∮-4、 謁見
私を出迎えたのは、侮蔑や嘲笑、嫉みや恨みも隠そうとしない王侯貴族達で、その長とも言うべき国王は、堂々と一人の女性を侍らせ、私を労う事も無く、如何にも面倒だと言わんばかりに他人行儀に接した。
確かに私はまだ国王とは婚儀を挙げてはいない。けれど、婚姻を名目に同盟を望んできたのは、この国の王と貴族だと私は記憶している。けれど、この対応を見るからにそれは偽りだったのだろう。
何処まで我が祖国を莫迦にすれば気が済むのだろうか。
それとも、これはただの単なる大掛かりな余興なのだろうか。
それにしては悪趣味すぎると言うモノ。
「よく来たな。俺がこの国の国王、ヴィルヘムだ。そしてコレが俺の今の所の寵妃のシャーレンだ。」
「よろしくお願い致しますわ。ご正妃様」
媚をふんだんに含んだ甘い声は、何処に行っても同じの様で、正直吐き気を覚えたが、ここで吐くワケにもいかない。むしろ、吐いてしまえばそれを理由に私だけではなく、私の母国さえ莫迦にされる事だろう。
なんとも礼儀も叶ってない、流石は我らが『英雄王』が嘗て下した羽虫の様な属国よ、と。
それだけはどんな事があったとしても避けなければならない。それに、私達が婚姻する事によって、私の国は属国から独立国に戻る事になっている。だからもう二度と属国とは言わせない。
寵妃と紹介された女性は、憐れみと憎しみが入り混じったその鋭い瞳で、私を嬲る様に値踏みしたかと思いきや、クスリ、と、勝者独特の愉悦に満ちた笑みを浮かべた。
その笑みは、とても一国の国王と大国をを支える妃には見合わない。どうやらこの寵妃は本当に『身体』だけ『寵愛』されている、肉体だけの妃らしい。
国王の隣に立つのなら、感情をあからさまに表してはならない。
微かな失望を覚えた私は、一度深く溜め息を吐き、そして毅然としながらも、決して媚も諂いもしない、一国の代表として、対等な返礼をし、挨拶の言葉を口にした。
「初めまして、国王陛下並びにシャーレン様、私がベネディール国の第五王女・マリアにございます。本日より貴国の新たなる民として迎え入れられる事を嬉しく思います。そして生涯を掛け、貴国に尽くす事を、大地と豊穣の女神、そして我が身に流れる血に誓い、ご誓約申し上げます。」
膝は折らない。
私はあくまで祖国の代表としてこの国に嫁ぎ、長年の怨みを果たす為に来たのだから。
慣れ合う事はしないし、無い。
でも、そんな私を嘲笑うかのように、神は私に次々と試練を与えて行く事となるとは、この時の私には知る由も無かった。