祭り特派員 4
「あーつーいー……」
ある一軒家、長い髪をアップでまとめた女性が、団扇片手に廊下を歩き台所へ向かった。
「確かー、まだスイカがあったはずー」
目的の冷蔵庫前に到着、冷気を漏らしながら開いて中を覗くが、
「あーれー?」
目当ての物は、見つからなかった。
「うー、無いとなると余計欲しくなる」
その時、
「いってきまーす」
玄関の方から声が聞こえ、女性は思い付いた。
「あー、ちょい待ちちょい待って」
出掛けようとしていた少年を止め、玄関へ顔を出す。
「ついでで良いから、帰りに八百屋でスイカ買ってきて」
「ついでなのは当たり前だけど、スイカな。半分か?」
「四分の一カットので良いよ」
「はいはい。じゃ、いってきまーす」
「いってらー」
少年が玄関から出ていくのを見送って、女性は居間の扇風機を起動した。
「ふぃ〜……」
団扇を放り投げ、扇風機を一人独占する。
「ひーまーだーなーー」
扇風機を前に震える声で独り言を呟く。
「さっすが夏休み、まぁ今日が偶然予定が重ならなかっただけなんだけど……普段忙しいと、そのギャップがねー」
誰に聞かせるでもなく部屋の中に声を響かせている。すると、
「んー?」
服のポケットに入れていた携帯が着信メロディを流した。
「はいはーい?」
誰からかとか確認せず、女性は携帯に出た。
『あ、すみません、今お時間よろしいですか?』
電話の主は、低姿勢な口調をした男性だった。
「あれ? あなたは去年の?」
『はい、その節はどうもありがとうございました』
「いえいえー、なかなか楽しかったし」
声の変わる扇風機に背を向けて、話し続ける。
『それで……ですね、実は今年もどうかな? とこちらは考えてる所存でして』
「んー? つまり、2年連続で?」
『はい、そういうことなのですが……いかがでしょうか?』
「ふむー……ま断る理由はありませんけど、2年連続とか良いんですか?」
『こちらでは別に、無かった事例ではありません。ただ、願わくば別の方が良いのですけどね』
「あ、じゃあー、うちの弟とかどうです? ルールとか教えられますし」
『それは願ってもいないことですが……よろしいのですか? ご本人の意志は……』
「なら会いに行って直接聞いて下さい。今さっき出掛けたとこなんで」
『えぇ!? し、しかしですね』
「帽子を被って、多分同い年ぽい女の子と一緒に歩いてると思いますんでー」
『はぁ……わ、分かりました。探してみます』
「はーい、ではではー」
着信を切ると、再び扇風機に向き直った。
「あ」
そして今さら、気付いた。
「帽子被ってる人なんて沢山いるよね。それに学校は軒並み休みだから男女ペアなんて珍しくないし」
必ず自分の弟にたどり着くとは限らない、と。
「んー……ま、いっか」
もし声をかけられたのが、弟じゃない誰かでも、請け負ってくれれば別に言いわけだ。
「だからなんにも問題なーし」
携帯をポケットに戻して、先ほど放り投げた団扇を拾う。
「でも……2年連続、かー」
顎の下に団扇を当てて、思考する。
「結構楽しめたしなー、去年。だったら別に……でも違う楽しみ方ってのもあるし…」
うーん、と悩み考え抜いた結果。
「よーし……スイカ来てから結論出そーっと」
op その3