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∮-5、 ★初夜

 今日はお妃さまと陛下の初夜の筈でした。

 ですが・・・。


「二ーナ、私は誰。」


 ゆったりとしたナイトドレスをお召しになられ、大きな寝台に腰かけているのは、しっかりと身体を磨き上げ、艶やかな髪には百合の花から特殊な方法で抽出して作らせた香油を馴染ませたお妃様。そのお妃様のご尊顔は、憤りからか、それとも屈辱からか薔薇色に染まっておられました。


 私はお妃様に唯一選ばれ、仕える様にと仰せつかった侍女です。ですのでお妃様の意に沿うようなお言葉を察しつつも、言い難い事実を言わねばなりません。


 侍女とは、傍仕えとはそう言うお役目です。

 例えそれが主の意に反していたとしても・・・。



「陛下に置かれましては、お妃さまはお疲れだろうと、」


「二ーナ、私は私が誰かと聞いたのです。陛下など今は関係ありません。」


「も、申し訳もございません。」


 お妃さまはとてもお厳しい方です。

 甘えなど一切お許し願えません。ですが、形ばかりでも謝罪しておかなければ私は早々に御暇を申しつけられる事でしょう。


 そんな私の下らぬ矜持も保身もお妃様はお見通しだったのでしょう。お妃様はその素晴らしい豊かな髪を背に払いのけ、私から視線を逸らし、一人では広過ぎる寝台に横たわり、手をお振りになられました。


 それはもう下がって良いとの合図でしたが、私は素直に従えませんでした。


 お妃様は長旅を終えられ、本日この国にお入りになられたばかりです。そして本来ならばそのお疲れも癒えぬ内に、初夜を迎えねばならなかったのです。ですがそれらは貴族達の謀によりなくなり、お妃様の母国の独立も事実上の無期延期の先送りとなられました。


 それをお妃さまに知らせるのは、私の判断に任されています。


 ――お妃様・・・、


 お妃様は明らかに目に見えて疲れています。

 お国の報告は今日でもなくとも明日でも良いでしょう。ですが、私のその判断は間違っておりました。


 私は恥ずべく事に全く知らなかったのです。

 我らが故国が嘗てお妃様のお国の人達をどのように扱ったのかを。もしそれらの事実を知っていたとしたら、私はその過ちを犯さなかったでしょう。


 お許し下さいとは言えません。言えるわけがないのです。

 ですから私はその事実を知った翌日から罪の意識を持って生涯お妃さまにお仕えする事となったのです。


 そう。

 あの日、あの瞬間まで。

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