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∮-3、 敵国の地へ

 シェルランドの王国・王都にある王宮は、海と花の都と知られるベネディールから一ヶ月半近く離れている距離にあり、母国には容易には帰れない。しかし、国の威信と利益、積年の恨みを果たす為に彼の国に嫁ぐ自分には、関係のない話であり、距離。


 自分がもし母国の土を踏む日が来るとしたら、それは彼の国の国王や貴族に復讐を果たし、彼の国を母国の属国にした暁にだろう。それまでは何が何でも帰れないし、帰らないと心に決めている。


 舗装のされてない道を、ひたすらガタガタと馬車に揺られながら、物見窓から外を眺めれば、通常であれば青々と風に吹かれながらも瑞々しく穂を揺らす麦が見られない事に気付いた。


 土地は痩せているとは思えない。むしろ母国より肥沃に見えるのに何故なのか。しかしその不可解な疑問はすぐに解けた。


 


 ――なんてこと・・・。

   

 今は生命の月が終わり、緑葉の月。

 本来は緑が至る処で若々しく芽吹き、天を仰いでいる景色が目立つはず。


 なのに


 飢えている。

 ここの国の民は、飢えている。

 だから田畑は至る所全て雑草だらけなのだと判った。


 これでは税も満足に取れないだろうに、王都に近付けば近付くほど、煌びやかで華やいでいる。そしてそんな王都と、国の在り方に吐き気が込み上げてくる。


 どこまでこの国は腐敗しているのだろう。

 こんな国の王に、私は身を捧げ、子を成さねばならないのだろうか。


 知らず知らずの内に扇を握っていた左手に力が入り、扇の柄がミシミシと唸りを上げる。


 確かに私は母でもある女王陛下に命じられ、この国に嘗ての恨みを晴らす為に嫁いで来た。でも、目にも毒々しい貴族たちの装いから見るに、そんな思いよりもっと深く強い怒りが湧きあがってくる。そして私のその強く深い怒りは、そんな貴族をも諌められないまだ顔も知らない王へと向けられた。


「お妃さま、如何なされましたか?」


 そんな思いに駆られていた私に、そっと窺うような声音で私を案じてくれたのは、長く艶やかなブルネットの髪が美しく特徴的な、薄いそばかすが鼻の周りに散っている、二ーナと言う侍女だった。彼女以外の侍女は、私と目も合わせたくないのか、始終下を向き、俯いていた。


 ――なるほどね・・・。


 これから仕えるであろう主人に対してのその態度は、明かに挑発態度と言える。ならば、その願いを私は叶えてやるべきだろう。


 私は唯一私を案じてくれた侍女の名前を聞き、にこりと微笑んだ。


「二ーナ、私の侍女は貴女だけでいいわ。」


 売られた喧嘩はそれとなく買うのが礼儀。

 私は私の言葉に驚き、睨む侍女達に冷えた笑みと眼差しを向け、王族と言う人間の威厳を示し、暗に伝えた。


 私はこの国の色に染まるつもりはないのだと。そして、使えない人間は使わないのだと。










 こうして私の全ての運命と人生、そしてプライドを掛けた生活が静に幕をあげたのだった。

 

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