∮-84、 ★姉妹
「あの国もついに終わりを迎えるらしいな、ユミフェル」
「えぇ。近い内に侵略の機会も廻ってきましょう
――お可哀想なお姉上様、と、微笑みながら、横たわる男の上で腰を上下に振るう私は、ベネディールの女王であり母でもある女に、砂の国の王の玩具として売られた。
幼い頃から、それこそ生まれた直後からあの国へ追いやられた姉と共に神殿で育てられた私は、同じ男性を父に持つ姉であるヒトを血は繋がっていようと他人だと思って生きてきた。
それはこのジャハールに売られてきた当初も思っていたことだが、それがどういう事だろうか。
最近富に胸の奥が痛む。
今もこうして睦み合っている私の胸の奥がヅキヅキと鋭い痛みが走っている。昨夜などはあの気丈な姉が血の涙を流しながら、怨嗟の言葉を吐いている夢を見た。
人を呪わず、妬まず、ましてや憎しみも抱かなかった姉が、狂気に満ちた表情で嗤っていたのだ。
――マリーシア・レナ・ウェルザ=ベネディアス。
母国に於いて人でありながら人扱いされていなかった私の唯一の姉ともいえる人。
「どうした、ユミフェル。気が乗らないのらば今宵はもう下がってよいぞ?」
その声に、以前の私ならこれ幸いにと下がっていたことだろう。でも、今の私にはそれが出来ない、出来そうにもなかった。
ほろほろと瞳から零れ出す雫は、上半身が裸の王の胸元に落ち、行為で高まった互いの体温をゆっくりと奪っていく。
あの人が死んでしまうのではないか、もう二度と逢えないのではないかと思うだけで、胸が張り裂けてしまうのではないかと思うくらいに私は悲しくなった。
私のその常にない思いの雫にいよいよ興が削がれたのか、王は私を自分の体の上から移動させ、薄い寝衣に腕を通し、腰で紐を縛った。
「ユミフェル、お前ははそろそろ己の立場を自覚をすることを覚えろ。俺は涙で何かが解決すると思う奴が一番疎ましい」
それだけ言うと、王は私を振り返る事すらなく、後宮から出て行った。
これで翌朝には、私は寵を失った女として嘲笑われ、陰湿な嫌がらせが始まるだろう。
ならば。
「ベナーレン」
「――はっ、ここに」
涙を腕でグイッと拭い、唇を噛み締め呼んだ名にすぐ反応した男に私は決意を込めて告げた。
「行くわ。私は私の姉上を救い出して見せる。だから力を貸して。最初で最後の私のわがままよ。だから私に付き合って頂戴」
姉にあり、私になかったモノ。
それと等しく姉になく、私にあったモノ。
もしあの光景が近い未来にあるとするのならば。
「許さないわ、マリーシア。アナタだけが先に逝くなんて」
ジャハールの時の王者・ムルイヌデヒド二世が寵姫、ユミフェル。
彼女の存在がいなければ、後のシェルランド王家の存続はなかっただろうと、後の学者たちは語り、史書は後世に伝えることとなる。
同じ父と母を持つ姉妹は、こうして複雑な歯車に組み込まれることで、数奇な人生を歩むこととなる。
我が愛しの王、ムルイ。
私はあなたに好意を伝えることは叶いませんでした。
けれど、それでも私は確かにあなたの事を私なりに愛そうとしていたのです。
ですからどうか、誰よりも幸せになって下さい
( ジャハールの愛と誇り・第四章/ムルイヌデヒドの愛した寵姫の言葉より一部抜粋)




