三話
玲視点 6月4日午後4時
「本っ当にごめん!」
放課後。俺は今三野に頭を下げられている。
「……どうしたんだ?」
「お願いだから、今日一日だけ彼氏の振りをして!」
突然そう言われても、困る。
なにせ俺にはかほがいるのだ。
「理由は?」
「今、あたし、ストーカーにあってて……。でも、この前そのストーカーとお話して、ついそこで彼氏がいるって言っちゃったの……。そしたら、会わせろって……」
……ストーカーとお話ってどういうことだろうか。
図太いというかなんというか。
「それで、さ……他にそんなこと頼めるの、狩谷君くらいしかいなくて……。お願い!」
……割と三野はほかに仲の良い男子もいた気がするが。
だけど、俺の取り柄と言ったらお人好し位だ。
「ああ、わかった」
「本当!? ありがとう。じゃあ今すぐ来て!」
「……今すぐ?」
それじゃあ、かほと連絡が取れない……まあいいか、かほもそれくらいはわかってくれるだろう。
俺は鞄を持って教室を出る。
……そういえば、かほ以外の女子と出かけるのは初めてかもしれない。
「それじゃあ、そこの喫茶店に行こうか。ストーカーが待ってるから」
……ストーカーが待っているって、やっぱり何か変な気がする。
「分かった」
「それじゃあ私のことは佳乃って呼んで。あ、手繋いでいくよ」
……なんか今更だが怖くなってきた。
かほ、いないよなぁ……。
俺たちは手を繋いだまま、学校の近くの喫茶店に行く。
「え? あれ平竹さんの彼氏じゃ?」
「うわぁ浮気だ。あんなに可愛い子なのにねぇ」
「サイテー!」
そんな噂話の声が聞こえてくるが、気にしない、気にしない!
かほ視点 6月4日午後4時30分
「玲君、玲君ーっ!」
おかしい。
どこを探しても玲君がいないのだ。
いつもの待ち合わせ場所とか、教室の中とか、探してみたのだがどこにもいない。
まさか……浮気!?
ううん、玲君がそんなわけないよね。
私は一応いつも持っているナイフをいつでも取れる位置に置いておく。
ん? なんか周りが騒がしい。
「え? あれ平竹さんの彼氏じゃ?」
「うわぁ浮気だ。あんなに可愛い子なのにねぇ」
「サイテー!」
……え!?
私の目の前で、玲君と三野さんが手をつないで歩いている。
「玲、ちょっと急ごう」
「分かった、佳乃」
しかも名前呼び……。
どうして? なんで?
許さない。絶対に許さない。
殺してやるっ!
絶対、殺してやるっ!
私はナイフを手に持ち、玲君と三野さんに見えないようにあとをつける。
学校にいる間はダメ。学校を出て、喫茶店の前の大通りに出たら、そしたら……。
玲君と三野さんを殺したら、私も死ぬんだ。
だから捕まらない。怖くないよ、玲君と一緒に死ぬんだから……。
玲君と三野さんは手をつないだまま大通りに出た。
今なら、今しかないよ……。
心臓が早鐘を打つ。腕には鳥肌が立っている。心臓が口から飛び出そうだ。
「……玲君っ!」
私が声をかけると、二人は振り向いた。
しっかりナイフはかまえている。
「…………かほ!」
「……平竹さん!?」
「絶対、浮気なんてしないって言ったのに……嘘つき、死んじゃえっ!」
「危ないから、そのナイフを下ろせっ!」
「平竹さん、やめてっ!」
何も聞こえない。何も見えない。
私はただ無我夢中にナイフを振り回す。
「いやっ!」
グサッ、と音がした。
振り回したナイフが三野さんの腕にあたったらしい。
血が流れている。
……まだまだ、こんなんじゃ許せない。
先に、三野さんから……。
「私の玲君に手を出すなんて、許さないんだからっ!」
うずくまってる三野さんに、ナイフを振り下ろす。
「……やめろっ!」
三野さんと私の間に玲君が入ると、私のナイフを素手で止めた。
「……玲、君……」
玲君の手は真っ赤になっている。
「俺が好きなのはかほだけだ、ごめん……」
「嘘。嘘だよ。無理してるって知ってるんだから……」
「そんなことない!」
玲君は強い口調でそう言うと、私の手からナイフを奪い取った。
「……かほは俺の事束縛しすぎで、迷惑に思うこともある。でも、それだけ思ってくれてるってことだから……。俺は、かほのことが大好きだ」
「私も、大好き」
玲君はナイフを格好よく投げ捨てると、私を抱きしめた。
「束縛するのも、愛だと思うんだ」
玲視点 6月4日 午後5時
「玲、ちょっと急ごう」
「分かった、佳乃」
三野が早足になる。
そう言えばさっきから寒気がするんだが……気のせいだよな。
俺と三野は手をつないだまま大通りに出た。
「……玲君っ!」
その時、背後から声をかけられた。
……この声は。
「…………かほ!」
「……平竹さん!?」
かほはナイフを持っている。何をするつもりなのか……。
「絶対、浮気なんてしないって言ったのに……嘘つき、死んじゃえっ!」
「危ないから、そのナイフを下ろせっ!」
「平竹さん、やめてっ!」
かほはナイフを振り回し出した。
そういえば、浮気した時のためだよ、とか言って持っていた気がする。
って、それどころじゃない!
「いやっ!」
グサッ、と音がした。
かほが振り回したナイフが三野の腕にあたったらしい。
三野の腕から、血が流れ出ている。
ギャラリーから、きゃあとかうわぁといった声が聞こえてくる。
……見ている暇があれば手伝え、と思ったが、この状況に好き好んで入りたい人はいないだろう。いわゆる修羅場だし。
「私の玲君に手を出すなんて、許さないんだからっ!」
うずくまってる三野に、かほはナイフを振り下ろす。
「……やめろっ!」
気が付いたら体が動いていた。
俺は三野とかほの間に割り込むと、かほのナイフを素手で受け止めた。
「……玲、君……」
俺の手は真っ赤になっている。かなり痛い。
「俺が好きなのはかほだけだ、ごめん……」
「嘘。嘘だよ。無理してるって知ってるんだから……」
「そんなことない!」
俺は強い口調でそう言うと、かほの手からナイフを奪い取った。
俺は、かほが好きだ。
本当に好きなんだ。
「……かほは俺の事束縛しすぎで、迷惑に思うこともある。でも、それだけ思ってくれてるってことだから……。俺は、かほのことが大好きだ」
「私も、大好き」
俺は少し格好をつけてナイフを投げ捨てると、かほを抱きしめた。
「束縛するのも、愛だと思うんだ」
もう二度とこんなことはしないよ、かほ。