。でも、」

「でも?」

「私あんまりステキを見つけるの上手くないみたいです」

 こんなので部活やっていけるのでしょうか?

「最初は誰でもそうだよ」

「えー僕はこの世にはステキはいっぱいあると思うよ!」

「それはフウが特別なだけだ!」

 そういって大空先輩がフウ先輩にチョップをしています。

 ちょっと微笑ましい感じです。

「じゃあさ! 下の茶屋でお茶しよう!」

「今のどこにじゃあに、係る部分があった?」

「良いじゃないか! それに桜を見ながらのお茶もステキだよ!」

「ああ、分かった、分かったフウ」

 というわけで何故かお茶屋さんでお茶を飲むことになりました。

 良いのでしょうか?

 でも、とても良い気持ちです。

 そよ風が桜の花びらとワルツを踊っている様で、それを見ながらのお茶というのもおつな感じがします。

 それに桜の花の香りもふわふわで太陽の日差しはぽかぽかでとても、ほんわかします。

「いやー本当に良いもんですな! 皆で何かするのは!」

 フウ先輩がそう言うと皆もそれに静かに賛同しています。

「あ!」

「どうしたの? 沢白さん?」

「今の時間とてもステキです」

 するとフウ先輩が微笑んで話しかけていました。

「やったね! みうちゃんステキ見つけたね!」

「はい! ステキ見つけました」

 そうか。

 そう言う事なんですね。

 ステキって探す物じゃなくて見つける物なんですね。

 お茶屋さんでまったりとした時間を過ごしていくと日も落ちて夕方になりました。

 その時、フウ先輩がいきなり立ち上がって、私の手を引っ張り始めました。

「どうしたんですか?」

「ステキは待ってくれないんだよ!」

 言われるままに私は部長の手引きで先ほど大空先輩が本を読んでいた屋根のあるベンチの所まで誘導されました。

 他の先輩達も私達についてきています。

 階段を上ってそこへ行くとそのベンチの先には街を一望できる展望台がありました。

 夕陽の朱い光に照らされて一面、朱に染まる街と、その先にある海も朱く染まって街が全て朱に染まっています。

 それは、とても形容しがたい光景で全てを飲み込む朱が、私の心も染める様なそんな光景です。

「ステキです・・・・・・」

 そうするとフウ先輩が今度はカメラと三脚を準備して私達を並ぶように促します。

「じゃあ今日の活動と、ステキに感謝して一枚撮るよ!」

 タイマーをセットして、フウ先輩が入って来て写真のシャッター音が鳴った時、その日の活動は終わりました。

 その日、私は今まで感じた事の無い充実感を感じていたのです。

「さーて、じゃあ解散帰るよ!」

「あの!」

 がんばれ私。

「明日もこの部活に来ても良いですか?」

 すると皆の顔が笑顔になって私を見ました。

「勿論! ようこそ、えならず部へ」

 これが私のえならず部入部の日の出来事でした。

 これからどんなステキが待っているのか私には分かりません。

 でもきっとそれは、とてもステキな事なんだと思います。

 いまは働けない蟻さんの様な私ですけどきっとステキを見つける事が出来ると思います。


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