∮-43、 ★戦地に咲いた華
名も無き民視点
なお、今回は非常に女性を蔑視と言うか、はぁ?っと、怒り心頭となり兼ねない発言がありますが、言葉の前提としてあるのは「生きるか死ぬかを選べ」と言う事ですので、そこを良く良く理解した上で、まぁ、こんな考えもあるよね?と許容できる方のみお読みください。
もう限界だった。
もうダメかと思った。
つい先日までは贅沢は出来ないがそれなりの生活を送ることが出え来たのに、村の子供が一つの石を山から持ち出した事で全てが狂い始めた。
その基となった子供が山から持ち出した石は、偶然村に商いに来ていた都の商人に高く買われ、その石は商人の手によってまだ年若い強欲な王妃に献上されたらしい。
その事を何処からか嗅ぎ付けたのか、翌日の朝には俺達が住む本当に小さな村は他国の軍によって蹂躙され、妻や恋人、そして幼い娘や姉妹などと言った女と言う女は、それぞれの伴侶や家族の前で無理矢理身体を奪われ、男達は逆らえば容赦なく切り殺された。
何故こんな目に逢わなければならない、何故こんな惨いことが赦されるのだ。この世には神はいないのかと、声の出る限り声高に叫んだ日も今は時の彼方だ。
どうしてこうなった。
何故こんな事になった。
俺達が何をしたと言うんだ。
こんな事を無情な現実の日々の中で考えている内に、一つの考えが頭の中に浮かんだ。そしてそれらは大切な家族を奪われたモノたちの中で真実となっていくのは、それほどの時間は必要としなかった。
べネディールから嫁いできたと言われている、慈悲深いヴィルヘム王の妃。
その妃が村の子供から買い取った商人からその石を買い取らなければ、自分達の村が荒らされることも、愛しい女達を汚されることにもならなかった。
全ては妃が悪い。
妃が憎い。
べネディールの毒婦が憎い。
日に日に高まっていく王妃と言う悪女への恨みと憎しみ。
自分達はこんなにも苦しんでいると言うのに、王都にいるあの女は安全な地で守られ、ぬくぬくと暮らしている。
こんな事が赦されて良いのだろうか。
――否、赦されるわけがない。
がりりっと、もう力も出ない筈の指先で硬い土を掻いた時、その嘶きは村中に木霊した。
漆黒の軍馬に跨り、世にも珍しいあの石と等しい短い髪を無理矢理頭の天辺に一つに結いあげ、女の方腕には重すぎると言われている剣を背中に担ぎ、手には女の腕力では射る事すら難しいと言われている東和大陸渡りの軍弓なる武器を番えている少女。
その少女を守りながらも、少女が騎乗している馬よりも体躯が優れている馬に跨りながら、村を蹂躙していた憎き存在を葬り去っていく3人の若き男達。その3人の男達の中で、1人だけ見覚えのある男がいた。
その男は、村から初めて王宮付きの騎士へと駆けあがった、村で一番の出世株で、村の娘達はこぞってその若い男に恋焦がれていたが、王妃付きとなったとの知らせが村に届くなり、男の事は一人の娘以外である、村中の娘たちの中から消え去った。
その男を唯一忘れていなかった娘が、その男の前で犯されかけていると言うのに、男は娘に見向きもせずに、馬に跨り弓を引いている少女に指示を仰いでいた。
「デイル、貴方は主に歩兵を、ウルグ、貴方は幹部クラスを。そしてアーランド、お前には大将クラスを何が何でも落して貰うわ。生かせ等と手緩いことは言わないわ。でもね」
「『使えるモノは使え』だろ?」
「そう。情けはかける必要はないわ。こいつ等は略奪者なのだから。――行きなさい、そして共に還るわよ!!」
少女は足で馬の腹を蹴るなり、自分を助けてくれない男を茫然と見つめていた娘の身体を好き勝手に弄っていた兵士の急所を弓で射るなり、兵士に襲われ、ショックを受けているだろう娘に対し、凍える様な声で吐き捨てた。
「泣いていれば誰かが助けてくれるとでも思っているのですか。それとも、彼が助けてくれるとでも?
――戦は常に死と隣り合わせです。身体を汚されたくも無ければ、舌を噛み切って死ねばいい。生きたければ身体を差し出せば、ホンの僅かでも時間稼ぎが出来る。それさえ理解できねば、この戦で貴女は生き残れない。」
男に穢されたくなければ、死を選べ、生きたければ身体を売れと言う暴言は、傷付けられ、奪われ、何も手元に残されなかった村の男達、そして自分の心の中に、新たに怒りと言う感情を植え付けた。
何も知らないクセに。
何も喪ってないクセに。
何も見ていないお前に何が判る!!
その怒りを具に感じ取ったのか、少女は唇の端を吊り上げ、満足げに微笑んだ。
それは更に村人たちの心を荒立たせた。
「――てやる、殺してやる」
「あら、出来るかしら?何もせずに指を咥えて愛しいモノ達が蹂躙されるのを見ていただけの腑抜けなアナタ達に、私が殺せるとでも?」
出来るならやってみろ、と村人たちの行動を焚き付けた少女は、そう吐き捨てると、自分を狙っていた傭兵崩れの兵士を目にも止まらぬ速さで背中から抜き取っていた剣で、瞬きの後にあっさりと胴体と頭を切り離していた。
その際に首から噴水の様に吹き上げた血が少女の体に付着したが、少女はそれに何の感情を窺わせることも無く、3人の男達と同様に戦地と化した村を掛けめぐり、二十日の後に、漸く王都から来た鎮圧隊に鎮圧されるまで、戦い続けていた。
王妃様、お許し下さい。
我らは何も知ろうとしなかったのです。
ただただ、我らは噂に踊らされ、貴女様を憎んだのです。
もし、赦されるのであれば。
もし、願いが叶うのならば・・・。
この時の自分達は、後に自分達が大きな後悔を抱える事になるだろうことを知らなかった。
だって、優しいだけじゃ民は守れないもの。
憎まれたって、生きる活路を見出して欲しいの・・・。




