幻の語りーー飛鳥伝書
確かに完璧な計画だった。
風一郎は簡単に祭壇を破壊した。
意外な簡単だった。
しかし、
計画の通りように光明頂に赴く途中に、
小雪からの“飛鳥伝書”が来た。
こう書かれていた。
「一郎
ずいぶん、お久しぶりですね。
ずっともう一度一郎に会って話したいと思っていたが、
今、見れば不可能でした。
体内の毒が廻った。
この便りが届いた時に、
私はもうこの世にいないかもしれない。
人生の最後の時に、
この小屋で一郎と一緒にいたい」
まさか絶命書と思わなかった。
風一郎はそれを見ると、
もはや胸にたぎる小雪への思いをおさえきれない。
世間の一切を忘れてしまった。
小雪の小屋に飛んでいった。
小屋は非常に静かだった。
長い年月人は住んでいない様子だった。
罠だ?!
騙された!
師父と合流させたくないのだ!!
一瞬に風一郎はそれを意識した。
熱い頭も冷えた。
「僕は大馬鹿だよ!
もしこの魔尊を滅ぼす絶好のチャンスを逃がしたら、
自分を許さん」と、
自責しながら、
急いで光明頂に赴く。
寅の刻が過ぎて、
崑崙山の山麓に着いた。
時間がない。
さっそく山登りを始めた。
卯の刻の前、
光明頂に近づいた。
突然、
蛇状の槍を構える巨人が現れた。
宿敵の暴君だ。
吹きすさぶ風の中、
月光の下で睨み合う2人だ。
「風一郎、ここを通さんぜ」
「生きたいなら、退け!」
と、風一郎は励声叱咤した。
「俺を倒してみろ」
と、暴君に無視された。
風一郎は暴君に迫っていく
「僕に勝っていると思うか!」
確かに、
暴君は勝つ自信が全然ない。
長い年月の間に、
交戦は数十回あったが、
勝ったことは一回しかなかった。
その時は、
風一郎は重病中だった。
しかし、魔尊は命じた。
「もし風一郎を通したら、
そいつを殺すぞ」
風一郎より魔尊のほうが怖かった。
暴君は
「死ね」
と、叫んで風一郎を槍で突き刺した。
その力は、
山をも充分貫通できるほどであった。