二話
かほ視点 6月4日午前8時
「あーあ、玲君と離れなきゃいけないよぅ。ぜーったい、クラスでほかの女の子と喋っちゃだめだからね!」
私のクラスは一組、玲君のクラスは四組。
きっとこれは、誰かの陰謀だ。そうに違いない。
「バイバイ、玲君!」
「……ああ、またな」
私はそう言うと自分の一組に入る。
「平竹さん」
「おーい、平竹っ!」
「ねえねえかほちゃん」
教室に入るなりいろいろな人に話しかけられるが、私は無視して自分の席へ向かう。
私は入学してから三か月、玲君以外の生徒と喋ったことがない。
玲君のためだから、これくらい当たり前だ。
私は読書しているふりをして、朝の時間を過ごす。
しばらくすると担任の教師が入って来て、ホームルームが始まった。
授業なんて聞かなくても教科書を読んでおけば大丈夫だ。
……よし、今日の授業中は私の玲君観察ノートの続きでも書こう。
玲視点 6月4日午前8時
「あーあ、玲君と離れなきゃいけないよぅ。ぜーったい、クラスでほかの女の子と喋っちゃだめだからね!」
そんなのは無理だ。
ちなみにかほは一組、俺は四組。
俺はクラスを決めたやつを神と崇めてもいいと思う。
「バイバイ、玲君!」
「……ああ、またな」
かほの姿が見えなくなると、俺はため息をついた。
「お早う、狩谷君」
「おはよう、三野」
気を取り直して教室に入ると、一人の女子に話しかけられた。
三野佳乃子――――確か、今年の5月に転校してきた子だ。
ショートカットにクリっとした大きな目、なかなか可愛い子だと思う。……もちろんそんなことを言ったらかほに殺されるので、言わないが。
三野は俺の周りから友達がいなくなっていく中で、普通に話しかけてくれる。
かほが来たら離れてくれるし、空気の読めるいい子だ。
「ヤンデレの彼女さんは、どう?」
ああ、そう言えばヤンデレと最初に言い出したのは三野だった。
「……全くいつも通りだ」
「そう。大変そうね」
三野はそう言うと自分の机に戻った。
活発そうな見た目に反して、クールな子だ。
「……さて」
俺も自分の机に戻ると、とりあえず寝ることにした。
……かほのメール攻撃で、最近睡眠不足気味なのだ。
そのまま授業中も寝てしまい、結局起きたのは昼休みだった。
……ちなみに、かほが起こしてくれた。
「さ、一緒にお昼ご飯、食べよ!」
俺はかほに見えないようにため息をつく。
「……そうだな」
かほ視点 6月4日 午後1時
四時間目終了のチャイムが鳴ると、私は四組にダッシュする。
お昼ご飯は、どこで誰と食べてもいいのだ。
四組に入ると、玲君は机に突っ伏して寝ている。
可愛いなぁ。
「さ、一緒にお昼ご飯、食べよ!」
私は玲君にそう声をかける。
「……そうだな」
まだ寝ぼけている玲君を引っ張って屋上に向かう。
今日は晴天。きっといい気分でお昼ご飯を食べれるだろう。
「ねえねえ、今日玲君のためにお弁当作ってきたんだ、食べて!」
「……ああ」
ふふっ、玲君の好みは完全に把握している。
屋上に行くと、先輩二人がお弁当を食べていたが、私達を見ると出ていった。
「貸し切りだね。さ、座って」
私はレジャーシートを引いて、お弁当の準備をする。
「玲君の好きな唐揚げとエビフライ、入れたの。手作りだよ!」
「ありがとう……」
「ほら、あーん♪」
私は唐揚げを箸で掴むと、玲君の口へ運ぶ。
「美味しい?」
「ああ、美味しい」
「よかったぁ、明日から毎日作ってくるね!」
よし、頑張ろう!
玲視点 6月4日 午後1時
俺はかほに連れられ、屋上へ向かう。
誰だよ、お昼ご飯を食べるときは自由っていう校則作った奴!
「ねえねえ、今日玲君のためにお弁当作ってきたんだ、食べて!」
「……ああ」
屋上には先輩が二人いたが、俺達を見ると出ていった。
……どんな噂になっているのだろう。
「貸し切りだね。さ、座って」
かほはレジャーシートを引いて、お弁当の準備をする。
「玲君の好きな唐揚げとエビフライ、入れたの。手作りだよ!」
なんでかほが俺の好みを知っているのだろうか。
「ありがとう……」
「ほら、あーん♪」
……ものすごく恥ずかしいのだがどうすればいいのだろう。
俺は我慢して、かほの箸から唐揚げを食べる。
「美味しい?」
「ああ、美味しい」
これは本当に美味しい。さすがかほだ。
「よかったぁ、明日から毎日作ってくるね!」
……美味しいが、それは困る。